ジャックスは、そっぽを向いたタニアに諭すように言った。しかし、タニアは見向きもしない。
「アタシはギルドの受付嬢になりたいの!」
頑なな態度をみせるタニアにジャックスは困ったようにため息を吐く。
「そうは言ってもなぁ……どうしてそんなにギルドの受付にこだわるんだ?」
「だって……。だって、ギルドの受付をしていればパパとママのことが何かわかるかもしれないから」
今にも泣き出しそうなタニアの震える声にジャックスの顔色が変わった。先程とは違った意味で困り果てて頭をガシガシと掻く。
「どういうことだ?」
ジャックスの問いかけにタニアは、両親のことをぽつりぽつりと話し始めた。
タニアの父は冒険者だったらしい。らしいというのは、タニアが物心つく頃にはもう家に居なかったからだ。そして母親も父親程ではないがよく家を空けていた。そんな時はいつも幼いタニアは隣に住むノルダに預けられていた。ノルダによると、タニアの父と母はどこかの冒険者パーティーに所属していたようだ。だが、そんな父と母の消息はいつしか分からなくなった。時折届いていた手紙も気がつけば届かなくなっていた。それから今日までタニアは隣に住むノルダに育てられた。
「ノルダばぁちゃん、アタシが小さい頃から言ってたんだ」
タニアは話を続ける。
「ギルドなら何か知っているかもしれないって。だからアタシ、ギルドに聞きに言ったこともある。でも、子どもには何も教えられないって相手にもしてもらえなかった」
「そうか……」
ジャックスは神妙な顔をして頷いた。
「パパとママを探して貰おうと依頼を出そうとしたこともある。だけど、子どものアタシが支払える報酬なんてたかが知れてる。端た金なんかでは誰も依頼を受けてくれなかった」
悔しそうに歯噛みをするタニアにジャックスは目を細める。
「だから、自分で情報を集めようと思ったの。ギルドの受付嬢になれば、ギルドが持っている情報を知ることができるでしょ? もしギルドに情報がなくても、ギルドにやって来る人たちの中の誰かが、何か知っているかもしれないでしょ」
タニアの話を聞いたジャックスは苦い顔をする。タニアの行動力は素晴らしい。だが現実はそう甘くはない。現にタニアにはギルドで働く資格がないのだ。ジャックスはどうしたものかと考えあぐね、鼻から大きく息を漏らした。
「冒険者ギルドか傭兵ギルドあたりなら、確かにお前の求めるなんらかの情報を得られるかもしれん」