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第18話

「珠珠、悟令ごりょうさんに挨拶しに行こう!」


 水差しを持って戻ると、凛湘が「良い子だ」と頭を撫でてくる。


「子供じゃないんですが」

「皆そう言うのよ!」


 童女扱いされ、むくれる珠珠を、凛湘が「可愛い可愛い」と笑っている。

 気を取り直して、聞き返す。


「悟令さんとは、どなたですか?」

「台所に住んでる厨師の爺さん。すっごく気難しくて、すっごく怖い!」

「えぇ」

「新人は、挨拶しに行く決まりなのよ。爺さんに睨まれて辞める奴も多いけど、珠珠みたいな小さい子には爺さんも手加減するっしょ」


 凛湘の説明に不安を覚える珠珠。

 しかし、厨師と聞いて、屋敷の料理人が何人いるか気になった。


「悟令さんは、清晨様お抱えの料理人なんですよね。糕点師こうてんしはどなたが勤められているのですか」


 糕点師も厨房を使う以上、料理人の一種だ。

 貴族のお屋敷には、複数の役割の違う料理人が勤めているのが普通である。

 珠珠は糕点師になるのをなかば諦めていたが、それはそれとして、厨房の隅っこで菓子作りを許可してもらえないかと思う。


「いないよ。厨房にいるのは悟令さん一人さ。ここは幽霊屋敷という噂で、募集しても人が来なくてね。清晨様が住んでいると公表すれば沢山来るだろうけど、それはしたくないから仕方ない」

「なるほど〜」


 道理で人の気配が無い訳だ。

 いきなり個室がもらえたり、他の侍女を見なかったりしたことに納得する。


「と、言う事は、あの美味しい青団を作ったのは悟令さん?!」

「悟令さんを知ってるの?」


 凛湘は怪訝な顔をする。

 一方、珠珠は浮き浮きしていた。


「ぜひ、師匠とお会いしたいです!」

「? まあ、知り合いなら話は早いわね」


 深く突っ込まず、凛湘は珠珠を連れて移動を開始した。


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