千紗は、皇帝セイラスからの突然の呼び出しを受けた時点で、嫌な予感しかしなかった。これまでの経験から、「頼み事」と称されるものが大抵厄介ごとであることは分かり切っている。
仕方なく謁見室に向かう途中、彼女の頭には無数の不安が渦巻いていた。「また無理難題を押し付けられるに違いない……それとも、側室たちの仲裁?まさか、外交問題とか?」
案の定、セイラスの開口一番の言葉が予感を裏付けた。
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セイラスとのやり取り
セイラスは威厳たっぷりに微笑みながら言った。「一つ頼み事がある。」
千紗は眉をひそめ、「今度は何ですか?また何かの仲裁ですか?」と半ば呆れながら返した。
セイラスは少し不機嫌そうに答えた。「いや、人事異動だ!」
「げっ!」千紗は思わず声を漏らした。
セイラスは彼女の露骨な反応に眉をひそめる。「露骨に嫌そうな顔をするな!これは栄転だぞ。」
「いっそ、無人島にでも左遷してください。」千紗はため息混じりに毒づいた。
セイラスは微笑みを浮かべながら続ける。「妃になるか、帝国宰相になるかを選べ。」
「はあっ!?前任の爺さんはどうしたんですか?」
「歳だから引退して隠居するそうだ。」
「私も引退して隠居したいです!」
セイラスは真顔になり、冷静な口調で言葉を続けた。「ロバート爺の推薦だ。宰相を引き受けてくれ。」
「あの爺!厄介ごと押し付けて自分だけ隠居だと!?ふざけやがって!」
「声に出ているぞ。」
千紗は慌てて口を押さえたが、内心では全力で拒否する理由を探していた。
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選択肢の押し付け
「10代の小娘に務まると思えません!謹んで辞退を……」千紗は必死に反論を試みた。
セイラスは涼しげに言葉を返す。「そうか、ようやく決心してくれたか。」
「はあっ?」
「宰相を断るということは妃になるのであろう。」
「……どっちもお断りです。」
セイラスは静かに微笑む。「どちらかしか選択肢はないぞ。」
千紗は心の中で悲鳴を上げたが、表情を崩さずに必死に食い下がった。「私が宰相なんてなったら、他の貴族からの軋轢が見え見えです!周囲の反発を考えれば、とても帝国にとって良い決定とは思えません。」
「皇帝の決定だ。文句はあるまい。」
セイラスの冷徹な言葉に、千紗は完全に言葉を失った。どんな理屈を並べても、彼が撤回する気がないことは明白だった。
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決断の行方
千紗は自室に戻ると、布団に顔を押し付けながら声を上げない悲鳴を上げた。「どうしてこうなるの!?なんで私がこんな重責を押し付けられなきゃいけないのよ!」
頭の中では妃になる未来と宰相になる未来が交錯し、それぞれのデメリットが浮かんでくる。
「妃になれば、側室同士のいざこざに巻き込まれるし、皇帝のそばにずっといるなんて絶対に無理……。でも宰相なんて、私には到底務まらないし、貴族たちの反発で絶対に身動きが取れなくなる……!」
千紗は枕を抱きしめながらため息をついた。「無理難題ばかり押し付けてくるこの皇帝、いっそのこと毒でも盛られてくれたらいいのに……。」
しかし、現実はそう甘くはない。翌日には再び謁見室に呼び出され、セイラスの前で再び選択を迫られることになった。
「……宰相で結構です。」
千紗は苦渋の表情で答えた。
「そうか、頼んだぞ。」セイラスは満足げに頷いた。
「(どうしてこうなるんだ……)」千紗は心の中で呟いた。
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新たな幕開け
こうして、千紗は10代にして帝国宰相という重責を押し付けられることになった。貴族たちの反発や、宮廷内の混乱を考えると、先行きが不安しかない未来だったが、それでも千紗は何とか前を向くしかなかった。
「逃げられないなら、やるしかないのよね……。」
彼女の新たな挑戦が幕を開けた――。