補佐官として次々と難題を解決していく中で、千紗の名前は宮廷内で急速に広まっていった。最初は彼女を「若く未熟で無理やり補佐官に押し上げられた」と見ていた貴族たちも、次第にその能力を認めざるを得なくなる。千紗は文句を言いながらも、誰も手を付けられない問題に次々と立ち向かい、的確な判断と行動で成果を上げ続けていた。
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千紗の影響力が広がる
ある日の朝、千紗はエリカからの報告を受けた。彼女の提案した財政改革案が、すでに宮廷内の議題の中心となっているというのだ。
「千紗様、昨夜の貴族たちの会合で、皆さんが千紗様の案について話し合っていたそうです。反対派も最初の頃よりはトーンダウンしているとか。」
「それはありがたいけど、正直、まだ油断できないわね。」千紗は冷静に返したが、その胸中には少しばかりの達成感があった。
実際、千紗が提案した改革案は、彼女の実績を裏付けるものとなり、宮廷内での評価を大きく変え始めていた。以前は「商家の娘」と軽んじていた者たちが、彼女を「若くして実力を発揮する人物」と見始めていた。
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貴族たちの評価が変わる
そんな中、千紗は貴族たちとの会談に臨むことになった。財政改革案の詳細を詰めるため、彼女は直接、反対派と向き合う場を設けたのだ。
「千紗様、あなたの案には一部の貴族たちが反発しています。」会談の前、エリカが注意を促す。「特に、無駄遣いを削減されることに不満を抱いている者が多いようです。」
「分かってるわ。でも、彼らが何を言おうと、帝国全体のためには避けて通れないことよ。」千紗は軽く肩をすくめて答えた。
会談の場では、予想通り反発の声が上がった。
「千紗補佐官、あなたの案では、宮廷の贅沢が制限されすぎる。これでは我々の地位が脅かされかねない!」
「税収を削ることで、地方の貴族たちも不満を抱くでしょう。我々の支持を失うのではありませんか?」
千紗は反論に耳を傾けながら、冷静に一つずつ回答していった。
「贅沢を制限するのは、帝国全体の財政を健全化するためです。皆様もご存じの通り、このままでは税収が減少し、長期的には我々全員が苦しむことになります。」
さらに千紗は、改革案がもたらす具体的なメリットを示した。彼女は資料を用いながら、税収の再配分が農業や地方経済の発展を促進し、最終的には貴族たち自身の利益にも繋がることを説明した。
「確かに短期的にはご負担をお願いすることになりますが、数年後には皆様の領地も安定し、収益が向上するはずです。」
その説得力ある説明により、反対派の中でも千紗の案を受け入れる者が増え始めた。
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信頼の芽生え
会談が終わる頃、千紗は一部の貴族から直接声をかけられる。
「千紗補佐官、最初は若すぎると感じていましたが、実際にお話を伺って見方が変わりました。これからもご尽力を期待しております。」
「あなたのような方が補佐官になられたのは、帝国にとって幸運でしょう。」
千紗は礼儀正しく頭を下げたが、心の中では苦笑いしていた。「この人たち、最初は私のことを散々批判してたくせに……。」
それでも、信頼が少しずつ芽生え始めたことを千紗は感じ取っていた。以前は対立していた相手たちが、今では協力的な姿勢を見せているのだ。
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セイラスの意図
その夜、千紗はセイラスに会うため、執務室を訪れた。彼女が入ると、セイラスは満足げな表情を浮かべていた。
「千紗、貴族たちの間でそなたの評価が高まっているようだな。」
「ええ、まあ、少しは信頼してもらえるようになったみたいです。」千紗は軽く肩をすくめて答えた。
セイラスは微笑みながら言葉を続けた。「世の見立て通りだ。そなたは宮廷にとって欠かせない存在だ。」
「またその話ですか。」千紗はうんざりした顔を見せたが、セイラスは気にする様子もなく続けた。
「そなたがこの短期間で成し遂げたことは、誰もが認めるものだ。そして、それがこれからの帝国の未来を支える力となる。」
千紗は内心で頭を抱えながらも、表向きは「お褒めいただき光栄です」と返した。しかし、その胸中では次の厄介ごとが待ち受けている予感がしてならなかった。
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信頼の積み重ね
千紗は宮廷内での信頼を少しずつ積み上げていたが、それは同時に彼女にさらなる責任を押し付ける結果をもたらしていた。それでも、彼女はその都度的確に課題を乗り越え、周囲の期待に応え続けていた。
「逃げられないなら、やるしかない。」
千紗の中に芽生えた覚悟が、次なる挑戦に向けて彼女を支えていた。宮廷内での波乱の日々はまだ続く――。