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第2話『断罪宣告』

 2025年5月18日。


 世界は一瞬にして凍りついた。


 日本時刻として、午後7時55分。


 突如、全世界のテレビ画面が暗転し、ノイズの嵐が走った。


 スマートフォン、タブレット、街頭の電光掲示板――あらゆるディスプレイが同じ映像に切り替わり、同一の光景を映し出した。


 言語も地域も超え、地球上のすべての人間が、同じ声を聞いた。


 画面には、雲と光の渦が広がる天界の高座。


 そこに君臨するのは、数十柱の神々――それぞれが異様な姿で、星の輝きをまとった者、炎と影を織りなす者、雲を指先で弄ぶ者。中央に立つ一柱、破壊を司ると自ら名乗る神が、嘲笑を浮かべながら口を開いた。


「凡庸なる人類よ、跪け。われら天界の神々、汝らの運命を握る者どもが、今、新たな遊戯を宣言する。その名は『天界遊戯』。汝らの血と命を賭した、我々の暇つぶしだ。」


 人類は当初、これを悪質なハッキングや集団的な悪戯と疑った。


 SNSは「CGだ」「映画の宣伝か」と揶揄する声で溢れた。


 だが、疑念はすぐに恐怖に変わる。


 映像はインターネットを介さず、物理的に接続されていないデバイスでも流れ続けた。


 南極の研究基地の古いモニター、廃棄された携帯電話、果ては博物館に展示された真空管ラジオからさえ、神々の声が響き渡った。


 言語は各人の母語に変換され、子供から老人までが理解できる平易な言葉で語られた。


 全世界同時中継、しかも一秒の遅延もない――人類の技術では不可能な現象だった。


「我々は各々、汝らの世界から五体の『使徒』を選ぶ。人間、獣、植物、何であれ我々の気まぐれ次第。彼らに神の力を与え、互いに殺し合わせる。最後まで生き残った使徒の神が『天界の覇王』となり、宇宙の理を意のままに操る。敗者は存在ごと消滅し、使徒も塵と化す。汝らはただ、選ばれし者として足掻き、我々の酒宴を彩る悲鳴を上げるがよい」


 映像の中で、神々は哄笑を響かせた。


 映像は30分で途切れ、すべてのデバイスは元の状態に戻った。


 だが、世界は数分で変わる。


 街はパニックに陥り、政府は緊急会議を開き、宗教指導者たちは混乱の中で沈黙した。


 人々は互いに問うた。


 「本当に神なのか?」「使徒とは誰だ?」「なぜ我々が?」しかし、答えはなく、ただ恐怖と不信が広がった。


 1時間後、各所で異変が報告される。


 世界各地。


 教師、ヤクザ、主婦、ホームレス、死体、あらゆる物体が突如として光に包まれ、姿を消した。


 彼らは神々に選ばれ、使徒として天界遊戯の舞台に引きずり込まれたのだ。


 SNSは被害・目撃者情報で埋め尽くされた。


 だが、神々の声は再び響くことはなく、ただ静寂が人類を嘲笑う。


 天界遊戯の幕は、こうして血と涙とともに上がった。


 人類は知る。


 自分たちが、傲慢な神々の気まぐれな賭博の駒にすぎないことを。


 そして、生き残るためには、否応なく殺戮の螺旋に身を投じるしかないことを。

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