近くの駅前で、さくらんぼが売られていた。
試食コーナーも設けられていて、数人が味見をしていた。
子供が二人、さくらんぼを頬張りながら口をもごもご動かしている。
「さくらんぼの枝、舌で結べるー?手を使っちゃダメだよー!!」
「結べるよー!!」
そう言いながら、口を動かしていた。
懐かしいな、その遊び。私も昔、よくやったっけ。
せっかくなので、私も試食用のさくらんぼを一本もらって、挑戦してみることにした。
さくらんぼの実は甘い。種も吐き出す。
舌を使って枝を結ぶ。
おっ、意外とできるものだな。
思わずにんまりしながら、私はさくらんぼを一パック買って帰路についた。
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さて。
実は、このサトウさんがさくらんぼの枝を使って口の中で作ったもの。
それは、単に枝を結んだものという造形を超えた、人類の究極のアートとして完成されたものだった。
そのアートを目にした者は、第六感を含むすべての感覚が拡張され、圧倒的な多幸感に包まれる。
時価など到底付けられる次元ではなく、戦争といった人的災害すらも鎮めるだけの凄まじい表現力を、その作品は備えている。
芸術の到達点とも言えるだろう。
しかし、当のサトウさんは、そんなことに気づくこともなく、今日も元気にルート営業の外回りを地道にこなしている。世の中、意外とそんなものである。
【能ある鷹でも爪に気付かず】