夜道を歩いていると、前から私が息を切らして走ってきた。
見るからに、ちゃんと「私」だった。思わず「なんで?」とつぶやく。
ちょっと老けたか私。でも、いつも研究室で着ているその白衣は、間違いなく私のものだった。
私は私を私と認定。認定してもいいと思う。
聞けば、目の前の私は、未来の私らしい。
そしてかなり焦っている、時間が無いそうだ。
息を切らしながらも急いで言葉を吐く未来の私。
「いいか…!…アイツだけは…!アイツだけは絶対に信じるな!」
「アイツって誰ですか?」
しばし沈黙。夜道に静かに
「…誰だっけ?」
おそらく、二人共、同じ顔でキョトンとしていたと思う。
「いや、私に聞かれましても」
「ヤバイ、誰だっけ…?しまった!忘れた!急に忘れた!どうしよう!ヤバイ!ここまで出かかってるんだよ!誰だったっけ!?アイツだよアイツ!!」
徐々に薄れていく未来の私。
「しくったぁー!!名前出てこねぇ!いいか!?アイツだよ!アイツなんだよ!アイツだけ絶対に信じるな!頼む!アイツを信じるな!過去を変えてくれ!あぁー!!なんでいつもこうなのかなぁー!!私は!!」
そう言い残して、未来の私は消えていった。
何だったんだろうと家路に着く私。
そして数年後、しっかりとアイツに裏切られる私。
ふざけるな。このままアイツにやられっぱなしになるわけにはいかない。
過去を変えて、この現実を変えてやる——その壮大な物語が、今、幕を開けようとしていた。
【ド忘れ】