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第4話 決闘というシステムを作ってみたんだけど!

「ふぅ~……今日も俺様の筋肉がいい悲鳴をあげてやがる……お前はどうだ……? メイ」

「は、はぁい……わたしももう果てあげてしまいました……はぁはぁ」


 果てあげるとは?

 何度も限界を超えたという意味だろうか、時々メイは意味の分からないことを言ってしまう位イカれた目をしている時があるけれど、今日もしっかりと計画的なインターバル休憩とプロテイン摂取をおこなっているので問題ないだろう。


「さて、次の予定は……剣術のトレーニングか。クハハハ、まだまだ俺様は強くなるぞ。なあ、メイ」

「勿論でございます! ご主人様はまだまだまだまだまだまだ攻撃力を上げることが出来るはずです。ごくり……」


 何故攻撃力限定なのか?

 まあ、あのクソ主人公にダメージを与えられる敵キャラなんて存在しなかったからな。攻撃力があって損はないか。そう俺様は思い直し、次のトレーニングへと向かう為に、俺様専属の使用人を呼ぶ。


「おい! シヨウ・ニンジャ」

「はい、スティーシ―様!」


 俺様特製筋トレルームの扉を開けながらヤツを呼ぶと待ち構えていたかのように、いや、待ち構えていたのだろう。俺様専属の使用人であるシヨウ・ニンジャが俺様に剣を渡し、代わりに汗を拭いたタオルとプロテインの入っていた器を受け取る。


 作者くんさあ。


「どうかされましたか? スティーシ―様、剣に違和感でも?」


 俺の方を見て首を傾げる銀髪の少年。父上が気を遣って同世代の、それでいて出来る使用人をつけてくださった。それはいい。だが……。


 シヨウ・ニンジャってなんだよ!


 ちなみに、この屋敷で働いている使用人は他に、シヨー・ウニンジュやシヨウニ・ンジョなどがいる。恐らくあいうえお順だ! しかも、ナリキーン家に至ってはじゃじゅじょの行である。こうなると、他の家の使用人やメイドの名前が気になって仕方がないが、とにかく俺様専属使用人シヨウ・ニンジャが怪訝そうな顔を向け続けるのでなんでもない、と首を振り、庭へと向かう。


 クソゲー作者のクソネーミングセンスはさておき、俺様が前世の記憶を取り戻してから3年がたった。


 脂肪の塊だった身体も凝縮された筋肉に完全に生まれ変わった。本来であれば、なかやまきんに○ん神のような巨大かつ美しい『令和の肉騒動かい!』的な筋肉を作りたかったが、この世界では筋肉を大きくし過ぎると問題が起きた。


 前世とは違い魔法のあるこの世界では、魔臓と呼ばれる魔力を生み出す器官が右胸に存在し魔脈を通して身体中を循環し続ける。これにより魔力による身体強化や魔法の使用が出来るのだが、筋肉を大きくし過ぎると魔力の通りが悪くなるということが研究で判明していた。


 まあ、このあたりの設定なんて語られたことはなかったので、作者が何か無理矢理ねじ込んだとんでもストーリーを成立させる為に『世界』側が調整した結果なのだろう。


 なので、大きくすることは諦め、現在の細マッチョモードになっている。


「まあ、大きくすることを諦めただけだがな」


 そう、大きくすることを諦めただけ。


『大きく出来なくても筋肉を増やせるのかい、増やせないのかい?!』


 俺様の中の神が問いかけ続ける中で俺様が辿り着いた境地。それは、筋肉を身体操作魔法によって凝縮させる!


 膨らんだ筋肉を常時魔力によって操作し凝縮させるという荒業には、常に魔法を発動させ続けるという膨大な魔力量と繊細な魔力操作が必要だった分苦労はしたが、その苦労に見合うものもあった。


 それは、魔力の鎧を常に纏い続けることで魔脈以上に魔力が身体を循環し、魔法の威力も上がったということだ。


 この技術は俺様とメイしか取得はしていない。が、いずれは俺様の悪の戦闘員達には全員身に付けさせるつもりだ。


 クソ主人公には、クソ主人公程ではないにしろチートなヒロイン達が山ほどいる。そいつらに対抗する存在も揃えていかなければならない。時間はいくらあっても足りないのだ。


「それにしても……」

「ど、どうかされましたか? ご主人様、そんなに素敵な邪悪な視線をわたしに向けられて、お仕置きですか!? お仕置きですね!?」


 神速で四つん這いになったメイを見下ろす。俺様でも予測不能な存在となったメイだが、まさか俺様と同じこの身体操作法『魔鎧』を身に着けるとは思わなかった。メイは俺様よりもかなり細く見えるが、魔鎧を外せばムキムキメイド。


 それはそれで面白いのだが流石に目立つ。

 俺様は出来るだけ暗躍し、力をつけていきたい。その為に魔鎧もまだ知っている者は限定している。それ以外にも、魔法や剣術、武術の家庭教師も全員俺様が面接し口の固いものを呼び、クソ主人公に気取られ警戒されすぎないようにしている。


「それにしても、シヨウ・ニンジャ。剣術の先生は来ないのか?」

「は……それが先ほど代理の人間から手紙が届きまして『スティーシ―様に教えられることはもうない』と……」

「なん、だと……!」


 俺様は膝から崩れ落ちる。それはそうだろう。これで十何人目かの教師が辞めた。


 覚醒1年目は良かった。覚えることも多く、教師共も楽しそうに俺様とメイに教えてくれた。だが、丁度1年くらい経ち、身体が完全に生まれ変わり魔鎧を覚えてからは全てが一瞬で終わっていった。


 どうやらこの世界の武術・魔法の類は魔力操作によって多種多様な技や魔法がうまれているらしいのだが、その究極と言える魔鎧を覚えた俺様では、ほぼ一目見ただけでその魔力の性質・流れが分かってしまい、魔力量もある為に少しばかりなぞらえて練習すれば出来てしまう。それによって、教師共は今回のように教えることはもうないとどんどんと去っていってしまうのだ。


「くそ……!」

「スティーシ―様……」


 強くなっている実感はある。だが、あのクソ主人公はありとあらゆる武術・魔法を無視した存在。大体が『究極○○』という下位・中位・上位・最上位・超位などとランク付けされているはずのレベルをやすやすとこえる何かすごいエフェクトのなんかすごい何かをやってくるのだ!


 それに対抗する為に、最強の個の力を得たいのに!


「……いや、切り替えだ。こんなクソ世界観世界に期待しても無駄だ」


 そう、この世界ではクソ主人公様が絶対。であれば、俺様が次にすべきは……。


「メイ、シヨウ・ニンジャ。今、ナリキーン家はこの領地の支配者と言っても過言ではないよなあ」

「スティーシ―様、確かに貴方様のお陰でナリキーン家は重要な存在ではありますが支配者とは……!」

「いえ! 支配者です! ご主人様こそが、わたしを、このわたしを含めたこの領地全ての支配者です!」


 前世の人生経験と沢山の家庭教師、そして、魔鎧の脳への応用『魔冠』による学習能力により、父上の手伝いを越え、家と領地の運営を任された俺様は、表からも裏からもナリキーン家による支配力を高めてみせた。ここまでくればもう逆らうやつはいない!


 俺様は次の一手を打つ!


「そうだよなあ。ならば、俺様が命ずる。ナリキーン家の治める領地では『敗者は勝者のものになる』と!」

「そ、それは一体、どういう……」

「なんでも構わないから両者の承認する勝負……いや、そうだな、『決闘』だ。決闘という名にしよう。決闘をおこなった場合、敗者は勝者のものとなる。そういう法をこの領地では適用する」


 こうすれば、冒険者でも無法者でも我こそが全てを手にするという腕自慢共が領地にやってくる。その全てを俺様が倒し、教育し、最強の戦闘員として育て上げるのだ。


「細かい事は貴様らで決めろ。俺様が決めたことだ。……言っている意味は分かるな?」


 俺様のこの悪役貴族っぷりを見て、それにふさわしい強者を集めまくれ、という俺様の考えは、長年従ってきたメイならば理解しただろう。シヨウ・ニンジャも驚くほど出来るやつだ。


 だが、不安はある。出来る事はやっておくべきか。


「金は俺様の持っている資金からいくらでも使っていい。とにかく集めるのだ、いいな」

「はひぃいい! ご主人さみゃぁああああ!」

「……は、はい」


 俺様が全力の魔鎧を纏った圧をかけ、命じる。


 メイの返事がキモかったが、まあいつも通りだ。

 ただ、シヨウ・ニンジャのお尻のところがなんかもっこりしてた。俺様の邪悪さに恐怖で漏らしたのかもしれない。


 すまんことをした。いや、全ての人間を恐怖のドン底に落としてでも力を手に入れる。それが最強の悪役貴族の在り方だ!


「クハハハハハハハハハハ!」


 色々誤魔化してやるための高笑いをあげ、匂いとかが気になる前にその場をあとにする。

 だから、俺様は知らなかった。



「……興奮しすぎて、『しっぽ』が戻っちゃってるわよ、わんちゃん」

「五月蠅い。黙れ変態闇の掃除屋メイド。お前には分かるまい、あの方の考えが……」


 なんかいい感じに影のある会話をしていたことに。

 それと、領地の人間が驚くほどにバカだったことに。


「お、おい、この街を変えてくれたあの『神童』スティーシ―様に決闘を挑んで負けたら、ソイツはスティーシ―様のものになれるらしいぞ!」

「勿論知ってるさ! スティーシ―様から使命を与えて頂ける。しかも、報酬も相当らしい」

「おい! 女子供もみんな行くぞ! 俺たちはスティーシ―様のもので、いっしょうついていくんだと身をもって証明するんだぁあああああああああ!」

「なんで、領地の人間全員が俺様に向かってくるんだ!? ええい! こうなれば、全員教育してやる! 最強の肉体と最高の脳と技術を持つ俺様の忠実なる者共に! かかってこいやああああああああああああああああ!」


 一か月以上に及ぶ『決闘』によって、俺様の領地の人間は全て俺様のものになった。え、なんでそんなにかかったかって?

 領民全員にちゃんとした食事とマインドフルネスの時間、十分な睡眠の時間を確保させる為にはこのくらい必要だからだ。


「「「「「「決闘に負けた我々は、スティーシ―様のものです」」」」」」


 なんかちょっと思ったのと違ってたが、これはこれでいいか! クハハハハ!


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