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第2話 悪役貴族極めるんだけど!

 前世の記憶を取り戻し、自分がスターオブファンタジア、スタファンの世界における悪役貴族であるスティーシ―=ナリキーンであることを思い出した俺様。


 だったが、主人公の物語の為の捨て石成金になるのは絶対にいやだと大声で誓い、今まで散々虐めていたメイ・ドエムを驚かせおもらしさせてしまったそのあと、俺様はさっそく脱・捨て石成金を目指し、行動を開始した。


 俺の考えは単純明快。

 主人公があくまで物語における正義の立場になるのであれば、俺様は絶対に倒せないレベルの悪になればいいだけ。


 このゲーム、スターオブファンタジアの最後は、何故かヒロイン達を生贄に欲しがる魔王を倒すというもの。


 ならば、俺が魔王を倒し、絶対に倒せない新たな魔王に、最強の存在になればいいだけ。


「そうと決まれば徹底的に鍛え直さないとな」


 幸い俺様はまだ6歳。10年あればいくらでも鍛えられる。


 何しろ前世の俺の趣味はゲームと……筋トレだった。いくら今の俺様が超絶肥満体であろうと、前世の俺の筋トレ知識を総動員すれば、1年で真っ当な身体になれるだろう。

 その上、唯一ナリキーン家でよかったのは、成金だったこと。


 金ならある!


 ということで、この世界で用意できるレベルの最高の筋トレマシンと食事を用意することが出来た。

 さらに、貴族なので学校に通う年齢になるまでは、自宅学習か社交の場に出るか趣味に時間を費やすくらいしかないというのも全て己を鍛える時間に俺様にとっては都合がよい。


 しかし、貴族が時間を持て余すせいで、記憶を取り戻す前の俺様がやっていたメイド虐めといった正しく悪趣味が流行っていたりするのかもしれないな。そんなもの無駄の極みだ。筋トレこそが究極!


「いや、待てよ……。ここは前世の世界ではない上に俺様は悪役貴族。やれることもやるべきことも少なくない、な……」


 金だけはあるナリキーン家を最大限利用すれば、筋トレ道具だけでなく、魔法の勉強道具や優秀な家庭教師も成長用アイテムもなんでも手に入る。主人公は無自覚チート主人公だったので、恐らく自主的に身体を鍛えるなんて発想ではなく、なんか凄い村でなんか才能があってなんか強くなったとかそういうののはず!

 であれば、ヤツの才能を越える為に、財力で越え、努力で超える。

 更に、他にもヤツを潰す策を何重にも用意してやろう……。


「クハハハハ! 主人公よ! お前を倒すのは俺様だ……!」

「スティーシ―様、なんという邪悪な笑み……!」


 メイ・ドエムが震えながら俺様を見つめている。それでいい。俺様は、クソ単純道徳観持ちアホ善人キャラである主人公が大嫌いだ。ヤツの対極の存在でいたい。であれば、最強最悪の悪役貴族でありたい。


「あ、ああ……スティーシ―様……!」


 潤んだ瞳で今にも泣きだしそうなメイ・ドエム。そうだそれでいい。俺様に恐怖し続けろ。悪役貴族の俺様は俺様の信念に従うのだ!


「おい、メイ・ドエム。俺様は地獄のような訓練でこれから己を磨く。ならば、俺様に仕えるお前も俺様についてこい」

「は、はいぃいいい! スティーシ―様の元であれば、地獄の果てまでもお供致しますぅうう!」

「ふん、いい度胸だ。では、まずは準備運動だ。正しい筋トレをする為には正しいストレッチからだからな。そして、そのあとはマインドフルネス。呼吸と意識が整っていなければ筋肉が乱れる。いや、その前にちゃんとした食事からだ。お前も俺様と同じものを喰え」


 味の濃い、脂ぎったものなどもってのほかだ。

 メイ・ドエムはふるふると首を振り、青色の髪を真横に飛ぶくらい揺らしているが悪役貴族様がそんなこと気にするか。


「お前に拒否権など存在しないんだよ……! そして、飯は俺様と一緒に喰らうのだ」

「そんな! わたしはスティーシ―様が食事を終えられた後で……!」

「時間の無駄だ。それにお前がちゃんと食べたかの確認もしないとな……クハハ」


 土下座で懇願するメイ・ドエムの顔を持ち上げ間近で笑いかけてやると、目の端から涙をぽろぽろ零し、俯き泣き続けた。

 ちょっとだけ胸が痛んだが、俺様は悪役貴族。自分を最強の魔王にする為には心を鬼にしてメイ・ドエムを追い込む。


 ついでに、彼女も多少鍛えた方がいい。あまりに細すぎてこれから無駄なく成長するつもりの俺様のメイドとして心配すぎる。身体づくり、そして、知識を与えねば。そして、時折甘味や装飾品などの飴を与えて騙し、その分分かっているよなあと脅し、どんなに屈辱でも俺様の言う事に絶対服従なメイドに仕立て上げる!


「クハハ! メイ・ドエム、行くぞ! ここから俺様達は修羅となる」

「は、はひぃいいいいい!」


 あまりの恐怖か涎を垂らしながら目の焦点が合っていないままの返事が気持ち悪かったが、まあ、いいだろう。悪役貴族メイドだ! そのくらいでちょうどいい!


 それでは、健康的な食事からの、マインドフルネスからの、俺様流正しく丁寧なストレッチからの……地獄のトレーニングだ!


 ちなみに、トレーニング後は、ストレッチと瞑想、そして、健康的な食事、さらに十分な睡眠は絶対だ! クハハハハハ!

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