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第4話 容疑者と共闘の始まり



クラウディウスが黒幕ではないと分かった今、リリィは彼に直接会い、協力を仰ぐことを決意する。しかし、婚約破棄の宣言をした当の本人と手を組むことは簡単ではなく、二人の出会いは再び火花を散らすことになる。




昼下がりの王宮、庭園の噴水の音が穏やかな空気を作り出している。その景色を背景に、リリィはため息をつきながら歩いていた。

婚約破棄騒動の真相を探る中で、彼女はある確信に至っていた。クラウディウス――隣国ヴェリタスの第一王子であり、突然の「婚約破棄」を宣言した張本人――が、真の黒幕ではないことを。むしろ彼もまた、何かに巻き込まれている被害者である可能性が高い。


「まさか、こんな形で直接話をすることになるなんてね……。」


リリィは自嘲気味に呟いた。彼女が向かうのは、王宮内に設けられたクラウディウスの滞在部屋。王族同士である以上、無礼のないようにと一応正式な手続きを踏んで面会を求めたが、内心はやや気が重い。


扉の前に立ち、深呼吸を一つしてからノックをする。しばらくすると、扉が開き、クラウディウス本人が姿を現した。彼はリリィを見るなり目を細め、警戒心をあらわにする。


「……君がここに来るなんて、意外だな。」

「私たち、少し話をする必要があるの。」


リリィはクラウディウスを真っ直ぐに見つめた。彼女の真剣な表情に、クラウディウスは僅かに眉をひそめたが、何も言わずに彼女を部屋へ招き入れた。


火花散る対話


「で、何の話だ?まさかまだ婚約を認めろと言いに来たわけじゃないだろうな?」

クラウディウスは椅子に座ると、皮肉げに微笑みながらリリィを見つめた。


リリィは彼の挑発的な態度に少し苛立ちを覚えたが、それを表に出さずに答える。

「婚約なんてもの、そもそも最初から存在していないわ。それを証明するためにここに来たの。」


「ほう。それで、証拠でも持ってきたのか?」

クラウディウスの声には興味半分、嘲笑半分といった響きが含まれている。


リリィは鞄から一通の封筒を取り出し、彼の目の前に置いた。それは昨夜記録室で見つけた、クラウス宰相からの手紙だった。


「これを見て。これはあなたの国の宰相が、王宮内の協力者に宛てて送った手紙よ。」


クラウディウスは封筒を手に取り、中身を確認する。そこには隠された計画の一端が記されており、彼の表情が次第に険しくなっていくのが分かった。


「……これは……。」

「そう、婚約証明書はあなたの宰相によって偽造された可能性が高いの。目的は、セレノア王国を内部から混乱させること。そして、あなたもその計画の一部に巻き込まれているのよ。」


クラウディウスは手紙を机に置き、額に手を当てた。その仕草は、明らかに彼の動揺を物語っている。


「クラウスが……そんなことを。だが、どうして君がそれを知っている?」


「どうやって知ったかは、あなたが気にすることじゃないわ。」


リリィの言葉に、クラウディウスは目を丸くする。彼女が単なる王女ではないことを初めて理解したようだ。


「……君は一体何者なんだ?」

「それを教える必要はないわ。ただ、この状況を解決するために、あなたの協力が必要なの。」


共闘への誘い


クラウディウスは椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。風が吹き込み、彼の金髪を揺らしている。


「協力と言われてもな。君の話を信じたとして、俺がそれに手を貸す理由がどこにある?」


「理由?それなら簡単よ。あなたも宰相に操られている被害者だから。」


リリィの言葉に、クラウディウスは振り返る。その目には、自分が気づかないうちに利用されていたのではないかという疑念が浮かんでいた。


「……分かった。もし君の言うことが真実なら、俺も動くべきだろう。だが、君に完全に協力するつもりはない。」

「それでも構わないわ。ただ、私たちの目的は一致しているはず。クラウスの計画を暴く。それだけで十分よ。」


二人はしばしの沈黙を挟んだ後、再び目を合わせた。そこには、かつての婚約破棄を巡る対立はなく、共通の敵に立ち向かうための一時的な信頼が芽生えていた。


新たな手がかり


「まず、クラウスが次に動く場所を突き止める必要があるわ。」

「奴が次に狙うのは、おそらく……セレノアの貿易港だろう。」


クラウディウスの言葉に、リリィは頷いた。貿易港はセレノア王国の経済を支える重要拠点だ。そこを混乱させることで、王国全体に大きな打撃を与えることができる。


「分かった。私たちの次の目的地は貿易港ね。」

「俺の護衛を何人か連れて行く。君も準備を整えておけ。」


リリィはクラウディウスの申し出に少し驚いたが、頷いて部屋を後にした。互いに完全に信じたわけではないが、二人の共闘が始まるのは確かだった。


夜の決意


その夜、リリィは自室で短剣を手入れしながら、自分の胸に去来する不安と期待を整理していた。


「共闘することになるなんて……でも、これが最善の道よね。」


リリィの表情は静かだが、その目には強い決意が宿っていた。クラウスの陰謀を暴き、セレノア王国の平和を守る――そのために、彼女は隠密姫として全ての力を尽くす覚悟を固めていた。



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