「娘、
どうやってこの目立つ場所から出ようか、逃げ出せるか考えていると、壇上の
「お前は、この菓子に込められた意図を知っているか」
問われた珠珠は、覚悟を決めた。
これが最後の機会であるなら、菓子を作った者として、説明するくらいはしたい。
「はい」
「言ってみるがいい」
「季節を―――」
珠珠は伏せ気味にしていた顔を上げ、清晨を見上げた。
「季節を巻き戻し、春にできないかと」
「春」
「先月、ご誕生の祭日を迎えられた雨龍皇太子殿下に献上する月餅です。花盛りの季節をもって、お祝いを申し上げたいと考えました。
清晨は手にした月餅を陽光にかざし、興味深そうに眺めると、そのまま口元に運んだ。
「清晨?!」
驚いたことに、焦った声を出したのは、第一皇子の
第一皇子は心配そうに清晨を見ている。その眼差しは、単なる部下に対するものではなく、まるで兄弟に対するような親愛の情がこもっているように見える。
しかし、皇子の視線を受けた清晨は、飄々とした様子で月餅を頬張っていた。
「大丈夫ですよ、殿下。毒はないと、先ほど、その娘が証明したばかりです」
「それはそうだが……」
「面白い味がする。
軍師様は味覚が鋭いらしい。
珠珠は、気付いてもらえたことに喜びを覚えた。
「
「なるほど」
くわえて、春の果実の酸っぱさを再現できないか考えた。
その旨を説明すると、清晨は上機嫌でうなずいた。
「美味かった。このような繊細な表現は、たおやかな女人ならではかな」
味の感想を聞き、珠珠は心が満たされるのを感じた。
糕点師の名誉など、どうだっていい。
まさにこの瞬間のためだけに、珠珠は菓子を作っている。
清晨は一瞬、とても優しい笑みを浮かべた。だが、すぐに規則を重んじる官僚としての厳しい態度に戻る。
「しかし、選考としては失格だ。それは分かっているね」
「はい」
「よろしい。下がれ」
珠珠は頭を下げ、衆目の中を進んで堂々と退場する。
行く当てはない。
しかし、胸の中は晴れ晴れとし、一点の