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第3話 パーティ追放

「おい! 受付嬢! これはどういうことだ!」


 どういうことだ。と言われてもスルーカはまだ話の概要を聞いていない。そんな話のされ方では困ってしまう。今、スルーカの前には一組の男女が居る。以前はもう一人、少年とでも言うべき歳の子が一緒に居たと記憶しているが、今は居ない。


「どういうこと、とは、どういう話なのでしょう?」

「どうもこうもないわよ! 私たちが追放したガキが、他のパーティじゃ活躍してるって話じゃないのよ! なんでそんなことになってるかって、聞いてるのよ!」

「なるほど」


 数年前から、一部の界隈で流行っているパーティ追放というやつか。追放したメンバーが、今は別のパーティで活躍しているというのは、結構な話じゃないか。それで怒るというのがスルーカには分からない。


 男の方がカウンターをバンッ! と叩いた。よく見ると、叩きつけられた手の下に一枚の紙があった。その紙を、スルーカはよく知っている。今回のクレーマーは、この紙を根拠に文句を言おうとしているようだ。一応ギルドから出しているものなのだから、乱暴な扱いはしてほしくないなあとスルーカは悲しくなる。


「俺たちが追放したガキが、俺たちに出していた、ステータスの詳細だ。パーティがメンバー同士で互いの能力を把握するために、ギルドから発行されてるもんだろう」

「はい、その通りです」


 その通りだが、そこに何の問題があるというのだろうか。まさかギルド側のステータスの書類に不備があるとでも言いたいのか? その可能性もあるにはあるが……まあ、話を聞こう。スルーカはまだ様子を見ることに決めた。


「良いか? ステータスの詳細には治癒の魔法と、攻撃魔法への補助ができると書いてある。なのにだ! あいつは、俺への治癒魔法をまるで使わず、彼女への補助もおこなっていなかった!」

「なるほど」


 確かに少年のステータスの詳細を見ると、治癒の魔法と、水魔法の補助ができることが分かる。なかなか優秀そうな人物を想像させる。


「つまり、こいつは俺らのパーティじゃ、不当に力を使わなかった。俺たちの何が気に入らなかったのか、こいつは新しいパーティに入るまで、まるで力を使おうとしなかった! それは、許せんだろうが!」


 男が拳でカウンターを叩いた。凄まじい音が鳴り、男の拳に血が滲むほどだった。そういう暴力で人を脅すようなことをして、相手がびびると思っているのだろう。そういう態度をスルーカは軽蔑する。


 ふと、スルーカはあることに気付いた。男の手から滲んでいた血が、傷口へと戻っていく。これは、自己治癒のスキルじゃないか? その能力があるのだとすれば、治癒魔法は必要ないんじゃないだろうか? スルーカの心に疑念が沸く。


「気になったことがあります。あなた方のステータスの詳細を確認してもよろしいですか?」

「……なんでそんなものを気にするんだ」

「もしかすると、あなた方が追放した少年が、どうしてあなた方の言うようなことをしていたのか分かるのではないかと思いまして」

「そ、そんなことをする必要は無いんだよ! 俺らはただ、あいつにギルドから正義の鉄槌が下されることを望んでるんだ」

「……正義の鉄槌?」


 これはまた、妙なことを言うものだとスルーカは思う。冒険者ギルドは正義の鉄槌を下すための組織ではない。この男女は、何か勘違いをしているんじゃないか? だとすれば、大馬鹿者だ。


「良いですか? 冒険者ギルドは正義を司るような組織ではありません。もしかして、あなた方は我々を通して、件の少年の、足を引っ張ろうとしているだけなのでは?」

「……!」


 男は今にも怒り出しそうな顔で黙っている。横の女が「あのガキが真面目に働かなかったことは分かってるんだから!」と叫ぶが、相手にする価値は無いとスルーカは判断した。


「とにかく、あなた方のステータス詳細を確認してきます。ギルドには、あなた方が登録した情報が、ありますから。少々お待ちください」


 その後、スルーカは必要な書類を持って持ち場に戻った。その時には、クレーマーの男女は、その場から居なくなっていた。逃げたな、と思うと同時にまあ、良いかと思いながら、スルーカは書類を確認する。


 男の方は自己治癒のスキルを持っていた。また、女の方は火魔法を使えると書類には書かれている。追放された少年は治癒魔法を男に使おうとしなかった理由は分かる。それに、少年が補助できるのは水魔法だ。その辺の確認が、このパーティには疎かだったのだろう。もしかしたら、少年も少しは悪かったのかもしれない。


 とはいえ、少年の活躍をやっかんで、足を引っ張ろうとするのは、行儀のよい行為とは言えない。聞けば、あの二人は最近はどんどん落ちぶれていってると聞くし、さもありなん、と思いながら、ため息をつくスルーカだった。


 スルーカはカウンターのへこんだ部分を見る。見るたびに嫌な気分になりそうで、さっさと修復魔法で直してしまった。これでカウンターは元通り。


 あの二人と、少年の仲が元通りになることは無いだろう。片や落ちぶれ、片や活躍中。残酷かもしれないが、冒険者なんてそんなものだ。スルーカの頭の中では、この件はすでにどうでも良いものになり始めていた。

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