「よし」
クレーターのように穴が空いた地面を見下ろしながら、パンパンッと砂埃がついた服を払う。
やりすぎたと言えばそれまでだが、アンチコメで培ったストレスが発散されて案外満足。
(アンチコメ来るたびに放ってやるか?)
なんてことを考えながらも、隣に置いたたんぽぽを見下ろし――
「あれたんぽぽ!?どこ行った!?俺のこと養ってくれるんじゃないのか!?」
マジシャンのようにどこかに消え去ったたんぽぽは、どんなに見回しても見つかることがない。
もしかして風圧によって飛ばされたのか!?なんて心配したのもつかの間。
「ん?」
歩き出そうとした足からはドスッと何かにぶつかった音が鳴り響いた。
見下ろしてみてもそこにはなにもない。唯一あるとすれば、数センチ前にクレーター状の穴だけがあるのだが……
「あれ?ここの草だけ風圧受けてなくね?」
ほかは背中が逸らされてるのにも関わらず、何かにぶつかった場所の後方だけは雑草が直立していた。
そして更に不思議なことに、ぶつかった箇所はなぞに踏み潰されたようになっていた。
「なんだ?」
透明ななにかをドスッドスッと何度も蹴ってみるが、ビクリとも動くことはない。
「たんぽぽはないしなんかぶつかるし……なんだ?もしかして八重詠がまずかったか……?」
『ひどいことをしたツケが回ってきたのか』なんて思考を脳裏に浮かべながらも、スッと杖を構えた。
果たしてこれがなになのかはわからない。が、もし魔物の類だとするのなら、透明な魔物はかなり面倒くさいことになる。
「とりあえず燃やすからな」
一応の注意喚起をかけた俺は、頭の中で炎の渦をイメージし――
「キャァァァ!!!!!殺されるぅぅぅぅ!!!!!」
刹那に叫んだのはたんぽぽと同じ女の声。
突然のことに炎のイメージが散ってしまったことが功を奏したのかダメだったのか、姿を表した茶髪の女はこちらを見ることもなく手を上げて走り去っていった。
「……は?」
ぽかんと口を開く俺はその背中を追いかける気力すらも湧くことはなく、かといって人間相手に魔法を打つ気にもなれず、呆然と女の背中を見続けることしかできなかった。
「スキルの類か……?」
透明のスキルを有しているのなら姿形を認識できないことにも納得できるのだが……魔力察知もできないのか……?
だとしたら俺の点滴になりかねない相手なのだが……いやでもたんぽぽとして話しかけてきたわけで……
「え、ってことはたんぽぽは喋ってなかったってことか?普通にあの女と話してただけってことか……?え、はっず」
途端に襲いかかる羞恥心に頬を熱くさせながらも、たんぽぽのことを思い出した俺は踵を返してたんぽぽを探し始めた。
せっかく助けた冒険者のことなど忘れ、苔が広がった地面を見下ろし続けた。