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第18話 反発の中での活躍

 千紗が宰相に任命された翌日から、彼女の周囲は明らかに空気が変わった。宮廷内では彼女の能力を評価する声と、商家出身という背景を理由に批判する声が入り混じり、冷ややかな視線を浴びる場面が増えた。特に、彼女を快く思わない一部の貴族たちは、あからさまに妨害の手を伸ばし始めた。



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貴族たちの妨害


「千紗補佐官……いや、宰相殿。あなたには少々荷が重いのではないですか?」

ある日の会議で、一人の貴族が皮肉たっぷりの声で話しかけてきた。


「どういう意味でしょうか?」千紗は冷静な表情で返した。


「若くして宰相になられたのは結構ですが、この国の複雑な事情を理解するには、経験が足りないのではないかと……。」


その言葉に、周囲の貴族たちから薄く笑う声が漏れる。明らかに千紗を挑発し、失言を引き出そうという意図が見え見えだった。しかし、千紗はその挑発に乗ることなく、冷静に答えた。


「確かに経験不足は否めませんが、現状の問題に適切な対応をするための努力は惜しみません。もし私の判断に疑問がある場合は、具体的なご意見を伺いたいですね。」


その一言に、皮肉を投げかけた貴族は言葉を詰まらせた。千紗はさらりと会話を終わらせ、議題に戻る。



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財政問題への取り組み


妨害が続く中で、千紗に最初に持ち込まれた大きな課題は財政問題だった。宮廷の無駄遣いが深刻化し、国庫が逼迫しているという報告が上がってきたのだ。貴族たちはこの問題について曖昧な態度を取っており、責任の所在を押し付け合っていた。


「こんな状況を放置していたら、国全体が衰退するのに……。」千紗は深く息をつき、財政改革に取り組むことを決意した。


まず彼女が行ったのは、宮廷内の支出を徹底的に洗い出すことだった。彼女は侍女のエリカや他の信頼できる補佐官たちとともに、膨大な資料に目を通し、どこに無駄があるのかを一つ一つ確認した。


その結果、不要な宴会や贅沢品の購入に多額の費用が割かれていることが判明。さらに、一部の貴族が税金を横領している疑惑も浮上した。


「これを改善しなければ、次の一手も打てないわね。」千紗はその資料を基に、新たな財政案を作成した。



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貴族たちの反発と対策


千紗が提案した財政改革案は、贅沢品の購入を制限し、貴族たちへの支出を削減する内容が含まれていた。当然ながら、貴族たちからの反発は激しかった。


「この改革案は、我々の生活を脅かすものだ!」

「商家出身の宰相には、宮廷の格式を理解する余地がないのだろう!」


千紗は貴族たちの声を全て聞き流し、冷静に反論した。


「確かに、皆様には負担をお願いすることになります。しかし、この改革が成功すれば、帝国全体の財政が安定し、結果的に皆様の領地の利益にも繋がるでしょう。」


彼女は具体的な数値とシミュレーションを用いて、改革案がもたらす長期的なメリットを説明した。その説得力ある説明に、一部の貴族たちは渋々ながらも同意を示した。


「この若さでここまで冷静に対処するとは……。」ある貴族がぽつりと呟いた。



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次第に変わる評価


財政改革を成功させたことで、千紗への評価は少しずつ変わり始めた。一部の貴族たちは、彼女の判断力と行動力に感心し始め、表立って反対する声は減少していった。


「千紗宰相の提案は、最初は強引に思えましたが、結果を見れば納得できますね。」

「確かに。商家出身とはいえ、あの冷静さと実行力は大したものだ。」


千紗は周囲の変化を感じながらも、内心では複雑な思いを抱いていた。


「評価が上がるのはいいけど、その分、期待も増える。これ以上重荷を背負うのは勘弁してほしいわ……。」



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新たな挑戦に向けて


そんな中、皇帝セイラスから再び呼び出しを受けた。謁見室で待つ彼は、千紗の姿を見ると満足げに微笑んだ。


「千紗、財政改革は見事だった。世はそなたを選んだことを改めて誇りに思う。」


「お褒めいただき光栄です、陛下。」千紗は形式的に礼を述べたが、次の言葉を警戒していた。


「これからも、そなたには大きな期待を寄せている。」セイラスのその言葉に、千紗は予感を的中させた。


「また厄介ごとが来るんだわ……。」


千紗は小さくため息をつきながらも、次の試練に向けて気を引き締めた。彼女が宰相として本領を発揮するのは、これからだった――。



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