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第1話「宇宙連合軍制式量産機『トネリコ』」

 人類が地球という最初の故郷を捨て、銀河中の様々な種族と共同の連合政府を立ち上げてから、早300年。

 だが、人類は、否、凡ゆる知的生命体は戦争をやめられなかった。

 宇宙連合軍と反連合思想に染まった存在との戦争は世界中で小規模な紛争となって銀河中で発生していた。


 白銀の巨人、宇宙連合軍制式量産機『トネリコ』が四機、巨大な増槽付き追加ブースターを装備して戦場に向かっていた。

「まもなく敵艦隊と接敵する。ロングレンジチーム、各機、状況ステータス

 マモルがコックピットに座るトネリコに向けてそんな通信が聞こえてくる。

 右のモニタを見るとその通信がロングレンジ・ワン、即ち我らがリーダーから届いていると分かる。

「こちら、ロングレンジ・スリー。問題なし」

 マモルは素早くコンソールを操作し左のモニタに機体のチェック状況を表示、問題がないことを確認し、通信に応じる。

「よし、十秒後に追加ブースターを切り離しパージ、以降は慣性飛行で敵艦隊に接触する。推進装置を使うと赤外線探知で探知されるから、使わないように」

「ロングレンジ・スリー。了解」

 十秒後、コンソールを操作して巨大な増槽がついた追加ブースターを切り離す。

「以降、電波探知を避けるため無線封鎖を実施する。俺が初撃を放つ。それを確認次第、全兵装使用自由オールウェポンズフリー

 ふぅ、とマモルは息を吐く。もはや何度となく慣れた実戦だ。緊張などはない。それでも、やはり戦いが始まるのを待つこの時間には、慣れることはない。


 それからさらに数分後、正面に巨大な戦艦が見えてくる。数は三。

 まだ白銀の巨人たるトネリコの接近には気付かれていない。

 四機飛ぶ白銀の巨人のうち最も先頭の機がビームライフルを構え、三発発砲する。

 放たれた赤い重金属粒子のビームはまっすぐに飛翔し、先頭を往く戦艦の艦橋、そしてレーダアレイ、最後に後方のメインエンジンを破壊する。

 その動きを見て、マモルは外していたゴーグルを装着しつつ、機体を操作、姿勢制御用補助エンジンバーニアを吹かせて、右ロール。巨大戦艦の後方に回り込む。

 後方二隻が慌ててメインエンジンを最大出力に切り替えて、加速を始める。

「奴ら、旗艦を捨てて逃げるつもりだぞ。逃すな」

 リーダーからの指示が飛ぶ。

 マモルは自機を艦の後方に位置させていたので、そこから腰にマウントされていたビームライフルを右手に装備。エンジンに向けて照準用のマークレティクルを合わせる。

 と、直後、銃口警告が発され、マモルはペダルを強く踏み込んですぐに離す。ことで脚部の推進装置を起動。マモルから見て上に飛び上がり、飛んでくる赤い重粒子ビームを回避する。

「敵のOLが出てきたか」

 マモルが視線を向けると、視線の先にはトネリコとは似て非なる緑色の巨人が存在している。

 飛んでくる赤いビームを回避しつつ、マモル機は敵の巨人へ接近。

 ビームライフルを腰のマウントに戻しつつ、左腕の手首に装備された筒を右手で引き抜く。

 同時、それは紫色の刃を出現させる。プラズマセイバーと呼ばれる白兵戦用の武器だ。

 対する緑色の巨人もプラズマセイバーを腰から抜刀。

 振り下ろされるプラズマの刃をマモル機は紙一重で避けて、横薙ぎの一閃。緑色の巨人を沈黙させる。

 さらに銃口警告。警告の先を辿り視線を上げれば、そこに見えるのはやはり四機の緑色の巨人。

 マモル機は一気にそちらに推進する。

 飛んでくる赤いビームを左右に蛇行することで回避し、肩に装備されたミサイルランチャーからマイクロミサイルを発射。それでミサイルは打ち切りなのでデッドウェイトになるミサイルランチャーはパージする。

 完璧なタイミングで放たれたミサイルは見事に四機の巨人に命中、爆散させる。

「ロングレンジ・スリー! そいつらにかまけている場合じゃないぞ。敵艦がジャンプしちまう!」

 見れば、二隻の巨大戦艦は光に包まれつつある。

 銀河を股にかける今の人類にとっては当たり前の技術、FTLジャンプだ。

「させるか!」

 再びビームライフルを構え、一隻のメインエンジンを破壊。

 もう一隻に狙いをつけるが、そこに銃口警告。

 戦艦を逃すわけにはいかないので、マモルは友軍を信じて、それを無視。

 しかし、その信頼は裏切られた。

 緑色の巨人から赤い重粒子ビームが放たれる。

「チッ!」

 マモルは舌打ちしながら、回避運動に入るが、肩に搭載されていたレーザーガンが破壊される。

 その衝撃で、マモル機は一気に前方に慣性がかかる。

 戦艦と激突。

 そのタイミングで、戦艦がFTLジャンプ。

(まずい……っ!?)

 FTLジャンプに巻き込まれると明後日の場所へ飛ばされる。銀河は広い。下手をすれば戻って来れない可能性もある。マモルは久しぶりに感じる恐怖に襲われる。だが、もうもがいてもなんともならない。

 光に包まれ、マモルは意識を失った。


 警告音が鳴り続いている。

「ん……」

 マモルは眼を覚ます。

 眼前に広がっているのは青い空だった。

 あまりにリアルな視界に自分が生身で落ちているのかと一瞬錯覚したが、違う、これはゴーグル越しに見えているトネリコの視界だ、とすぐに思い直す。

 なんだ良かった、と安堵しかけるが、良いわけがない。

 この速度で落下しては、中の人間は無事で済まないだろう。

 マモルは両足でペダルを強く踏み込み、推進装置を吹かして減速する。

 空中で少しずつトネリコが減速していく。

 とはいえ、あまりこの状態を長く続けることは出来ない。トネリコに搭載した推進剤が保たないからだ。

 眼下を見下ろし、陸地を探す。

 ……ない。

 見渡す限り一面の雲海だ。

「なら、一度、雲を突き抜けるか」

 常識的に考えて、陸地は雲の下にあるはずだ。なら、雲を突き抜けて陸地を探せばいい。

 マモルはペダルから足を離し、再びトネリコを降下させる。

 だが、雲海に近づいたところで違和感が生じる。

 雲海から魚のような生物が現れて、触手を伸ばしてきたのだ。

「な、なんだこれは!?」

 未知の宇宙生物か!? と驚愕しつつ、マモルは再び推進装置を全開に叩き込む。

 トネリコが空中に飛び上がり触手を回避する。

 そのまま、ビームライフルを装備、魚の一匹にレティクルを合わせて赤いビームを放つ。

 ビームは魚に命中し蒸発させる。

 だが、さらに奇妙な光景が見えた。ビームが雲を晴らした先に見えたのは漆黒の闇だったのだ。

「な、なんだこれは……」

 闇を見た時に感じたのはFTLジャンプに巻き込まれた時以上の恐怖。

 マモルの直感が告げる、この雲より下に降りてはいけない、と。あそこに落ちては文字通り自分も無になるのだ、と。

 その判断に従いマモルはトネリコを空中に飛び上がらせるが、このままでは推進剤が保たない。

「おーい、そこの巨人! 雲海魚と戦うのは危ないよー。どうやって飛んでるのか知らないけど、一旦こっちにおいでよー」

 そんな声が機外から聞こえてくる。女性の声だ。

 声の聞こえた方に視線を向けると、そこには一隻の船が飛んでいた。

「なんだあれは、面妖な……」

 船が飛んでいること自体は良い。銀河時代の現在、それは珍しい光景ではない。問題は見た目だ。

 それは大航海時代の帆船のような見た目をしていた。そんなものが、しかも、推進装置なしで浮遊しているのだ、面妖と言う他無い。

 とはいえ、このままでは推進剤が切れて、あの虚無の世界に落っこちるのみだ。それは望ましくない。

「すまない、そちらに着艦させてもらう」

 マモルは機外スピーカーに切り替えて、そう告げつつ、空飛ぶ帆船の上に着地する。

「いったーい! まぁ、でも緊急時だから仕方ないか。大丈夫、巨人さん?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。だが、私は巨人ではない」

 トネリコを跪かせ、胸部のハッチを開いて、コックピットから船上に降りる。

「うわ、人間が入ってたの!? すごいね、それ」

 眼下から、そんな声が聞こえる。

「君は姿を晒さないのか?」

「え? あー、ボクはこの船そのものだよ。ボクは飛挺少女シップガールだからね」

「しっぷがーる……。その名の通り船の少女、と言うことか。どうやら妙な惑星にジャンプしてきてしまったようだな」

 船そのものを名乗る女性の声にマモルがなるほど、と思案する。

「それで、巨人に乗る人間さん、お名前は? ボクはメアリー・ブリガンティン。メアリー護衛商船団の団長さ!」

「自分は宇宙連合軍所属、朽名くつな まもる少尉。この度は助けていただき、ありがとうございます、メアリー殿」

「そんな固くならなくて大丈夫だよ。落としたりなんてしないから」

「そうか。それは安心した。ところで、商船団、と言ったか? この一隻しか見当たらないが」

 周囲を見渡しながら、マモルが首を傾げる。

「あ、言ってはならないことを言ったな、マモル。これから大きくしていくんだよ!」

 船が大きく揺れる。

「おい、落とさないんじゃなかったのか!」

「ご、ごめん、つい感情的に」

 メアリーが謝罪する。

「とりあえず、今のままじゃ会話もままならないよね、近くに島に行こう。確か、あっちの島には良い喫茶店があったはず」

 そう言って、船が進路を変更する。


 やがて島が見えてくる。

「なんだあれは、巨大な……塔?」

「あれ? ジッグラトを知らないの? よっぽどおっきな島から来たのかな」

 メアリーが不思議そうに呟きつつ、船が桟橋に着く。

「その巨人さんを桟橋に移してくれる?」

「あぁ、分かった」

 マモルはトネリコに乗って桟橋に移る。

 それが終わった直後、メアリーが桟橋に向かって飛びかかり、そして、青い髪の少女へと姿を変えて、桟橋に着地する。

「ふぅー、疲れたー」

 まるで普通の人間のように伸びをするメアリー。

「なんて、面妖な……」

「じゃ、マモル。話を聞かせてもらえるかな? 出来たら、助けた報酬とかも貰いたいし?」

 そう言って、通貨の入っているらしい皮袋を持ち上げつつ、メアリーは言った。


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