目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第12話



「では、話を聞こうか」


「オルステッド殿。なぜ、その少年をひざに乗せているのです?」


 バレオス様がツッコんできます。


「気にするな。趣味だ」


 抱きしめられて笑顔で頬をすりすりされています。

 お戯れはおやめ下さい、姫様。人目があります。


 その姿を、向かいの席に座るミシェルくんは、唖然と。

 その隣のバレオス様は忌々しげに見ています。


 それでは話が進まないので、僕は気にせず尋ねます。


「バレオス様は、お二人の死因をご存じですか? 葬儀で弔ったのは、司祭長ではなく貴方だとお聞きしましたが」


「事故死だ。建築資材の崩落に巻き込まれての昏倒死。遺体は綺麗なものだったよ」


 僕は神妙な表情を作ります。


「お悼み申し上げます」


「はい……」


 うなだれるミシェルくん。

 まぁ、そう辛気くさい顔をしないで。


「弔いの代わりになるかはわかりませんが、アゼル嬢の幸せだった話を聞かせてはいただけませんか? たとえばどういう交友関係を持って、どういう方々と親交を持っていたか、とか」


 幸せな話を語りましょう。

 彼女の生きていた記憶と、記録を。


 ……そこに、何かのカギがある。


「ええ、ええ! そうですね。仲が良かったのは、そこのバレオスさんとか」


「良かったわけじゃない。彼女が『また来て』というから、ここに通っていただけだ」


 ツンデレ眼鏡かな?


「貴族学院では、あまり友だちがいないと話していました。一人、二人との話はしていましたが。それよりは……お客さんのおじさんおばさんたちに、親しまれてましたね」


 明るくサービス業としての、食堂の給仕をこなすアゼル嬢。

 おおむね、ゲームの通りですね。


 食堂や宿屋のお客さんに背を叩かれながら、身分を隠していた元団長との恋を進めるルート。

 学友の中にも攻略キャラは一人か二人いたはずですけど。

 だいたい、王太子時代のオルベリス王が輝きすぎて、近寄れなかったはずなんですよね。


 たぶん、元団長とのカップリングが成立したなら、王宮ルート。

 親密度を高めていたのは、共通ルートのミシェルくん以外には、たぶん、王宮組の三人くらいでしょう。


「そんな民衆から慕われていた『聖女』は、もっとこの国にたたえられるべき、とは?」


「思わんな」


 バレオス様が即座に否定されます。

 はて。なぜでしょう?


 僕の視線を受け、バレオス様が続けられます。


「あの二人は懸命に生き、懸命に生き抜いた。騒がずに、そっと眠らせておくべきだ」


 なるほど、なるほど。


 ちらり、とミシェルくんに目を向けます。


「……そう、ですね」


 ミシェルくんは、微妙に強ばった顔で、同意されます。

 嘘がつけませんね。


 その反応で、確定です。

 だから、僕は尋ねました。


「では、お二人は現在どこにいて、今、『どんな状態』なのです?」


 バレオス様の表情が、微かに歪みます。


「あの二人は死んだ。何を言ってる、道化師?」


 ああ、やっぱり。


「動けないのですね。あるいは、監禁か保護・介護されている」


「妄想はいい加減にしろ」


 たぶん、保護か介護、の方でしょう。

 そして、バレオス様もミシェルくんも、その行方を知っている。


 ……が、別にその居場所を、正直に白状したりはしないでしょう。

 この場でこれ以上聞くのは、諦めます。


「僕らは、お二人を好意的に見ていますよ。皆さんもそうでしょう。たとえば、バレオス様がこの食堂にこうしていらっしゃるのは……彼女のことを、偲んで、とか?」


「……ふん、余計なことを」


 照れてらっしゃるご様子。

 個別ルートとは違いますが、ヒロインに好意自体は抱いていたのでしょうね。

 好ましくは、思っていたのでしょう。


 そんな彼がかばう、ということは、たぶんですが。

 お二人の状態も、深刻なことにはなっていないでしょう。


 生きてはいます。バレオス様に悼むご様子がないので、それはほぼ確定。

 ですが、人前には出られない。か、それを望んではいない。

 特に、僕ら、もしくはオルベリス王の前には、現われないでしょう。


 なぜ、それがわかるかって?

 ティアマト侍女長に説明した通りです。

 二人の遺体を偽装したのは、土魔法で骸を作ったか、幻影魔法で見かけを変えたか。

 そんなところです。


 そんな魔法だったら、宮廷魔術団長ともあろう方なら、容易いことですよね。


「では、ミシェルさん。バレオスさん。この宿の、他の名物料理はありますか? 最近のお薦めは?」


 僕の話題替えに、ミシェルくんが嬉々としてお薦め料理を教えてくれます。


「それはもう! この国の一番の自慢は、小麦でしょう! パンや様々なパスタ、お客様にお出ししたクリーム煮にも小麦が使われて――」


 夢中になって話す料理好きなミシェルくんに、僕らも微笑みを返します。

 今はこれで充分。


「ふん。道化めが」



***********



「まさか、本当に同室で宿泊するとは」


「良いでしょ? マクガフィンの話は聞いておきたいし」


 夜になって、宿屋『時の鳴き声亭』の一室。


 男性同士として、姫様は本当に同室で部屋を取られました。

 今夜、眠れるかな?

 無理矢理にでも就寝しますけどね。


「それは良いんですけど。姫様、女性ものの下着で過ごすのはいかがと思いますよ? 一応、男性のていで部屋を取っているわけですし」


「堅苦しいことを言うな。衣類は意外と重いんだ。寝間着も用意していないし、いつも通り楽な姿で休ませろ」


 な? と姫様は迫られます。下着姿で、僕に。

 完全に下心が見えますけど。ここは売春宿でも連れ込み宿でもないので、色事はダメですよ。


 僕がそう忠告すると、姫様はがっくりとうなだれました。

 気づいてなかったんですね。

 こういう宿では、お控え下さいね?


「で? 話を聞きましょうか。二人が生きている、とはどういうこと?」


 口調を直した姫様が、脚を組んでベッドに腰掛けます。

 ああ、そのことですか?


「簡単なことでして――」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?