「うるせぇなぁ。ったく、いいからとっとと仕事を探しやがれ」
ジャックスと呼ばれた大男は、周りの野次にうるさそうに顔を顰めた。その反応にまた笑いが起きる。
「ほらよ」
ジャックスはタニアの前にカップを置いた。出されたコーヒーからは、湯気と共に香ばしい香りが漂ってくる。
「あ……ありがとう」
タニアは戸惑いながらカップに口を付けた。コーヒーは程よい温度で、飲みやすい。
「美味いだろ? 俺が豆から選んでるんだ。俺のお勧めはここでしか味わえねぇぞ」
ジャックスが自慢げに言う。タニアは戸惑いながらもコクリと頷いた。ジャックスはそんなタニアを満足そうに見つめると、ドカリとタニアの向かいに座る。
「あ、あのオジサン。人攫いと勘違いして、ごめん」
タニアはおずおずと頭を下げた。
「まぁ、いいってことよ」
ジャックスはタニアの謝罪を豪快な笑顔で許し、「そういえば」と話を続けた。
「嬢ちゃんの名前を聞いてもいいか?」
「アタシ? アタシの名前はタニア。タニア・ミルコット」
「タニアか。俺はジャックス・ランバード。この就労斡旋所『プレースメントセンター』の所長だ。よろしくな」
そう言ってジャックスが右手を差し出す。タニアは戸惑いながらその手を取った。
「よ、よろしく」
ジャックスの手はゴツゴツとしていて大きかった。手だけではない。全身に筋肉をまとい、腕も足もかなり太い。その見た目からしてかなり鍛え上げられていることがわかる。事務仕事などより、体を駆使する仕事の方が合っているだろう。例えば、冒険者とか。
タニアがしげしげとジャックスのことを見つめていると、ジャックスが「ところで」と話を切り出した。
「タニアはどんな仕事が希望なんだ? 服飾関係ではないと言っていたな」
「えっ?」
ジャックスの体躯に気を取られ話を聞いていなかったタニアは、間の抜けた声を上げてしまう。
「聞いてなかったのか?」
「あ……うん」
タニアはバツが悪そうに頷いた。ジャックスは呆れた顔をする。
「いいか。タニアはこれから仕事をするつもりなんだろ? だったら、人の話はちゃんと聞くようにしろ。でなきゃ、どこもお前のことを雇ってくれねぇぞ」
ジャックスの言っていることはもっともだ。タニアは素直に反省する。
「ご、ごめん」
「まぁいいさ。それで、どんな仕事がしたいんだ? まだ何も決まってねぇなら、俺が一緒に探してやる。ここには色んな仕事の求人情報があるからな。まずはタニアの希望を言ってみろ」