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第7話 南方健三の原点と自己問答

俺が小説を書き始めたのは大学生の頃だった。きっかけというほどのきっかけのようなものはないが、一つだけ確かな思いがあったのを覚えている。「何者かになりたい」……そんな青臭い気持ちが俺を文章で織りなされる戦地へと駆り立てた。


初めは千文字のショートショートから始まり。地道に地力を付けながら短編、中編、そして最終的には長編へと世界を広げていった。その中で自分に一番適した小説のジャンルが「ライトノベル」ということに気がついた。そして、デビュー作でもある小説。「ロストヴァージン・ノベリスト」が生まれた。


今思えば、あれは童貞であるがゆえに書けた小説だ。仮に非童貞の者が同じ小説を書こうものなら、小説としての体をなしているだけのただの文字の羅列になったであろう。あれは、童貞の妄想力と、歪んだ恋愛観。童貞の持ちうるみずみずし過ぎる感性の賜物といっても過言ではない。それほどまでの感性と題材、パーソナリティが合致した小説といえるのかもしれない。



では、南方健三。童貞でなくなったお前はあの頃と変わらずあの感性のままで居られているだろうか? ロストヴァージン・ノベリストも。魔王も。お前が童貞であるがゆえに書くことのできた作品ではないのだろうか?


東方あんなを抱いたときに感じた……多幸感と喪失感。そして、感性が変わりゆくことに対しての僅かな恐怖。


もしも、童貞とともに小説家としての何かを失っているのだとすれば、俺は俺で居られるだろうか。



そんなことを月明かりに照らされたあんなの寝顔を見ながら考えたり、思い返したりと気持ちという生物を反芻していた。



「……俺の小説家としての原点は変わってしまったのだろうか」



一人独白する彼の問いに対する答えはまだどこにもない。

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