目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第11話:赤鬼退治の褒賞

「ぐぬぬ! こうなれば! 純粋なパワー勝負だーーー!」

「うお!? 四つ手をご所望か!? それで気が済むなら!」


 涙目になっている赤鬼がこちらに両手を突き出してきた。その手に合わせるようにこちらも両手を突き出す。


 ガシッと手が合わさる。それと同時に赤鬼が「ふんぐぐぐ!」と顔を真っ赤にさせて力を込めてきた。


 純粋なパワー勝負を謳ってきた割には、これで本気なのか? と疑ってしまうしかなかった。はっきり言って拍子抜けだった。


「えいっ」

「……え?」


 付き合ってられるかとばかりに赤鬼をぶん投げてやった。木の床を背中で破壊した赤鬼が目を白黒させている。


「おめー、何者だぁ!?」

「ふっ。俺はパンツマンだ! パンツ・金的!」

「ぶべぇ!」


 グシャ! という卵が割れたような音が部屋に響き渡る。赤鬼がぶくぶくと血の色をした泡を吹いている。


 どうしたものかと考えて、アリスたちの方へと視線を向ける。彼女たちはポカーンと口をマヌケに開けていた。


「こいつ本当に四天王なのか?」


 思っていることを正直に口にしてみた。彼女たちはますますポカーンとした表情になっていた。


 アリスが可愛らしい顔を左右にぶんぶんと振っている。どうにか正気を取り戻そうとしているようだ。


「女神は嘘をつきません。本物だと……」

「うーん。じゃあ、四天王ってこんなに弱いのか?」

「……えっと、オミトさん、あなたが強すぎなんじゃ?」

「……そんなことないでしょー?」


 アリスがドン引きしていることが彼女の表情から伝わってくる。こちらは「あはは……」と力なく笑うしかない。


「これはさすがに引く……わね~」

「ベッキー殿。魔王よりも先にパンツマンを始末するべきではないか?」

「おい、ルナさん!? すごく不穏なこと言わないで!?」

「戦いを見せてもらったが、正直ドン引きだぞ? 自覚がないのか?」

「お、おう……」


 ルナだけでなくベッキーからもジト目で見られた。たじたじとなって、その場から数歩、後ずさる。


 後方不注意だった。床に倒れ伏せている赤鬼の足に引っかかり、そのまま後ろに倒れ込む。赤鬼の顔面にキレイに右肘を叩きこむ形となった。


 パンツマン・オミトのその一撃で赤鬼の頭が陥没した……。


「「「うわ……」」」

「待って!? 今のは不可抗力だから!? ほら、赤鬼、お前も立てよ! 俺が悪者みたいじゃねえか!」

「ぶくぶくぶく……(がっくりばたん)」

「赤鬼さーーーん!」


 パンツマン・オミトから見て、あまりにも拍子抜けしてしまうくらいに赤鬼は弱かった……。


(ごめんな。弱い者イジメになっちまったかも)


 絶命した赤鬼に向かって手を合わせておく。「なんまいだーなんまいだー」と念仏を唱えておくことも忘れない。


◆ ◆ ◆


 パンツマン・オミトの活躍もあり、四天王のひとりを瞬殺してしまった。アリスたちは四天王を倒した証拠として、赤鬼の首級くびを取る。


「アリス。そこまでしなくてもいいだろう?」

「いえ……証拠は必ず必要なので」

「そうか……仕方ないってやつか~」


 なんとも言い難い空気がパーティの中を流れる。しかし、アリスがその空気に構わず、手に持った剣で赤鬼の首級くびを切り離した。その後、ニッコリとこちらへと差し出してきた。


「チョマテヨ! 俺が運ぶのかよ!?」

「だって重いんですもん!」

「うえええ……そんな理由かよ」


 アリスの頼みであれば断りづらい。ルナがこちらへと革袋を手渡してきた。赤鬼の首級くびを革袋に入れる。


 それと同時に赤鬼がいた部屋の一角に光で出来た門が出現する。アリスがこちらへと顔を向けてきた。


「女神様の奇跡です。これをくぐって戻ってこいということでしょう」

「いつもこんな感じで現場に直行させられてたのか?」

「いえ……今回はオミトさん、あなたへの試練として、四天王討伐を命じてきたのだと思います」

「……え? 俺、あの駄女神に試されてた!?」

「駄女神って言っちゃダメです! ちゃんと女神様と言ってください!」


 アリスに叱られた。パンツ・ハートがドクンと高鳴った。エルフのアリスが見た目そのままに16歳だとは思っていないが、それでもパンツ・ハートが反応してしまう。


 やれやれ……と頭を左右に振りながら、光のゲートをくぐる。視界がぐるりと回転する。少しだけ気持ち悪さを感じた。


 しかし、次の瞬間には視界の揺れが安定する。先ほど遅めの朝食を取っていた酒場へと戻ることになる。


 そこで女神が満面の笑みでこちらを出迎えてくれた。


「アリスちゃん。四天王討伐お疲れさまー。予想以上に簡単に倒せちゃったね?」

「オミトさんが色々と規格外すぎるんですけど……。正直言って、彼の手綱を握る自信がありません」


 アリスが女神相手に何か大事なことを言っている気がした。ここは大人しく彼女と女神のやりとりを聞いておくことにする。


「だいじょうぶ~♪ パンツを与えておけば、大人しく従うから~♪」

「……え? 誰のパンツです?」

「勇者アリスちゃんのパ・ン・ツ!」

「……ちょっと相談タイムに入っていいですか?」


 アリスたちが円陣を組んでいる。ひそひそとこちらに聞こえないように何か言っている。こちらはパンツ・イヤー(地獄耳)なので、彼女たちの内緒話は全て筒抜けだ。


「あの……脱ぎたてがいいんでしょうか?」

「アリス。キミが嫌がるのはすごくわかるぞ!」

「大丈夫~♪ アリスの代わりに永遠の17歳のあたしのパンツを与えるわ~♪」

「わっ! 良いんですか? ベッキーさんにお願いしても……」

「いいのよ~♪ でも、これは貸しだから、ベッドの上で返してね~♪」

「それは……それでいやですよ!」


 なんとも心にぞわぞわとくるものがあった。勇者アリスのパンツを食べることは自分がヒトの姿に戻ることに繋がる。


 それとは別に個人的な感情でアリスのパンツを食べてみたいという欲望がある。


(ふっ……俺はとんでもない変態だ! これがパンツマンのSAGAなのかっ!)


 真剣に話し合っている女性陣に悪いが、こちらはニヤニヤと顔が綻んでいる。彼女たちの話が早く終わらないかとそわそわしてしまう。


 ようやく女性陣が輪を解く。こちらに向かってペコリとお辞儀してきた。ついにこの時がやってきたのかと、パンツ・ハートの昂りを抑えきれなくなっていた。


「えっと……打ち合わせの結果……オミトさんに私のパンツをあげるのは早いという結果になりました」

「ずこーーー!」

「うわぁ! すごいずっこけ方ですー! そんなに欲しかったんです!?」

「欲しいよ、こんちくしょう!」

「じゃあ、代わりと言ってはなんですが。ベッキーさんのパンツで」

「いらん! 見た目20代後半の女子のパンツを食ったら、腹を下す!」


 アリスに向かって、ごねてみた。アリスは困った顔になっている。そして、あろうことか、女神に助けを求めやがった……。


「オミトく~~~ん? 女性はいつでも永遠の17歳よ! わたくしも17歳よ!」

「はい……」

「ごね得しようなんて感心しないわ。というわけで、今回は40代女子のパンツでーす!」

「えーーー!? そこは30代女子でお願いできませんかー!?」

「ダメでーーーす!」


 しくしく泣き崩れるしかなかった……。そんな自分に対して、女神がにっこりとほほ笑みながら紫色のおばさんパンツを手渡してきた。


 それを黙ってもぐもぐと口の中で噛みしめる。すると、不思議なことに身体の奥底から力がほんのりとあふれ出してきた。


「俺は……なんて身体してんだよぉ!? 40代のおばさんパンツでもエネルギーを補給できちゃうなんて、悲しすぎるぅ!」

「「あはは……」」


 自分は悲しきモンスター・パンツマンすぎた。アリスたちから同情の引き笑いをされてしまう。


 悔しくて涙が出ちゃう! だって俺、パンツマンだから!


◆ ◆ ◆


 なにはともあれ、パンツ補給を終えたパンツマン・オミトはテーブルに備え付けられている椅子へと腰を下ろす。


 四天王のひとりを倒したというのにパンツマンは勇者アリスのパンツを手にいれることはできなかった。


 しかし、機会はすぐにでも訪れると気を取り直し、次の四天王のところに送ってくれと女神に頼む。


 だが、女神はそれを了承してくれなかった。


「え? なんで?」

「あなたはあくまでも勇者アリスの名声を高めるためのサポート役なの」

「はぁ……?」

「わかってないって顔してるわね。アリスちゃんの名声を高めるためにはきちんとした段階を踏む必要があるの。四天王をばったばたと倒しても、それが本当に世界のためになるとは限らないのよ」


 納得できないまま女神から次の指示を出された。何でも王都にある大教会に向かえとのことだった。


 王都は別名:光の都と呼ばれていた。王都が光の都と呼ばれるのは女神信仰の総本山である大教会があるからだそうだ。


 そこに赤鬼の首級くびを持っていけと言われてしまう。そんなことまでしなければならないのかと考えていると、女神がこちらの顔に錫杖を突き付けてきた。


「デッドorダイ?」

「どっちを選んでも死ぬじゃねーかよ!」

「あれ? 間違えた?」

「いいから、さっきみたいにとっとと光のゲートを開いてくれ……」

「ダメよ」

「なんでだよ!?」

「もう一度言うけど、勇者アリスに箔をつけてもらうためなの」

「おーん?」


 なんとももったいぶった言い方だと思ってしまう。正義を執行してこそのヒーローなのではないかと女神を訝しむ……。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?