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第10話:四天王:赤鬼

 女神がタブレットを操作して虚空にスクリーンを展開した。パンツマン・オミトは椅子に座り直して黙って女神の話を聞いている。


 スクリーンには魔族四天王のひとりが映し出されていた。そのなりを一言で言えば『赤鬼』だった。


 牛の角を生やし、虎柄のパンツを履いている筋肉だるま。口からは隠しようのない牙が飛び出ている。


 パンツマン・オミトは奴の姿を見て、ニヤリと口の端を歪ませる。


「ふむ。パワー対決か。よし、俺の力がどんなものか示すにはちょうどいい!」

「話が早くて助かるわー。パンツマン。じゃあ、今から四天王をぶっ飛ばしてきて?」

「え?」


 こちらが何かを聞き返す前に女神の力によって勇者たちは転送された。目の前にはテーブルから零れそうなほどの料理を豪快に手掴みで食っている赤鬼がいた……。


「なんだおめーら。おいらに食われにきたのか?」

「な、なにが起きたのかわけがわからないよ!」


"そいつが四天王の中で一番の怪力の持ち主:赤鬼レッドオーニよっ! さあ、いてこましてやりなさい!"

"チョマテヨ! 話が早すぎるだろ!"

"今の時代、これくらい話が早いほうがウケるの? わかってないの?"

"わかってたまるかこんちくしょう!"


 女神のメタ発言にツッコミを入れておく。女神は現場にはやってきていない。上手く逃げやがった。


 なにはともあれ、勇者アリスたちは四天王のひとりである赤鬼の前に転送された。急いで各々が手に武器を持つ。それに合わせて赤鬼ものっそりと立ち上がった。


「ぐへへ……かわい子ちゃんが一人。年増が二人」

「くっ……侮辱された! 拙者は年増枠なのか!」

「落ち着け、ルナ。JDはひとによっては年増に見える!」

「こっち側にも拙者を侮辱してくる奴がいるーーー!?」


 ルナが大剣を両手持ちにしながら、わなわなと身体を震わせていた。しかし……21歳JDはひとによっては年増である。残念ながらこれは覆しようのない事実だ!


 だが、その悲しい事実をルナに指摘してしまった自分にも責任がある。パンツマン・オミトは彼女に代わって赤鬼の前に立つ。


「パンツマン!? 何故、前に出た!? 拙者は聖騎士なのだぞ!」

「女性を矢面に立たせるのは男の沽券に関わる……俺は紳士だからな!」

「……パンツ姿の変態にしか見えないが」

「チョマテヨ! 年増枠に入れたことを恨んでの発言!?」

「ふんっ! 女だと侮ることへの恨みだ!」


 ルナがそう言うと、こちらの隣に並ぶように立つ。これには苦笑するしかなかった。ルナは女性であるがそれを別として聖騎士だ。その矜持を大切にしてやらねばならない。


(ふっ……俺は女性を守ってやらねばならぬと思い込んでいる。今の世の中、男女平等は当たり前……男女共同参画社会だ!)


 パンツマン・オミトは自分の考えが間違っていることを素直に認める。横目にルナを見つつ、コクリと頷く。それに合わせて、ルナもまたニヤリと口の端を上げてくれた。


「いくぞ、ルナ!」

「おう、パンツマン!」

「って、大剣を横に振り回すな! 俺を斬る気かよ!」

「あっすまん。いつも前線を張っていたのは拙者ひとりだったから……」

「そういうことか! ならば、今すぐ慣れてくれ!」

「まとめて斬らぬように善処する!」

「善処じゃなくて、絶対にこっちを巻き込まないで!?」

「むぅ……いちいち指摘が多すぎるぞ!」


 パンツマン・オミトとルナは凸凹コンビであった。パンツマン・オミトがパンツ・キックを放とうとすれば、タイミング悪くルナが前に出てしまう。


 ルナが大剣を振るうタイミングとパンツマン・オミトが攻撃を仕掛けるタイミングがどうしても被ってしまう。


 ちぐはぐな動きをしていると、対峙していた赤鬼がニタリと気持ち悪い笑顔を見せてきやがった。


 奴はルナが振るう大剣をいとも簡単にその手に持つ金棒で捌いてみせた。ただのパワータイプだと思わないほうが懸命とも言えた。


 存外に器用な奴だった、赤鬼は。1vs2の状況であるというのに、平然としていやがった。


 金棒を自由自在に操り、次々とルナの攻撃を捌ききってしまう。こちらとしては「ほぅ……」と感嘆の声を上げてしまうしかなかった。


 ルナが肩で息をする。彼女の攻撃ターンが終わりに近づいていた。自分はどうしてもルナと攻撃タイミングが被ってしまうため、今は彼女に攻撃を任せっきりにしている。


「代われ、ルナ!」

「しかし……」

「尻を揉むぞ!」

「くっ! お前、拙者をどんな目で見ているんだ!?」

「尻を揉まれたくないなら、下がれ!」

「クッコロぉぉぉ!」


 ルナが悔しいといった表情を見せながら、こちらと交代してくれた。少し彼女の頬が赤くなっている気がしたが、見なかったことにした。


 自分はあくまでもJCやJKの守護者である。21歳JD相手に性的興奮を覚える癖を持ち合わせていない!


「お次は……おめーか?」

「不服かな? 俺は強いぞ?」

「おいら……女子を痛めつけたい癖なんだなぁ!」

「そんな歪んだ癖を俺がぶっ飛ばす!」


 パンツマン・オミトが赤鬼へと接近しようとしたその瞬間、赤鬼の身体から鬼迫が発せられた。


 その鬼迫が赤鬼がいた部屋の装飾品を吹き飛ばす。テーブルや椅子が砕け散りながら散乱していく。


 さらに鬼迫に当てられた女性陣が部屋の壁へと押し付けられる格好となる。


「きゃっ!」

「クッコロ!」

「いや~ん♪」


 女性陣の悲鳴が背中側から聞こえてきた。そちらに一瞬であるが気を持っていかれる。その隙を赤鬼は見逃してくれなかった。


 頭上に向かって、金棒を振り下ろされてしまう。ゴイーーーン! と寺の鐘を打つような音が聞こえた。


「痛っ!」

「お、おま、お前! なんで頭がスイカのように弾けて割れないだべさーーー!?」

「あれ? 俺もさすがに死んだと思ったんだけど?」

「おいらのオリハルコン製の金棒がひん曲がったのにぃ!?」

「ちょぴっと痛かった……だけだな?」

「バカな……そんなバカなーーー!?」


 パンツマン・オミトは金棒で殴られた部分を手でさする。小さなたんこぶが出来ていた。


 金棒を頭に向かって振り下ろされた時、赤鬼が言うように頭をパッカーン! と割られてしまうというイメージが脳内を走った。


 しかし、そうはならなかった。赤鬼が手に持つ金棒が飴のようにひん曲がっているだけであった。


 この状況に自分でも驚きを隠せなかった。赤鬼は女をいたぶる癖を持っているが、男に対して一切の容赦をしない気だったのだろう。


 だが、結果だけ見れば、赤鬼の狙いは外れてしまうことになる。


「お前!? おいらの金棒を喰らって本当に無傷なのか!?」

「いや、さすがにたんこぶが出来たぞ?」

「なんて奴だ……ぐふふ、しかし、これは面白い相手なのだ~!」

「ちょっと待て。何を興奮してやがる!? 俺は男だぞ!」

「ぶへへ……壊れないおもちゃがちょうど欲しかったんだよね、おいら!」


 赤鬼は舌なめずりをしていた。奴は曲がった金棒を放り投げる。そうした後、こちらに背中を向けて、壁に立てかけてあった巨大すぎる牛刀をその手に持った。


「久々に全力のパワーで戦っても壊れないおもちゃのようなんだな~♪」

「ふはは……引くような残虐性を持っているようだな?」

「今宵の牛刀は血を求めてるだ~♪」

「まだ昼前だけどな!?」

「どっちもいいんだな~♪ さあ、切り刻んでやるぞ~♪」

「ふんっ! 切り刻むより前にミンチになるわ! そんな大きな牛刀で斬られたら!」


 先ほど、金棒でぶっ叩かれた時に小さなたんこぶが出来ただけであった。ならば牛刀でもそこまでダメージを喰らわない気がしてたまらない。


 それでも一応、振り回してきた牛刀を次々と躱してみせた。赤鬼の顔が愉悦から憤怒の形相に変わるまで3分もかからなかった。


「何故だ!? 何故、おいらの攻撃が当たらないんだ~~~!?」

「いや……遅すぎるから」

「遅い!? おいらの攻撃が!?」

「う、うむ。あくびが出るくらい……」


 赤鬼が唖然とした表情になっていた。こちらはこりこりとこめかみを指で掻くしかない。最初は戸惑った。それは事実である。


 当たれば骨ごと切断させられそうなイメージが脳内に湧く。しかし……実際に躱しまくっていると、目も慣れてきたのか、ついにはあくびを噛み殺していた。


(こいつ、本当に四天王なのか? いやでも……ルナはこいつに手も足も出せなかったし)


 疑問が疑問を呼ぶ。本当にこいつが四天王なのかと訝しむ。ついにはポロっと余計な一言を発してしまった。


「えっと……悪いんだが、本物の四天王を呼んできてきてくれないか?」

「バカにしやがってーーー!」

「ちょっと待て! うわあああ!」


 赤鬼が憤怒の形相となって、牛刀を両手持ちした。そして、それをこちらの頭上へと振り下ろしてきた。


 こちらは面喰らってしまい、ついパンツ・チョップを牛刀の腹に叩きこんでしまった。ガッキーン! という音が部屋の中に響く。それと同時に分厚い牛刀が半ばからぽっきり折れてしまう。


「おいらのオリハルコン製の牛刀がーーー!」

「ごめん……でも、仕掛けてきたお前も悪いんだぞ? 弁償はしないからなっ!」


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