断罪されるでもなく、ただ退出のみ命じられた
どうしようかな。
珠珠は途方に暮れた。
帰っても元の職場で働くことは出来ないだろう。皇子の目前で罪をさらされ、英林と彼らの営業する店の栄光は地に堕ちた。もはや誰も菓子を買いに来ないだろう。
軍師様の下した処罰は、あれでも寛大な方だ。神聖な雨龍皇太子の御前で、菓子を作った者を
「そこの娘。こっちに来なさい」
立ち尽くしていると、誰かに呼ばれた。
呼び主には見覚えがある。
仔狐の姿で
「なんでしょうか」
「困っているなら、うちに連れて来いと清晨様の指示です。あの方は、大の甘党です。気に入った菓子職人は、犬猫と同じ感覚で拾って帰るんですよ」
「えぇ?!」
仏頂面の仲達は、主の気まぐれに
しかし、じろじろ珠珠を見る目には、少し同情が混じっている。
「あの方の世話になる千載一遇の機会ですが、どうしますか?」
「私に選択肢があるんですか」
「断って頂いて構いません。むしろ断れ」
本音が出てるよ、仲達さん!
優しそうな外見だが、あの軍師様の腹心だけあり、笑顔の裏の圧力が半端ない。
珠珠は、この気難しそうな従僕と上手くやっていけるか不安になったが、ここで断ったら行き倒れるのは目に見えている。
「お世話になります」
ぺこっと頭を下げると、仲達は深い深い溜め息を吐いた。
「どうせ、すぐに逃げ出すに決まっているのに。面倒なことですね」
「……」
珠珠としては、数日雨をしのげるだけでも恩の字だ。
これからどうするか、ゆっくり考える時間が欲しい。
「来なさい」
「はいっ!」
大股で歩く仲達に、珠珠は小走りで付いていった。
今回は絶体絶命の危機だったが、お菓子が大好きな軍師様の家で働けるなんて、実は運が良いのかもしれない。