ジャックスの言葉にタニアはカウンターにバンと手をついて勢い良く身を乗り出した。
「アタシ、ギルドの受付嬢をやりたいのっ!」
タニアの思わぬ行動に、ジャックスが呆気に取られる。周りの人達も何事かと視線を向けてきた。ハッと我に返ったジャックスは咳払いをひとつする。そして、困ったように坊主頭をかしかしと掻いた。
「タニア。一応確認するが」
言いづらそうにするジャックスに、タニアが首を傾げる。
「ん? 何よ」
「お前、見習い学校は出ているのか?」
「は? 学校なんて行ってないわ。そんなお金ないもの」
「……そうか」
タニアの言葉に、ジャックスはどうしたものかと腕を組む。
「歳は? 仕事に出るのは十五歳からと決まっているが」
ジャックスの確認にタニアは胸を張る。
「今日、十五歳になったの。隣の家のノルダばぁちゃんから、十五歳になったら働けるって聞いてたんだ。だから今日、ギルド嬢の登録に来たの」
嬉しそうに答えるタニアにジャックスは渋い顔をする。そんなジャックスの反応を見て、タニアが顔を曇らせた。
「もしかして、十五歳じゃギルドの受付嬢にはなれないの?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだが」
ジャックスの返答は歯切れが悪い。煮え切らない態度にタニアの眉が上がる。
「じゃあ、何が問題なのよっ!」
つい声を荒げたタニアをジャックスは手を上げて制した。
「タニア。お前は見習い学校を出ていないんだな?」
「だから、それが何よ?」
ジャックスの遠回しな言い方に、タニアは苛立ちを募らせる。そんなタニアをジャックスは真剣な目で見つめてきた。
「いいか、よく聞け。残念だがお前はギルドでは働けん」
ジャックスから告げられた思いもよらぬ言葉に、タニアは椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「なんでよっ!」
そんなタニアを周りの人達が驚きの眼差しで見ている。しかし、当の本人であるタニアは周りの視線など構っていられない。そんなことは気にならないとばかりにカウンターに両手を突くと、今度は大声をあげることはせず静かに口を開いた。
「どうしてアタシじゃ受付嬢になれないのよ?」
哀願するような響きを持った声に、ジャックスは一呼吸置いてからゆっくりと話し始めた。
「この王都エル・ヴェルハーレにはいくつものギルドがある。そのどれもがギルドの受付となる者の採用条件を定めている。まず第一に、十五歳以上の者であること」
人差し指を一本立てて説明し始めたジャックスに、タニアは即座に突っ込む。