中秋節の糕点師試験は、一次審査と二次審査がある。二級所持者は一次審査を免除されるので、英林は二次審査からだ。
二次審査は、作った菓子を審査会場の商館に持っていく。結果は次の日に通達された。
「二次審査に通ったぞ! すごい、前回は通らなかったのに! これが白氏様の力か」
合格した英林は大層よろこんでいる。
最終審査は、御前品評。
不正のないよう、皆の見ている前で、菓子を作る。
「俺の後ろで働けよ、子豚ちゃん」
「……」
英林も一応菓子は作れるが、珠珠ほど上手くない。しかし、新作菓子の作り方は事前に英林に共有するので、御前品評の時には問題なく作業できるだろう。
材料は持ち込みが認められているが、今回は皇子も品評するので、二日前に提出して毒物が混じっていないか検品される。
数日掛けて準備し、珠珠は作業着姿で、英林と会場入りした。
場所は、持水宮の外苑で、広い空き地に天幕を張って作業する。観客席や貴賓席の区切りは荒縄が引かれており、北軍の衛兵がものものしく並んでいる。
「ご静粛に。南陵王様、ご来場!」
次々と
珠珠も平伏しながら、こっそり観察する。
南陵王とは、第一皇子、
南部戦線の大将軍に任ぜられたからか、あるいは本人の気性からか、第一皇子の閏祥は武人の雰囲気をまとっている。贅肉のない、すらりとした体格で、裾の締まった軍服短袍を着て帯剣しているが、皇子ゆえの気品に満ちあふれた動作で
そして皇子に付き添うのは、軍師様と呼ばれる
皇子が剛なら、清晨は柔。武官の服装の皇子に対し、清晨は文官の長袍を着ている。厳しい表情の皇子に対して、謎めいた笑みを浮かべている清晨。どこまでも対照的な二人は、完成された一対のようだ。
二人がやってくると、周辺の女官や下女たちがうっとり見惚れる。
確かに目の保養だわ~。
「気をつけて」
給仕の下女が緊張して転び掛ける。
清晨が声を掛けると「は、はいっ」と下女は真っ赤になった。女性に優しいのも高評価ポイントだ。
二人が一段高いところに
「雨龍皇太子殿下、ご光臨!」
うわっ、大げさ。
全員が平伏する中、とても豪華に飾られた
御輿に乗る雨龍皇太子こと
珠珠は、先日、梅花が言っていた皇子同士の確執を実感した。明らかに第二皇子は、第一皇子より自分の方が偉いと強調してきている。兄弟仲が悪いのは確定だ。
「皇太子殿下の御前である! 歴史に残る菓子を作るが良い!」
役人が声を張り上げ、御前品評の開始を宣言する。
珠珠たちは急いで調理台の前に立ち、菓子作りを始めた。