目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第2話

 傘をお持ちしましたよ、軍師様!

 狐の仔の姿で喋れない珠珠じゅじゅは、伝われと念を込め、尻尾をぱたぱた振った。


「っ!」


 軍師様はこちらを凝視ぎょうしし、思わずといった様子で口元を手でおおった。

 手の隙間から呟きが漏れる。


「……可愛い」


 今、なんと仰いましたか?

 珠珠はこてんと首をかしげる。それを見た軍師様は、凛々しい眉をへにょりと垂れさせた。


「こんな愛らしい生き物が、この世に存在したなんて……!」


 そして、中腰のまま、慎重に珠珠に近寄ってくる。

 ほら、傘を受け取って下さい。

 くわえた傘を差し出すと、軍師様は傘と共に、珠珠の胴体をぐわしっと掴んだ。


「これは何とも、見せ物小屋に売り払われる前に、私が保護すべきだ。そうとしか思えない」


 ほわっつ?!


「しーーっ、悪いようにしないから」


 油断していた珠珠は、あっさり軍師様に捕まってしまった。

 小さな手足をバタバタさせて逃れようとするが、当然ながらそのような抵抗は全く意味を為さない。

 こちらを見る軍師様の目は異様にきらきらしていた。雲上人の美貌がさらに眩しいが、珠珠はこれとよく似た表情を店の前でよく見たことがある。珍しい生き物を捕まえて興奮する少年の顔だ。


 だって! 大人な軍師様が、仔狐に執着すると思わないじゃない?!


 離して~と全身で訴える珠珠を、軍師様は手持ちの袋に放り込み、ちゃっかり受け取った傘をさして、城隍廟じょうこうびょうを後にする。

 その時には、雨も小雨こさめになり、昼の明るい光が往来を照らしていた。空は晴天。雨龍様の機嫌が直ったようだと言って天を拝む民の声が聞こえるようだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?