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朱雀9

夜道を歩いていると、前から私が息を切らして走ってきた。


見るからに、ちゃんと「私」だった。思わず「なんで?」とつぶやく。

ちょっと老けたか私。でも、いつも研究室で着ているその白衣は、間違いなく私のものだった。

私は私を私と認定。認定してもいいと思う。


聞けば、目の前の私は、未来の私らしい。


そしてかなり焦っている、時間が無いそうだ。

息を切らしながらも急いで言葉を吐く未来の私。


「いいか…!…アイツだけは…!アイツだけは絶対に信じるな!」


「アイツって誰ですか?」


しばし沈黙。夜道に静かにまたたく街灯。


「…誰だっけ?」


おそらく、二人共、同じ顔でキョトンとしていたと思う。


「いや、私に聞かれましても」


「ヤバイ、誰だっけ…?しまった!忘れた!急に忘れた!どうしよう!ヤバイ!ここまで出かかってるんだよ!誰だったっけ!?アイツだよアイツ!!」


徐々に薄れていく未来の私。


「しくったぁー!!名前出てこねぇ!いいか!?アイツだよ!アイツなんだよ!アイツだけ絶対に信じるな!頼む!アイツを信じるな!過去を変えてくれ!あぁー!!なんでいつもこうなのかなぁー!!私は!!」


そう言い残して、未来の私は消えていった。


何だったんだろうと家路に着く私。


そして数年後、しっかりとアイツに裏切られる私。


ふざけるな。このままアイツにやられっぱなしになるわけにはいかない。

過去を変えて、この現実を変えてやる——その壮大な物語が、今、幕を開けようとしていた。


【ド忘れ】

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