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二話 エロい女には裏がある

 朝四時半。俺は他人よりも早く起きる。

 俺のルーティンはいつも筋トレから始まる。


 この世界には魔法が存在する。


 魔力には個人差があり、無限に魔法を使えるというわけではない。その場合は魔力補給のために回復薬を飲んだり、しばらくの休息が必要だったりする。


 ちなみに俺の場合は、あまり魔法が得意じゃない。魔法を使えないことはないが、力の制御ができず、過去に暴走しかけたことがある。


「98、99、100。……よしっ。今日はこんなもんか」


 魔法の制御をするには、まず自分磨きからだとパーティーメンバーから言われた。


 だから俺は冒険者になってからは欠かさず、家から少し離れた場所で筋トレをしている。


 今日は普段よりも三十分早く、目が覚めてしまったが、それには訳がある。


 なんと今日は昼からユエとデート!


 愛する妹とデート。なんという素晴らしい響き……俺はその嬉しさを噛み締めていた。


 しかし、何故ユエは俺とデートしたいと言い出したのだろう? 実は俺がデートと言っているだけで、本当はパーティーメンバーと魔物討伐に行くだけなんだけどな。


 本当のデートなら、ユエが嫌がるだろうし……。年頃の妹が、兄と二人きりで街に出掛けるなんて気持ち悪いに決まってる。


 いや、ここはあえて、俺から誘ってみるべきだろうか!?


「相変わらず朝が早いんだね。アレン」


「……そういうお前こそ早いな」


 金髪で右側にサイドテールをしている。高い位置で結んでいるにも関わらず、お尻までその長い髪は伸びている。そして、サファイア色の綺麗な瞳。


 そんな俺に話しかけてきたこの少女の名はリン。俺のパーティーメンバーの一人で魔法使いだ。


 まわりからは天使のように美しいと言われ、胸の双丘は胸の防具がはち切れそうなくらいパンパンだ。歩くだけでも豊満な胸がバインバインと揺れているのがわかる。


 パーティーメンバーで唯一の女性だから俺以外のパーティーメンバーが心配して、防具も必要以上につけている。


 男は大きい胸が好き……なんて言葉はどこから来たのだろうか。


 俺はユエの胸が小さいこともあり断然、貧乳派だ。


 巨乳なんて論外。

 乳は小さければ小さいほどいい。


「今日は魔物退治だし、早めから魔法の練習でもしておこうと思ってね。それに、この時間ならアレンがいるし。……来ちゃった」


 語尾にハートがつきそうなくらい甘い声。男ならリンの声や仕草を見たらすぐ惚れる。むしろそれが普通なのかもしれないな。


「俺たちはAランクだし、そんな毎日練習することでもないだろ」


「そうやって油断してるとすぐ死んじゃうよ。それに、それをいうならアレンだって毎日筋トレしてるでしょ?」


「これは癖みたいなもんだから……」


「アレンも勿体ないよね」


「なにが?」


「これだけいい身体してるのに、肝心の妹ちゃんからは見向きもされてないんでしょ?」


「っ……」


 そう言って、スルリと服の中に手を入れてきたリン。


「私が妹ちゃんだったら嬉しいよ。自分のためにこんなに強くなってくれたんだ〜って」


「……からかうのもいい加減にしろ」


「あっ、バレちゃった?」


 舌をペロッと出して俺から離れるリン。これはリンのいつものからかいだ。

 パーティーメンバーの反応を見て、それを楽しんでいるのだ。なんとも悪趣味な。


 リンには少しSっ気があり、それを知っているパーティーメンバーは「いつものリン」だと口を揃えて皆同じことをいう。


 リンのことをあまり知らない男からしたら、この状況は嫉妬の対象だろうな。


 とはいえ、長年行動を共にしているリンを女=恋愛対象として見るなんて無理だ。そもそも俺には愛するユエがいるし。


「私だって魔法の練習は癖みたいなもんだし、アレンにスキンシップして、からかうのも日課みたいなものだもん」


「異性にスキンシップしていいことは何一つないぞ。もし勘違いされて、襲われたりしたらどうするんだ?」


「その時はファイアボールで黒焦げにしちゃうから」


「冒険者になったばかりの野郎は地獄を見るな……」


 黒い笑みを浮かべるリン。そう、リンは怒らせると相当怖い。

 リンは見た目のエロさとは真逆で中身はかなりの手練だ。


 魔法も詠唱無しの、いわゆる無詠唱で魔法を発動出来たりする。


「それよりもアレンがこんなに早く起きたってことは何かいいことでもあったんでしょ」


「わかるか!? 実は今日の魔物討伐にユエが来るんだ」


「今日の依頼レベルなら妹ちゃんが来ても問題なさそうね。アレンが毎日寝言のように話すものだから、実は前から会ってみたかったの」


「お、おい。あんまりユエをからかうんじゃないぞ。ほら、ユエはメスガキでお前とは相性も悪いし、スキンシップしたら罵倒だけじゃなく手が飛んでくるかも」


「可愛い女の子なら大歓迎。たしか、ユエちゃんって十六歳よね? お姉さんの私がわからせてあげなきゃ♡今から会うのが楽しみ〜」


 頬に両手を添えて喜んでいるが、その目はまさに野獣そのもの。


 実はリンにはある一つの噂があった。それは可愛い女の子が好きすぎるということ。


 俺はユエの可愛い姿が見れるのは嬉しいんだが、相手がリンというのが複雑な気持ちになる。


『私のことを紹介するのがそんなにイヤなわけ?』


 ユエにはそんなことを言われたが、そうじゃないんだ。


 リンの百合好きはパーティー内でも有名だ。 ユエとデート出来るからと浮かれていたが、今からパーティーメンバーに合わせるのが不安になってきた。


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