鉱山からの脱出に成功したリリィとクラウディウスだが、クラウス宰相の計画の一端を知ったことで二人の間に緊張が走る。クラウディウスは自身の立場と、宰相との関係について葛藤を抱え、リリィとの共闘に亀裂が入る可能性が生じる。
逃げ延びた先は、鉱山から少し離れた山間の小さな洞窟だった。リリィとクラウディウスは疲労困憊の状態で洞窟に身を潜め、ひとまず追っ手の目を逃れることができた。
「なんとか間に合ったわね。」
リリィが洞窟の奥に腰を下ろしながら呟くと、クラウディウスも息を整えつつ壁に寄りかかった。
「君が内部から追っ手を振り切ってくれたおかげだ。」
クラウディウスは皮肉交じりに微笑む。その言葉には感謝の意が込められていたが、どこか沈んだ響きもあった。
リリィは彼の様子をじっと見つめ、静かに口を開いた。「何か考え込んでいるの?」
「……いや、大したことではない。ただ……。」
クラウディウスは口をつぐみ、一瞬目をそらした。
「何かあるなら話して。ここまで来たんだから、隠し事はなしよ。」
リリィの鋭い視線に、クラウディウスは観念したようにため息をついた。
クラウディウスの葛藤
「俺は……クラウス宰相と直接関わったことがある。彼は父王にとっても信頼できる臣下だった。少なくとも、そう思っていた。」
クラウディウスの言葉に、リリィは目を細めた。彼が語る内容は、単なる宰相と王子の関係を超えた深い絆を示しているようだった。
「そのクラウスが、君たちの国を支配しようとしている。正直なところ、俺にはまだ信じられない。」
クラウディウスは拳を握りしめ、苦しげに呟いた。
「信じられない気持ちは分かるけど、これが現実よ。彼の計画は、あなたの国だけでなく、私たちの国も巻き込むものなの。」
リリィは冷静な声で答えた。その瞳には、クラウディウスを責めるような感情はなく、ただ事実を伝えようとする誠実さが込められていた。
クラウディウスはしばらく黙り込んだが、やがて重い口を開いた。「君の言う通りだ。俺は、彼が俺たちを利用していた可能性を受け入れるしかないのかもしれない。」
計画書を巡る議論
リリィは、鉱山から持ち出した計画書を広げ、その内容をクラウディウスに見せた。それには、セレノア王国の軍事拠点や貿易港が赤い印で示されており、どの場所をどのように攻撃するかが詳細に記されていた。
「ここを見て。次に彼が狙うのは、私たちの王国でも最も重要な貿易港よ。」
リリィは計画書の一部を指し示しながら説明した。
「こんな詳細な情報を、彼がどうやって手に入れたのか……。」
クラウディウスは驚愕の表情を浮かべながら、その紙をじっと見つめた。
「内部に協力者がいるのよ。それも、かなり上層部にね。」
リリィの言葉に、クラウディウスは歯を食いしばった。
「もし俺の国の内部にも協力者がいるなら……これは単なる宰相の計画ではなく、もっと大きな陰謀だ。」
共闘への決意
二人の間に漂っていた緊張感は、次第に共闘への決意へと変わっていった。クラウディウスは深く息を吸い込み、リリィに向き直った。
「俺は、君の計画に全面的に協力することにした。これ以上、俺の国も君の国も、奴の思い通りにはさせない。」
「ありがとう。でも、これはあなたのためじゃないわ。国全体を守るための戦いなの。」
リリィは微笑みながらも、冷静な声で応えた。
クラウディウスはその言葉に少し驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。「君の冷静さには感心するよ。本当に王女なのか疑いたくなるな。」
リリィは肩をすくめながら答えた。「冷静でなきゃ生き残れないだけよ。」
次なる行動の準備
休息を終えた二人は、次なる行動の準備に取り掛かった。クラウス宰相の計画を阻止するには、次に狙われる貿易港に先回りして対策を講じる必要がある。
「私たちの次の目的地はここね。」
リリィは地図を広げ、計画書に記された貿易港を指し示した。
「了解だ。ただ、そこに到着する前に敵がまた動く可能性がある。慎重に行こう。」
クラウディウスは剣を確認しながら言った。
「ええ、もちろんよ。でも、あなたがそばにいるなら、少しは安心できるかもね。」
リリィの軽口に、クラウディウスは苦笑した。
揺るぎない絆
旅を再開した二人の間には、以前よりも深い信頼が芽生えていた。クラウス宰相の陰謀に立ち向かうため、互いに協力することが唯一の手段であると理解しているからだ。
「君と組むのは悪くないな。」
クラウディウスがぽつりと呟く。
「私もよ。あなたが頼りになるとは思わなかったけどね。」
リリィの返答に、二人はわずかに笑みを交わした。
彼らの戦いはこれからが本番だった。クラウス宰相の計画を阻止するため、二人はさらなる困難に立ち向かう覚悟を固めた。