女性陣はものの見事に無力化された。彼女たちを助けるのは紳士たる自分の役目である。虚空に手を突っ込み、替えのパンツをそこから取り出す。
それを右手で思い切り握り込む。
「ふぉぉぉ! 力がみなぎってくるぅ! 植物モンスターどもめ! 全員、火の海に沈めてやるぞぉぉぉ!」」
「ダメです! ここで超必殺技を使うと、以前のようにいきなり力が抜けてしまいますよ!」
アリスの指摘は至極真っ当であった。だが、せっかく超必殺技を女神から伝授されたのだ。ここで使わなければ、女性陣のエッチな宙づり姿に負けてしまうことになる!
蔦が女性陣の足首で止まらず、太もも付近まで侵攻していた。このままでは、女性陣はもっとエッチなことをされてしまう!
「いいのか!? 俺がここで超必殺技を使わなかったら、絡みついた蔦がさらにエッチなことをし始めるだろう!? そうなってもいいのか!?」
「私でもこれくらいどうにかできます! サンダー! ファイヤー! アイスストーム!」
「なにーーー!? 自力で解決しやがったーーー!」
アリスがさかさま状態だというのに魔法を連発する。蔦を雷魔法で弾き飛ばす。地上に着地するとすかさず火魔法でベッキーとルナを捕らえる蔦を焼き切った。
さらに氷魔法で蔦の動きを完全に止めてしまう。アリスがこちらにニッコリとVサインしてきた。
こちらは「グゥ!」と呻きながら、アリスにVサインを返す。サービスシーンはあっさりと終わりを告げた……。
その後、アリスとベッキーが力を合わせて植物モンスターを次々となぎ倒していった。パンツマン・オミトは活躍の場を2人に奪われる。
「ちくしょうちくしょう……」と2人に恨み節を唱えていると、こちらの心情を察してか、ルナが後ろから、こちらの肩にポンと手を置いてくれた。
「パ、パンツマン殿が望むのであれば、もう一度、蔦で宙づりになってあげるんだからね!?」
「いらんわ!」
「クッコローーー!」
少しの油断も許してくれない聖騎士ルナだった。そこまでして、こちらにアピールしたいのかと辟易してしまう。
自分はJC・JK専門の悲しきモンスター・パンツマンだ。21歳JDはお呼びではない。しかし、それをはっきりとルナに告げれば、ルナは傷ついてしまうだろう。
「すまん、少し言い過ぎた。ルナがやりたければ、是非、そうしてくれ」
「わかりもうした! さあ蔦どもよ! 拙者を辱めるのだー! パンツマン殿のために!」
蔦がシュルシュルと音を立てて、ルナに接近していく。しかし、蔦がルナの身体をがんじがらめにする前に、アリスとベッキーがルナに向かって魔法を放ってきた。
蔦はボロボロに千切れていった……。ルナは地面を叩いて悔しそうにしていたが、アリスとベッキーのこめかみに青筋が立っていた。
「オミトさん?」
「はひ!」
「ルナさんの暴走をとめてくださいね?(にっこり)」
「善処いたします!」
パンツマン・オミトとルナの企みはあっさりとアリスたちに止められてしまった。どうやら本当にサービスシーンはここまでのようだった。
アリスとベッキーを先頭に山の中をどんどん突き進む。そんな2人を守るようにパンツマン・オミトがパンツ・チョップを放ち、ルナが大剣を振り回す。
(地味だ……俺はカレーでいうところの福神漬けだ)
パンツマン・オミトはもっと活躍したかった。超必殺技を放つ機会をアリスたちに奪われている。
もっと大物が出てこないかと辺りを見回すが、エリンギ、マタンゴ、椎茸のような小型植物系モンスターしか出てこない。
こいつら相手に超必殺技を使うのはさすがにもったいない。パンツマンは黙ってアリスとベッキーのサポート役に徹する。
山の中に足を踏み入れてから30分が経とうとしていた。ここまできてようやく植物系モンスターの猛攻がいったん、止まることになる。
ここにいる全員がぜえぜえはあはあと肩で息をしていた。それぞれが収納魔法先から水筒を取り出し、ごくごくと水を飲み始めた。
アリスは玉のような汗でキラキラと輝いていた。そんな美少女が美味しそうに水を飲んでいる。
清涼飲料水のコマーシャルにも使えるシーンだった。パンツ・アイでこのシーンをばっちりと脳内で撮影しておく。
その時、カシャ! カシャ! とまるでカメラのシャッター音のような音がまばたきから発生した。
「……ん? オミトさんのほうから不穏な音が聞こえたんですけど?」
「な、なんだろうな? この音! セミの鳴き声かな!?
「……カシャカシャカシャなんて鳴くセミっていましたっけ?」
「いるかもしれんだろ!? うぐおえぇ!?」
パンツマン・オミトは吐き気を催した。喉の奥から何かがせせり上がってきた。それを口からウィーンという音とともに吐き出す。
何か固くて四角い紙が口から飛び出した。アリスがきょとんした顔つきになりながら、その四角い紙を拾う。
なんだなんだとベッキーとルナがアリスの下へと集まる。皆が「ふーん、へー、ほー?」と奇怪な声を発している。
自分もその紙を見せてもらおうと、アリスに近づく。アリスがこちらにその紙を見せてきた瞬間、こちらは頬を引きつらせてしまった。
「私がお水をゴックンしているイラストが描かれています。これはオミトさんの能力なんですか?」
「えっと……そうなのかな?」
アリスが手にしている紙には健康的なアリスのワンシーンが切り抜かれた形でイラスト化されていた。
(これ……盗撮ってやつだよな? 脳内に保存したアリスの姿が印刷されて、俺の中から排出されたってことか。って、俺はどんだけモンスターなんだよ!)
先ほど、まぶたからシャッター音が鳴った。これはスマホでいうところの盗撮防止目的の音なのだろう。相手に撮られていますよというのを伝える機能だ
さらに撮ったものをその場で印刷することもできる。自分の身に起きたことを訝しんでいると女神から念話が届いた。
"パンツマン・オミトは新しいスキルを手に入れました~♪"
"どんなスキルですかね?"
"パンツ・盗撮!"
"そのまんまじゃねーか!"
"使いようでは便利よ?"
"まあ、使いようですよね……"
目に焼き付けた映像を口から出力できるのはそれはそれで便利だ。記憶というのはどうしても薄れてしまう。それを写真という形で残せる。その写真で当時のことを思い返せる。
ものは試しとアリスたちが宙づりされていたシーンを脳内に再生する。そのシーンが口からにょっきり飛び出してくるようにと念じてみた。
しかし、何も起きない……。
"そりゃそうよ。あのサービスシーンの時にはまだスキルが開花してなかったんだもん"
"ぐぉぉぉ。なんてタイミング悪いんだ!"
"この異世界は健全な世界よ? アリスちゃんのパンチラシーンはR15制限にひっかかる可能性があるわ"
"それをくっきりはっきりと写真で残しておきたいんです! わかりますか!? 推定16歳JKのパンチラですよ!?"
"……ふっ"
バカにされたような声が聞こえてきた。わなわなと身体を震わせるが、女神の念話はそこで終わってしまう。
なにはともあれ、使いようでは便利なスキルを手に入れた。次にサービスシーンがやってきたときは遠慮なく、パンツ・盗撮のスキルを使おうと心に決めておく。
小休憩も終わり、山登りを再開する。こうしている間にもウドの大木はどんどん成長していく。
山の中に入ったがゆえに目標を見失う危険性があった。しかし、未だに成長を止めないウドの大木のおかげで、どこに向かえばいいのかがはっきりとわかる。
パンツマン・オミトはアリスたちとともにウドの大木の下へとまっすぐ向かう。またしても植物モンスターがこちらの邪魔をしてきた。
「ええい! いい加減しつこい!」
「オミトさん、落ち着いて?」
「超必殺技で焼き払ってやりたいのぉぉぉ!」
「ダメですって! オミトさん、こんなところで倒れたいですか!?」
アリスの言うことはもっともだった。しかし、山に足を踏み入れて、自分がしたことと言えば、アリスたちのサービスシーンを拝んだり、ちまちまと植物系モンスターにパンツ・チョップを喰らわしたことくらいだ。
もっと目立ちたい。その思いがどんどん強まっている。
「ええい! アリス! 俺は自制心を捨てるぞーーー!」
「んもう! ルナさん。オミトさんを止めてください!」
「パンツマン殿! 自制心を捨てて、拙者を襲ってください!」
「あっ遠慮させていただきます。ふぅ……俺は何を焦っていたんだ、あはは!」
「クッコローーー!」
アリスの機転により、無駄にエネルギーを消耗しなくて済んだ。アリスとベッキーが切り込み隊長をやってくれた。自分とルナは徹底して彼女たちのサポート役に回る。
山の中に足を踏み入れてから1時間後、ようやくウドの大木の下へとたどり着いた。
しかし、時間をかけすぎたようだ……。ウドの大木は巨大植物モンスター:エルダー・トレントに変貌していた。
「でかーーーい! 説明不要!」
「う~~~ん。パンツちゃんに超必殺技を使ってもらったほうがよかったのかも~」
「ベッキーさん、それはダメですよ! オミトさんが力尽きたら、パンツを食べさせないといけないのですよ!?」
「あっ……そういう意味も含めて、俺を止めてたわけね?」