目の前の美少女は銀髪をポニーテールにしている。凛とした顔。右目は紫水晶のように美しい。左目は残念ながら眼帯をつけているために確認できない。
軍に所属しているのかブレザータイプの女子高生風の軍服を着ている。
その軍服の上からおしとやかな胸を守るブレストメイル、枝のような腕先を守る籠手、プリっとした天使の小尻を隠すスカートの軽装備だ。
そんな彼女の両脇を固めるように美女が2人立っている。一人は魔法使いを思わせるようなローブ姿。もう一人は聖騎士の鎧姿。
こちらの2人には申し訳ないが、守備範囲外だ。見た目で20歳を超えてることは自分の持っているパンツマン・アイで判別できた。
彼女たちの中心人物であるブレザー型軍服を改良した姿の美少女にどうやっても目を奪われてしまう。
「キミの名は!?」
「アリスと言っています!」
「俺の名はオミトだ!」
「……クッ! パンツマンの中でもネームド!?」
アリスと名乗った美少女が驚きの表情となっている。やはり自分はこんな
誇らしさをまざまざと見せつけるべく、腰に手を当てて、胸を張ってみせた!
しかし、次の瞬間、眩暈を感じた。立っていられなくなり、その場で片膝をついてしまう。すると、目の前にいるアリスが困惑し始めた。
彼女を困らせないようにと脂汗がにじむ顔でにっこりとほほ笑んでみせた。さらには要らぬ気遣いをさせぬようにと言葉を投げかけておく。
「キミのパンツが食べたい! って、俺、何を言ってるんだ!?」
「……クッ! やっぱりあなたは正真正銘、パンツマンみたいね!」
「どういうことだってばよ!」
「パンツマン、あなたは1日に3回、パンツを食べないと飢えて死ぬの」
「どういう設定なんだよ、この身体!」
「あなたがこの集落にやってきたのは女子たちの……ぱ、パンツを食べるため……なんでしょ!?」
目の前のアリスが真っ赤な顔になっていた。15~16歳の少女がパンツという単語をその整った口から発している。
とんでもないご褒美だと思えた。
しかし、それに反して、どんどん力が身体から抜け落ちていく……。このままでは死んでしまうと感じた。
よろよろと身体をふらつかせながら、自分の右側にあった家へと手をかざす。残っている力を手から発した。
衝撃波が家を粉々にする。家の中の物が宙を舞って、そこら中に散乱していく。その中にパンツがあった。
40歳くらいのおばさんが履くパンツだ。本当なら10代の少女たちのパンツを食べたい。しかし、今はそんな贅沢なことを言っている場合ではない。
霞む目で紫色のけったいなデカいおばさんパンツを手に取る。それを震える手で口元へと持っていく。
「がはぁ!」
「何、シレっとパンツを食べようとしているのよ!」
次の瞬間、背中に衝撃を受けた。上から下へとまっすぐに振り下ろされてきた斬撃だった。だが、それによって、こちらは傷を負うことはなかった。
アリスが手加減してくれたのであろう。直接、刃を叩きこまれたわけではなかったようだ。カチッという剣を鞘に納める音が聞こえる。
ブーツが地面を踏む音が背中側から聞こえてくる。しかし、今はもう後ろを振り向くだけの力すら残っていない。
せめて、おばさんパンツを取り上げられないようにと、口の中へと入れる。それが今の自分が出来る精一杯だった。
「ぐぅ……死ぬ前にJCのパンツが食べたい人生……でした」
「ふぅ……よっぽど余裕が無かったのかしら? 可哀想だけど……あなたの身柄はここから東にある街へと連行させてもらいます」
気が遠くなっていく中、パンツマンは美少女たちによって捕縛されてしまう……。
§
次に目を覚ますと自分は牢獄の中だった。
なんとも殺風景な場所だった。自分の力を試すためにパンツマン・チョップを鉄柵に叩きこんでみる。すると、溶けた飴のように簡単にひん曲がった。
次にパンツマン・キックを茶色の石壁に放った。牢獄の壁に大穴が空いた。ひくひくと頬を引きつらせるしかない。
「ふっ……俺は悲しきモンスター・パンツマンなのか!? 女神、出てこい!」
しかし、女神からは何の返答も無かった。脱獄するのは今の自分の力をもってすれば、簡単なことだった。
「おい、何を暴れてやがる。ほら、食事だぞ」
「うおおお! パンツひゃっほーーーい!」
看守から1日3食、パンツを与えられた。それをナイフとフォークでステーキを食べるように丁寧に切り分けて、ゆっくりと味わった。
ひと口、パンツの切れ端を口に運ぶほどに色んな情景が頭の中を流れていく。このパンツの所有者の記憶がパンツを通して脳内に再生された。
それによって、この世界がどういったものかを知ることになる。
100年前に封印された魔王が今から2年前に復活した。それからというものモンスターが世界各国で暴れまわっている。
そして、人々を守るために勇者も誕生した。勇者を中心として人類は魔王に対抗しているようだ。
だが、勇者ひとりでどうにかなるほど魔王軍は甘くない。勇者以外の者たちも戦いに駆り出されることになったようだ。
「ごちそうさまでした。なるほど? 俺がヒーローとしてこの世界に呼ばれたのは間違いないのだろう」
日々、与えられるパンツのおかげでどんどんこの世界のことを知ることができた。このパンツマンという能力には驚かされてしまう。
「なんでパンツから情報を得られるんだよ! 俺はモンスター以上のモンスターすぎるわっ!」
「おい、うるさいぞー! 何時だと思ってるんだ!」
「すみません……」
夕飯が終わればすぐに消灯時間だった。投獄されて目を覚ましてからすでに87日間が経過しようとしていた。
パンツマンとなったオミトは自分の置かれている状況と、この世界が危機に陥っていることをパンツを食べることで知ることになる。
何か出来ることがないのかと自問自答した。しかし、焦りは禁物だ。今までの87日間を使い、じっくりと自分の中でパンツマンという事実を受け入れた。
そして、90日目を迎えた朝、パンツマンは悟りを得た。
"スキル【悟り】を手に入れました~♪ あれ? 意外と早く受け入れたのね?"
「この声はぁ! このクソ女神! 何てことをしやがった!」
"ちがうの!? 聞いて! わたくしは悪くないわ!"
「どう考えてもお前のせいだろっ!」
"半分はわたくしのせいよ? あなたのモデルをウルトラマンにする予定だったけど、やっぱりアンパンマンと食パンマンは外せないな~って"
「こんちくしょーーー! 今すぐ俺を元の人間に戻せ!」
"(ヾノ・∀・`)ムリムリ あなたが元に戻るには聖女のパンツ、魔王のパンツ、そして勇者のパンツが必要なの"
女神はそう言うと続けて自分にパンツマンの伝承を教えてくれた。
――――――
転生者の命を受け
マスクを捨てて戦う男
パンツアイで見逃さず
パンツイヤーで危機察知
パンツウイングで駆けつけて
パンツキックで敵倒す
神のパンツを身に着けた
正義のヒーロー パンツマン パンツマン
世界を救いし伝説のパンツマン
聖女パンツ
魔王のパンツ
勇者のパンツ
残さず食べた
パンツマンはその力でヒトとなる
――――――
「……もう何を言ってるのかわけがわからないよ!」
"この伝承通り、あなたはヒーローになるしかないわっ"
「パンツマンでどうやってヒーローになれって言うんですかぁ!」
"そ、そこはあなたの努力次第……?"
「疑問符をつけて答えないでくださーーーい!」
女神とのやりとりはしばらく続いた。どうやら、自分が死ぬ間際に「JCやJKのパンツになりたい」と願ってしまったのも原因だと判明した。
死ぬ間際の自分を思い切りぶん殴ってやりたくなってしまう。確かに女神の言う通り、自分もこうなった原因の半分を担っていた。
"あなたは運が良いわ。あなたを捕らえたアリスって子がいたじゃない?"
「あの美少女がどうしたんです?」
"あの子って、現役勇者なの。勇者のパンツを探す手間はこれで省けたってやーーーつ!"
「……えっと。女神様? 俺、彼女と最悪な出会い方してますけどぉ!? あの子の前でおばさんパンツをもしゃもしゃ食べてましたけどぉ!?」
"あっ……うん。がんばれがんばれ♪"
「ちくしょう、ちくしょう。俺がこんな姿になるまでは伊達グループの御曹司だったんだぞぉ!? 何の因果でこんなモンスターになっちまうことにぃ!」
"それはあなたが心の奥底でJCやJKにいかがわしいことを思っていたからじゃ?"
「……正論って、ひとを傷つけるんです。やめてください。本当にごめんなさい」
女神が苦笑いしている姿を容易に想像できた。こんな悲しきモンスター・パンツマンになったのは自分の死ぬ間際の強烈な念が原因だ。
念の力は死ぬ時にこそ強まる。それも女神に説明してもらった。オミトは観念した。スキル:悟りがそうさせてくれたとも言える。
「俺は3種のパンツを集める! そして、ニンゲンに戻るんだーーー!」
静かな牢獄の中でパンツマン・オミトの声がこだました……。看守から「うるさいぞ!」と怒鳴られてしまった。
しくしくと涙で臭い枕を濡らすしかなかった……。