私が先輩……南方健三に出会ったのはデビューして間もない頃。文壇社のパーティーであった。おどおどと不安と人見知りを丸出しの私に声をかけてくれたのが紛れもない先輩だ。
「……新人の作家さんかな?」
言葉を選ぶように、手繰り寄せるかのような言い方と、声音だったのをよく覚えている。
「……は、はい」
「あっ、挨拶がまだだったよね。ライトノベル作家の南方健三です。よろしく」
その年の男性には似つかわしくないあどけない笑顔を見せた小説家。この時の表情もよく覚えている。忘れようもない。何せ、私の恋物語はここから始まるのだから。
「……よろしくお願いします。東方あんなです」
「へぇ~。君があの東方あんなか……」
「先生のことも勿論、存じ上げています。ロストヴァージン・ノベリスト……最高でした!」
そういうと、彼は照れくさそうにしていた。
「君のデビュー作の『東方幻想譚』も良かったぞ!」
「……!!! 本当ですか?」
「勿論。リーダビリティの高さや筆力もさることながら、比類なき作家性を感じたよ」
「……あ、ありがとうございます!」
「で、君のことはなんと呼べばいいかな?」
「……あ、あんなと呼んでください」
「了解。よろしく! あんな」
ニカッと、破顔する彼。
「あっ! 俺のことはどう呼んでもらってもかまわないぞ」
「……じゃ、じゃあ……せ、先輩と呼ばせてください!」
「あぁ! 改めてよろしく!」
「はい! 先輩!」
そう。そうだ。この時から、私の心は少しずつ高鳴り始め、そして、先輩を愛したのだ。