今の皇帝には、二人の息子がいる。正妃の藍皇后の産んだ第一皇子、
通常ならば第一皇子が世継ぎの君だが、皇帝は第二皇子の
雨龍とは、この
第二皇子の応泉は、雨龍の証、龍の鱗が体にあるらしい。そのことを知った皇帝は、第一皇子を差し置いて応泉を後継とした。
雨龍皇太子とは、すなわち応泉のことだ。
「でも宮廷では、皇太子様が真の雨龍か、疑問視する声があるのよ」
「
いくらここが宮廷から遠く離れた茶房でも、話して良いことと悪いことがある。
常連客の貴族の女性、
「あら。今この店はあなた一人だし、あなたは口が軽い人ではないから、信頼しているわ」
梅花は茶碗を受け取って微笑む。
そうすると名前どおり花がほころんだ風情だ。
彼女は咲き染めの春の花精のように美しい女性だった。桃の実のように明るく柔らかな肌に、艶やかな長い黒髪。さくらんぼのような唇が、心地よい響きの声をつむぐ。
何より特徴的なのは、湖水のような翡翠色の瞳だ。
その神秘的な瞳に見つめられると、同性の珠珠も感じるものがある。
「梅花さん、絶対こんなところにいて良い身分の人じゃないでしょ……」
「ほほほ。私の正体は秘密よ」
いくら玉都で最近流行の餅屋併設の茶房といっても、雲上人を迎え入れるほどではない。しかし安い緑茶でも、梅花が匂いを嗅いでいるさまを見ると、高級な白茶だと錯覚しそうだ。繰り返すが、ここは高貴な人が集まる
「それよりも聞いてよ、軍師様の武勇伝。先日、陛下の命を受けた御史台の役人が、難癖を付けて軍師様を降格させようとしたのだけど、軍師様はそれを見事切り抜けてみせたのよ。どんなやり取りだったか、あなたにも聞かせてあげる!」
梅花は興奮して前のめりに語る。
慣れているので、珠珠は盆を間に挟みながら、落ち着いて相槌を打った。
「皇帝陛下は、軍師様がお嫌いなのですか?」
「嫌いというか、第一皇子の閏祥様を目の仇にしているのよ。皇帝陛下は、白妃と第二皇子びいきだから。軍師様は、第一皇子の閏祥様の優秀な側近なのよね」
「それは、とんだとばっちりですね」
珠珠は聞きながら、頭の中を整理する。
皇帝陛下は、第二皇子を大事にされていて、第一皇子に冷たい。はい、ここ大事だから、次の
ということは、宮廷で第二皇子が真の雨龍か疑問に思われているのも、皇帝陛下の
梅花は軍師様について話したくて仕方ないらしく、すぐ本題に入っていく。
「本当にそう。御史台の告発も、言いがかりなんじゃないかって話なのよ」