「珠珠、
水差しを持って戻ると、凛湘が「良い子だ」と頭を撫でてくる。
「子供じゃないんですが」
「皆そう言うのよ!」
童女扱いされ、むくれる珠珠を、凛湘が「可愛い可愛い」と笑っている。
気を取り直して、聞き返す。
「悟令さんとは、どなたですか?」
「台所に住んでる厨師の爺さん。すっごく気難しくて、すっごく怖い!」
「えぇ」
「新人は、挨拶しに行く決まりなのよ。爺さんに睨まれて辞める奴も多いけど、珠珠みたいな小さい子には爺さんも手加減するっしょ」
凛湘の説明に不安を覚える珠珠。
しかし、厨師と聞いて、屋敷の料理人が何人いるか気になった。
「悟令さんは、清晨様お抱えの料理人なんですよね。
糕点師も厨房を使う以上、料理人の一種だ。
貴族のお屋敷には、複数の役割の違う料理人が勤めているのが普通である。
珠珠は糕点師になるのを
「いないよ。厨房にいるのは悟令さん一人さ。ここは幽霊屋敷という噂で、募集しても人が来なくてね。清晨様が住んでいると公表すれば沢山来るだろうけど、それはしたくないから仕方ない」
「なるほど〜」
道理で人の気配が無い訳だ。
いきなり個室がもらえたり、他の侍女を見なかったりしたことに納得する。
「と、言う事は、あの美味しい青団を作ったのは悟令さん?!」
「悟令さんを知ってるの?」
凛湘は怪訝な顔をする。
一方、珠珠は浮き浮きしていた。
「ぜひ、師匠とお会いしたいです!」
「? まあ、知り合いなら話は早いわね」
深く突っ込まず、凛湘は珠珠を連れて移動を開始した。