パンツマン・オミトは勇者アリスのことを思って、聖剣をどこかへと投げ飛ばした。それは彼女のことを思っての行動だった。
そのことに関して、パンツマン・オミトは後悔してない。しかし、彼はパンツ一丁で女性陣の前で正座させられる。さらに説教されるというご褒美の真っ最中だった。
「うぐっ! あぐっ! 皆のきつい言葉が俺を刺激するぅ! パンツマンとして一皮むける、いや……パンツが一枚脱げそうだーーー!」
「何を言ってるんですか! 説教の真っ最中ですよ!?」
「アリス! 俺をもっとなじってくれ! 頼む! 俺の中に新たな癖の扉が開かれそうだ!」
「んもう! このド変態!(ゲシゲシ)」
推定16歳JKのアリスから蹴りを喰らった。固い革靴のつま先で蹴られると身体の奥底からゾクゾク! と快感が立ち上ってくる。
はあはあ! と熱い吐息を漏らすしかなかった! パンツマン・オミトは進化しそうになっていた!
しかし、進化するその前に蹴り疲れたアリスが肩でぜえぜえはあはあと呼吸をすることになった。
チッ……と悔しげに声を出すしかなかった……。
残念ながら体罰も含んだ説教が終わってしまう。パンツマン・オミトは正座したまま、勇者の聖剣について、改めて説明されることになった。
ベッキーがどこからともなくホワイトボードを取り出し、黒のマジック・ペンで図解入りで勇者の聖剣とはいったいどういったものかを解説し始めてくれた。
「なるほど? 勇者が聖剣を管理・保管することは魔王を倒すことよりも重要なことなわけだな?」
「この世界を形作るモノと言えば、世界樹を最初に思い浮かぶわけ~。んで、世界樹と勇者の聖剣はリンクしているの~。勇者の聖剣は第2の世界樹と言えば理解しやすいかも~?」
「ふむ……よくわからん!」
「あはは……わからないよね~。わかってたらあんな暴挙にでないもの~」
ベッキーの言わんとしていることがいまいちわからなかった。それでもとんでもないことをしてしまったかもしれない……という危惧だけは持っている。
勇者の聖剣が誰かの手に渡る前に回収しなければならないことだけは確かであった。
「やっちまったなー!」
「本当にどうするんですかー!」
アリスが泣きそうな顔になっていた。「すまんすまん……」と平謝りしておく。
「んまさくっと回収すればいいだけって……どこまで飛んで行ったんだろうな?」
「ちょっと待ってください。私と聖剣はリンクしてますので……って、えええ!?」
「どうしたんだ!? 魔王の手に渡っちまってた!?」
「そこまで最悪なことにはなってないです。でも何かにぶっ刺さってるみたいな感じです。しかも、聖剣のエネルギーを吸ってどんどん成長してる……感じ?」
アリスが首を傾げる。それに合わせて、こちらも首を傾げておく。これはミラーリングというテクニックだ。
これは相手と同じ気持ちだということを相手に伝えることが出来る。小手先の小賢しい小技だ。しかし、女性相手には効果てきめんだ!
アリスの所作に合わせることで、気持ちも共有してますよという態度こそが肝心なのである。
そんなことをしていると女神から緊急の念話が届いた。
"ちょっと! こっちでも聖剣の行方を捜してみたんだけど、とんでもないことになっちゃってるじゃない!"
"俺は悪くねえよ!?"
"悪いわよ! ウドの大木に刺さってるわ。あわわ……このままじゃ世界樹になっちゃう!"
"……え?"
信じられないことを女神に聞かされた。理解が追い付かない。
(どうして、ただのウドの大木が聖剣が刺さっただけで世界樹に変わるんだ? それが聖剣の力ってこと?)
自分は考える担当ではない。女神からの天啓をそのままアリスたちに告げる。
アリスはへなへなとその場で尻をつける。ベッキーは苦笑いしていた。ルナはポカーンとマヌケに口を大きく開いていた。
「俺、やっちゃいましたーーー!?」
「あわわ……世界樹がもう1本できちゃったら、この世界のバランスがめちゃくちゃになっちゃいますぅ!」
「ほんとパンツちゃんはとんでもないことをしでかしたよね~。世界崩壊待ったなし~。お手上げ~!」
「ベッキーさーん! お手上げ状態、早すぎませんかー!?」
ベッキーが「えへへ」と言いながら、改めて、ホワイトボードに世界樹の解説をしてくれた。
なんでも世界を支えているのが世界樹だ。天候などもそのひとつ。それがもう1本生まれるとなれば、この世界の気候が狂ってしまう。
大干ばつ、滝のような大雨、それだけならまだマシだといえる大混乱が起きるだろうと解説してくれた。
「俺、やっちゃいましたーーー!?」
「めっちゃやらかしてますよーーー!?」
「じゃあ、回収しちゃおう! さくっとね☆彡」
「さくっとそうできたらいいんですけどね……」
緊急事態だということで、女神がこの場に顕現してくれた。女神はぷんすこと怒っている。手に持っている錫杖をフルスイングで、こちらの尻にケツバットしてくれた……。
「とりあえずの折檻はここまでね。じゃあ、さっそくだけど、ウドの大木がある山の麓にまで送ってあげるわ」
「ん? ウドの大木の目の前じゃダメなのか?」
「ダメよ。世界樹に変わろうとしてるのよ? それに巻き込まれるわよ?」
「お、おう? パワーでどうにかしたらいいんじゃないの……か?」
「それはあなただけよっ!(ぷんぷん)」
パンツマンに変わってしまってから、どうにもパワーで全てを解決しようとしてしまう。それは悪癖だとピシャリと女神に指摘されてしまうことになる。
恥ずかしげに頭を手でボリボリと掻く。そうしている間にも女神が光のゲートを作ってくれた。
「くれぐれも下手に刺激を与えないようにしてね?」
「じゃあ、俺はどうすりゃいいんだよ!? 俺はパワーしか取り柄が無いんだぞ!?」
「たまには頭を働かせなさい。んじゃ、聖剣の回収を頼んだわよ、皆!」
アリスたちが女神にコクリと頷く。「よし!」と気合を入れ直して、ゲートをくぐっていく。最後に自分がゲートをくぐろうとした時、もう1発とばかりに女神にケツバットされてしまう。
振り向いて、女神に文句を言おうとしたが、女神はムスーーーとしていた。こちらは「グゥ!」と唸るしかなかった。
女神の力によって、
「あのぐんぐん成長しているウドの大木がそれですよね」
「うん~。これは本当にまずいことになってるね~」
アリスとベッキーがひくひくと頬を引きつらせていた。そうなるのも納得と言わざるをえないほど、ウドの大木が目に見える形で急速に成長していた……。
女性陣の中で、自分を擁護してくれる者はいなさそうだった。聖騎士ルナですら、わなわなと身体を震わせている……。
「パンツマン殿! あなたは世界の救世主と期待させておきながら……本当は世界の破壊者だったのですかーーー!」
「ルナさん! 俺だって、こんなことになるってわかってたら、聖剣をぶん投げてないよ!? 俺、マジで知らなかったんだから!」
「……クッ! すみません! 拙者としたことが……パンツマン殿のことを疑ってしまいました! この身、いかようにも!」
「しないから!」
「クッコロ!」
急いで登山を開始する。一刻も早く、ウドの大木から聖剣を抜かなければならない。だが、それを阻むように植物系モンスターたちが次々と襲いかかってくる。
ベッキーが先頭に立ち、魔法で次々と炎の玉を作り出す。植物系モンスターが「うぎゃぁ!」と悲鳴を上げて、ベッキーの目の前から退散していく。
ベッキーがこちらへとVサインしてきた。こちらもVサインを返す。しかし、次の瞬間、ベッキーの足首に蔦が絡みつく。
ベッキーはそのまま、蔦によって宙づりされることになる。さかさま状態のベッキーは長めのスカートを履いている。それが完全にめくれないようにと必死に両手で押さえていた。
「ベッキー! 俺はモンスターだ! 少々、下着が見えたところで恥じる必要などないのだぞ!」
「そう言えばそうでした~。って、その手に乗ると思うんです~?」
「……チッ」
誰のためにとは言わないが、サービスシーンは必要だと思えた。だからこそ、永遠の17歳と言っているベッキーにサービスシーンを披露させようとした。
隣に立っているアリスが苦笑いしている。しかし、そんな彼女は目を白黒させた。次の瞬間、彼女が蔦によって宙づりにされた。
「アリス! お前は手とスカートでしっかりパンツが見えないように防御しろ!」
「私のは見せてはいけないんですか!?」
「そりゃそうだろ! ここは健全空間、R15までの異世界だぞ!」
「……ちらっ」
「ばっかもーん!」
アリスは推定16歳JKだ。さすがは小悪魔な年齢だ。ちらっとだけスカートと手での防御を甘くしてくれた。眼福だとばかりに彼女のパンツの色と柄を脳内に焼き付けておく。
次に左隣に立つルナを見た。ルナが目をガンギマリにさせている。そっと彼女から目を逸らした……。
「クッコロ!」
「いや……21歳JDとか中途半端なのは需要がないっていうか」
「クッコロ!」
「ああもうわかったよ! おーい! モンスターども! ルナを宙づりにしてくれ!」
「クッコローーー!」
ルナが嬉しそうに宙づりになった。もちろん、スカートがめくれないように手で押さえている。だが……どうしても、ルナに欲情できない。
それがパンツマンのSAGAなのかはわからない。ぶっちゃけ、まだ永遠の17歳のベッキーに興奮を覚えてしまう。