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第19話 皇帝との信頼関係

 千紗が宰相として財政改革や貴族間の争いを次々と解決していく中、宮廷内では彼女の能力を疑う声が次第に減少していった。それと同時に、皇帝セイラスとの間に、これまでにない強い信頼関係が築かれていった。セイラスは千紗の提案を積極的に採用し、彼女に多くの裁量を与えるようになっていた。



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セイラスの変化


ある日の昼下がり、千紗はセイラスに呼び出された。謁見室ではなく、宮殿内の小さな庭園に案内されると、彼は珍しく執務机から離れ、リラックスした様子で待っていた。千紗が到着すると、彼は軽い笑みを浮かべて手招きした。


「千紗、少し休憩しながら話をしよう。」


「陛下、また新しい問題を持ち込むための前置きですか?」千紗は半ば冗談めかしながら応じた。


「そう思われるのも無理はないな。」セイラスは笑いながら答えた。「だが、今日はただの雑談だ。」


千紗は少し驚いた様子で座った。「雑談……陛下がそんなことをおっしゃるのは珍しいですね。」


セイラスは庭園の花々を眺めながら言葉を続けた。「千紗、そなたの働きには感謝している。世がこれまでどれほど気楽に執務に臨めるようになったか、そなたには分からないだろう。」


「それはどうも。」千紗は少し照れくさそうに答えたが、すぐに口調を改めた。「ですが、それは陛下が私に仕事を押し付けているからでは?」


セイラスは笑みを深めた。「確かにそうかもしれないな。だが、それでもそなたが期待以上の成果を出してくれることが分かっているからだ。」


その言葉には真摯な感謝と信頼が込められており、千紗は少しだけ胸の中が温かくなるのを感じた。



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信頼の深まり


千紗とセイラスの間でのやり取りは次第に軽妙なものになり、単なる皇帝と宰相の関係を超えた信頼感が漂うようになった。セイラスは会議の場でも千紗の意見を最優先で聞き、貴族たちが反対しても彼女の提案を支持する姿勢を崩さなかった。


ある日、千紗は重大な外交案件についての会議に出席した。隣国との貿易協定の見直しが議題であり、貴族たちの間では意見が二分していた。


「我が国の立場を考えれば、関税を引き上げるべきです。」一部の貴族は自国の利益を主張した。


「しかし、隣国との友好関係を維持するには妥協が必要です。」別の貴族は慎重な姿勢を見せた。


千紗は二つの意見を冷静に聞きながら、自分の考えをまとめていった。そして、場が落ち着くのを待ってから口を開いた。


「両者の意見にはそれぞれ一理あります。ただ、現状では隣国との友好関係を優先しつつ、長期的に自国の利益を引き上げる道を探るべきです。」


彼女は具体的な提案として、関税の引き上げを段階的に行う案を提示した。この案では、隣国に一定の配慮を示しつつも、最終的には帝国の利益を確保することが可能だった。


「これなら双方にとって納得できる形になるはずです。」千紗の提案に、貴族たちは一瞬言葉を失ったが、最終的には賛同する意見が相次いだ。


会議が終わった後、セイラスが千紗に近づき、満足げに言った。「見事だったな。世が何も言わずに済むのは、そなたのおかげだ。」


「陛下の信頼が重すぎるだけですよ。」千紗は軽く笑って返したが、その顔にはどこか達成感が漂っていた。



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思わぬ一言


ある晩、千紗はセイラスに呼び出され、再び庭園で対話をすることになった。月明かりの下、彼は静かに語り始めた。


「千紗、世がそなたに対してこれほどの信頼を寄せるのは、そなたが世の欠けた部分を補ってくれるからだ。」


「欠けた部分?」千紗は首をかしげた。


「世は皇帝としての威厳を保つため、感情を表に出すことが少ない。だが、そなたのように率直で機転の利く人物がそばにいると、自然と余裕が生まれる。」


セイラスの言葉には、これまでにない柔らかさがあった。千紗はその真剣な眼差しに少しだけ動揺しつつも、皮肉を交えて返した。


「それは光栄ですが、陛下はもう少し自分で余裕を作る努力をしていただけませんか?」


セイラスは声を上げて笑った。「確かに、そなたの言う通りだ。」


その場の空気は穏やかで、皇帝と宰相という立場を超えた何かがそこにあった。



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新たな一歩


千紗が宰相としての職務を全うするたびに、彼女とセイラスの間には深い信頼が生まれていた。それは宮廷全体に影響を与え、千紗が多くの貴族や高官たちの支持を得る大きな要因となった。


「陛下がそこまで信じてくれるなら、私はもっと頑張らないといけませんね。」千紗はそう自分に言い聞かせながら、新たな挑戦に向けて気持ちを引き締めた。



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この信頼関係は、千紗が帝国宰相としての地位をさらに確固たるものにしていくための礎となる。彼女の道はまだ続く――。



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