「だからアタシ、今日十五歳になったんだってば」
しかし、ジャックスはそれを無視して二本目の指を立てる。
「第二に見習い学校を卒業していること」
「っ、それは……」
悔しそうに唇を噛むタニアを気遣う素振りも見せず、ジャックスが三本目の指を立てた。
「そして第三に、ギルドの品位を保つことが出来る者であること」
ジャックスの言葉に、ガクリと項垂れたタニアが力なく問う。
「何よそれ……どういう意味?」
力なく呟くタニアに、ジャックスはようやく気の毒そうな視線を向けた。
「お前、親は?」
「……いない」
「そうか。じゃあやっぱり、タニアがギルドで働くのは難しいだろうな。第三の条件。これは、働く者を庇護できる親や後見人がいるという意味だ。それも、それなりに力を持っている庇護者のことだ。お前、その条件に当てはまらないだろう?」
タニアは何も答えない。悔しそうに唇を噛み、カウンターに乗せた手をギュッと握りしめている。そんなタニアを気の毒に思いながらもジャックスは説明を続ける。
「ギルドという所は、どの職場でも多額の金品を扱う。だから、身元のしっかりとした者しか採用されない。要は、信用だ。もし、問題を起こしたら親や後見人もまとめて罰せられる。起こした問題の尻拭いはギルドがするんじゃない。その親や後見人がするんだ。それができる、力のある家の子どもでなけりゃ、ギルドの受付なんてできないんだ」
不公平だとタニアは思った。親がいなければやりたい仕事もできないなんて。タニアは睨むようにジャックスを見た。そんな強い視線にジャックスはたじろぐことなく、肩を竦める。
「お前がギルドの受付嬢にどうしてもなりたいというなら、親代わりとなる後見人を見つけて見習い学校を卒業するしかない」
タニアは行き場のない憤りをどこへぶつければ良いのかわからず、拳を震わす。そんなタニアの心を見透かすようにジャックスはポンとタニアの頭に手を置いた。
「仕事を自由に選べないのは理不尽だと思う。だが、それが決まりなんだ。受け入れるしかない」
「……」
納得のいかないタニアは不貞腐れた顔でそっぽを向く。
「見習い学校を出ていない奴でも就ける仕事はあるんだぞ。さっき言っていた服飾関係だって、いろんな仕事があるんだ。手先が不器用で針仕事が苦手というなら、服屋の売り子はどうだ? タニアは、読み書き算術は出来るのか? それが出来れば、学校を出ていなくても雇ってくれるところはある」