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第4話:パンツマン、世界を知る

"とりあえず、このままだと色々不便だから、あなたには勉強と修行をしてもらうわね?"


 女神からの念話を受け取るなり、オミトの頭の上にハテナマークが浮かんだ。何をされるのかと訝しんでしまう。しかし、何も言わせないとばかりに光の門が目の前に現れる。


 そこへと足を踏み入れる。急に視界が広がったことで、思わず目を腕でカバーしてしまう。「ぐぅ……」と唸りながら、ゆっくりと腕を下ろす。そこは不思議な空間だった。


 天幕付きのベッドが横にある。あとは平面の空間が縦横無尽に広がっているだけだ。眩暈すら覚える殺風景な場所だった。


 そんな自分の傍らに金髪縦ロールの女神が白いローブを纏って顕現してきた。彼女はえっへん! と豊満な胸を張っている。こちらは余計にひくひくと頬を引きつらせるしかない。


「簡単に説明すると、ここは精神と時の部屋よ!」

「簡単すぎる説明だな!?」

「わかりやすくて助かるでしょ?」

「わかりやすすぎて、逆に困惑するわっ!」


 あの有名すぎる漫画に出てくる修行用の空間だった。実際にここにやってくると、元居た場所とは雰囲気が違い過ぎて、息が詰まって仕方がない。


 ただただ広い空間。音が周りから何も聞こえてこない。世間とは隔絶されているというのが嫌でもわかってしまうそんな寂しすぎる場所だった。


 こちらが困惑しているというのに、女神はまったく気にしていない。こちらにニッコリとほほ笑みかけてくるだけだ。


 疑念交じりの目の色で女神を見たが、それでも女神は微笑みを絶やさない。


「パンツマン。あなたはいろんなことをもっとよく知っておく必要があるわ」

「なん……だと!? 俺の何が足りないというんだ!?」

「逆に聞くけど……食べたパンツから受け取った情報だけで、この世界の全てを知ったつもりでいるわけ?」

「え? ちがう……のか? 魔王と勇者が敵対していることだけ知ってればいいんじゃないのか?」

「まったくちがーーーう! あなたは今やイレギュラーの存在なのっ!」


 自分の考えは浅はかだと女神にずばりと指摘された。女神がいつものようにタブレットを持ち出してきて、それを操作し始めた。


 それとともにスクリーンがいくつも虚空へと展開される。女神によるこの世界の成り立ち講座が開始された。


「まず1番に知ってもらいたいことは、この世界は世界樹によって支えられているの」

「ふむ……まさしく異世界ファンタジー……だな」

「この世界樹を巡って、悪と善が激しく戦いあっているわ。悪側が魔王率いるモンスターや魔族。そして、善側はニンゲンたちと彼らの代表である勇者」

「お、おう。善悪二次元の世界でわかりやすいな?」

「まあ、大まかに分類してるだけよ。どちらサイドにも派閥が存在するわ。その派閥が相食み合っているのは地球の時とあまり変わらないわよ」

「面倒な世界だな」

「でもあなたはその派閥のどこにも所属していない」

「だから、イレギュラーってわけか!」


 女神が「やれやれ……」と肩をすくめている。こちらは「むっ……」と面白くない顔をしてしまった。


 まるでヒーローを夢見る三歳児のガキの相手をしてやってるという雰囲気を隠しもしない女神だった。


 女神に対して言いたいことが腹の奥底から湧き上がってくる。だが、それをすれば本当に三歳児のガキそのものだ。ここはグッと抑える。


 女神が「ふんっ」とわざわざ鼻を鳴らしてきた。


「なんで、いちいちそうやって挑発してくるんだ!? 俺、何か悪いことしちゃいました!?」

「あなたが牢獄に入っている間、あなたにパンツを届けたのは誰だと思ってるの?」

「えっ……ちょっと待って!? もしかして……」

「そう! わたくしですわよ! さあ、ひざまずきなさいっ」

「へへーーー! ご厚意に気付かずに申し訳ありませんでしたっ」


 牢獄に捕らわれている間、1日3食欠かさずパンツを提供された。ずいぶん待遇が良いなと満足しきっていたが、そもそもそうしてくれていたのは目の前にいる女神だった。


 これには驚きを隠せない。黙って平伏しておくに限る。


「あなた、いちいち、注文が多すぎるのよ。準備するこちらの手間も考えなさいよ」

「いや……あまりにも待遇が良くて……な? 残さず食べさせてもらったよ」

「残してたら神罰を喰らわせてたところだわ!(ぷんぷん!)」

「あはは……でも、たまに酸っぱすぎるパンツもあったけど?」

「いつでも質の良い13~17歳の女子たちのパンツを用意できるわけないじゃないっ」

「そ、そうっすね……ちなみに誰のパンツだったんだ?」

「あなたのママのよ。美味しかった?(にっこり)」

「おえええええええええええええええええええええええええ!」


 思い出すだけで吐き気を催した。肉親のパンツなんぞ、なんで食べなきゃならんのだ。事情を知っていたなら、決して食べなかっただろう。


 だが、それでもパンツを毎日3食、ちゃんと用意してくれた女神に怒るわけにはいかない。


 女神が「ふんっ!」と強く鼻息を吹き鳴らしている。そうでありながらも、こちらは平伏状態をやめないでおく。


 女神は気が済んだのか、再びタブレットを操作し始めた。女神の解説はわかりやすいの一言だった。


 魔王がニンゲンサイドに攻め込んでこれたのは、そもそも魔界の敵対派閥を打ち破ったことによるものだったそうだ。


 魔王サイドは魔界の再統一を果たすと、その勢いをもってして、ニンゲンサイドに攻め込んできた。元居た地球でも同じような歴史が展開されている。


 国内の問題が収まれば、その首魁が次に目指すのは他国への侵攻だ。この構図はこの異世界ファンタジーでも変わらないのだろう。


 そして、攻め込まれているニンゲンサイドには多種多様な問題があった。様々な国に君臨する国王たち。その国王たちが互いに協力しあい、魔王に対抗するために連合軍を立ち上げた。


 しかし、その国王たちはそもそもとして危うい立場にある。国王たちに正統性を認めてやっている存在がいた。それが大陸の宗教を一括で管理しているヘラ教会だ。


――ヘラ教会。女神ヘラを統一神として崇めている。しかし、この教会内も派閥争いを繰り広げている真っ最中だとのことだった。


 ついでにとばかりに「女神ヘラとはわたくしのことよ」と目の前の女神が爆弾発言をかましてくれる。


「……ニンゲンサイドって、もしかして詰みに向かってる?」

「良い勘してるじゃない♪」

「女神様でもどうにもならない状況を俺ひとりがどうにかできることなんですかー!?」

「どうにかしてもらわないと困るってわけ~♪」

「ヒーロー辞めたくなってきたーーー!」

「がんばれがんばれ♪」


 女神ヘラによって、この世界の成り立ちをひも解いてもらえばもらうほど、やる気が削がれてくる。それほどまでにニンゲンサイドは揉め事を抱え込みすぎていた……。


「んまあ、こんな話ばかりじゃ気が滅入るのも仕方がないわ。そちらは一旦置いておいて、あなたの今の状態を説明するわよ。オープン・ステータス!」


 女神がタブレットを操作すると、スクリーンに映る物が変わっていく。


 今まで異世界ファンタジーの地図やニンゲンサイドの対立構造が表示されていたというのに、それは全部キレイに消えてしまう。


 代わりにパンツマンの今のステータスを表示してもらうことになる。


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名前 :オミト・ダテ

モデル:ウルトラマン

Lv  :50

スキル:ウルトラ・チョップ(怪力)

    ウルトラ・キック(大地を割る)

    ウルトラ・ウイング(マッハ3)

    ウルトラ・光線(こんがり上手に焼けました~♪)

    ウルトラ・アイ(千里眼)

    ウルトラ・イヤー(地獄耳)

    ウルトラ・ハート(熱く滾るヒーロー魂)

耐性系:斬◎、突◎、打☆、熱◎、冷◎

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「最初はこれで設定したはずなのよ。でも、あなたが死に際に念じたJCやJKのパンツになりたいっていう邪悪な願いのせいでバグったわ。今はこうなってるの」


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名前 :オミト・ダテ

モデル:パンツマン

Lv  :99

スキル:パンツ・チョップ(超痛い)

    パンツ・キック(めっちゃ痛い)

    パンツ・ウイング(成層圏を突き抜ける)

    パンツ・光線(ふはは! これがインドラの矢だ!)

    パンツ・アイ(セクハラです)

    パンツ・イヤー(セクハラです)

    パンツ・ハート(JC・JKを見るとときめいちゃう!)

耐性系:斬◎、突◎、打☆、熱◎、冷◎

弱点 :パンツが濡れる、汚れる、欠けると力が抜ける

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「なんだこれは!? 全然別のモンスターになっちまってるぅ!? しかもこの弱点って何だよ! そのままアンパンマンじゃねえかっ!」

「はい、ここに取り出したのは水でいっぱいになっているバケツでーす! これをあなたにぶっかけまーす!」

「チョマテヨ!」

「論より証拠ってやーーつ」


 女神が試しにとバケツで水をこちらへとぶっかけてきやがった。パンツが濡れたことで力が抜けた。正直言って、驚くしかなかった。


 どんどんと力が抜けていく。考えることすら面倒になっていく。立っていられなくなり、その場で膝をつくことになった。


「なんだよこの弱点! 俺はアンパンマンじゃねえぞ! パンツマンなんだぞ!?」


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