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第13話 次々と降りかかる難題

 千紗が皇帝セイラスの補佐官としての役割を引き受けてから、宮廷での生活は一変した。側室の一人として平穏に過ごすどころか、日々降りかかる無理難題に追われることになった。補佐官としての仕事は多岐にわたり、貴族同士の争いの仲裁から、外交問題、さらには財政改革まで、あらゆる課題が千紗の手元に回されてきた。



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貴族同士の争いに巻き込まれる


補佐官としての最初の試練は、二人の大貴族が領地の境界線を巡って争っている件だった。領地の境界が曖昧であることから、両家の農民同士が度々衝突し、収穫物の所有権争いにまで発展していた。争いが激化すれば、帝国全体の治安にも影響を及ぼしかねない。


「こんなもの、どうして私のところに回ってくるのよ……。」千紗は頭を抱えた。


彼女はまず、両家の代表者を宮廷に呼び寄せ、争点となっている土地の資料を全て確認した。さらに、現地の役人や農民たちの証言を徹底的に集め、問題の核心に迫った。


数日間にわたる調査の結果、千紗は裁定を下した。


「争っている土地は、半分ずつ分割することを提案します。ただし、互いに税収を共有し、収穫物の取引を保証する協定を結ぶべきです。」


この提案に最初は反発していた貴族たちも、千紗が用意した具体的な収益モデルや公平性の説明に納得せざるを得なくなった。


「宰相ではないのに、ここまで仕事を押し付けるなんて、あの皇帝は本当に性格が悪いわ……。」千紗はぼやきながらも、問題解決に成功したことで一歩前進した感覚を覚えた。



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外交問題への挑戦


次に千紗に持ち込まれたのは、隣国との外交問題だった。隣国の使節団が帝国に対して不当に高い関税を要求してきたのだ。皇帝セイラスはその対応を千紗に一任する形で、彼女にさらなる負担を与えた。


「外交問題なんて専門外なのに……。」千紗は頭を抱えつつも、与えられた役割をこなすために動き始めた。


まず、千紗は使節団が提示してきた条件を細かく精査し、関税引き上げの背後にある隣国の経済的事情を探り始めた。そして、その結果を基に、交渉の場で大胆な提案を行った。


「関税を引き上げる代わりに、貴国に対して一定量の穀物を輸出する優先権を与えることを検討しています。ただし、我が国の産業が被害を受ける場合、関税を再交渉する余地を残していただきます。」


この提案により、使節団は千紗の柔軟な姿勢に感心し、最終的に条件を緩和することで合意に至った。


「私って、いつから外交官になったのかしらね……。」成功した交渉の後、千紗は小さくため息をつきながら自分を皮肉った。



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財政改革の試練


さらに追い打ちをかけるように、帝国の財政改革の話が千紗の机に持ち込まれた。長年の税制の問題や、無駄遣いが多い宮廷の支出を見直す必要があるとされていたが、その作業は誰もが避けたがる困難なものだった。


「これ、本当に私がやるべき仕事なの?」千紗は山のような資料を前に、目を閉じて深呼吸した。


まず、千紗は宮廷の出費の詳細を調査し、無駄な支出を一つずつ洗い出した。そして、必要な経費と不要な経費を厳密に区別し、緊縮財政案を作成した。


「宮廷の宴会費用を半分に削減します。その代わり、農業の補助金を増やすことで、国全体の収益を安定させることを目指します。」


この提案は貴族たちから反発を受けたが、千紗は冷静に反論し、緻密な計算で説得した。


「不要な贅沢を減らすことで、帝国全体が安定します。皆様の協力なくして、この改革は成功しません。」


最終的に、千紗の提案は皇帝セイラスの支持を受け、実行に移されることになった。



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少しずつ高まる信頼


これらの試練を乗り越える中で、千紗への信頼と評価は次第に高まっていった。最初は彼女を若く未熟な補佐官と見ていた貴族たちも、次々と難題を解決する彼女の能力を認めざるを得なくなった。


「千紗様、最近では貴族の間でも評判が良いですね。」侍女エリカが嬉しそうに言った。


「そう言われても、私にはただの厄介ごとにしか見えないわ。」千紗は疲れた顔で苦笑いを浮かべた。


彼女の仕事ぶりは、宮廷内でますます注目を集めるようになり、皇帝セイラスの期待も高まっていった。だが、千紗はそれがさらなる厄介ごとを呼び込む前兆であることを敏感に感じ取っていた――。


「これが終わったら、少しは休めるといいんだけど……。」


千紗の思いとは裏腹に、次なる挑戦がすぐそこまで迫っていた。



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