ジャックスが可能性を提示したことでタニアはパッと目を輝かせた。だが、ジャックスは難しい顔を崩さない。それはそうだろう。いくらタニアの事情を知ったからといって、タニアをギルドに就職させることはできないのだから。
「だが、さっきも言ったように、ギルドの受付になるには三つの条件を満たしてなきゃならん。諦めるんだな」
ジャックスの突き放した物言いにタニアは憤慨した。
「ちょっと、オジサン! ここは『分かった。俺に任せとけ』って胸を叩くところでしょ!」
「……いや、何でだよ。無理なものは無理だ」
呆れた声を出したジャックスにタニアが食ってかかる。
「何よ、それ! 一緒に仕事を探してやるって言ったのはウソだったの?」
「いや、言ったがよ……。決まりなんだから仕方ないだろ。俺の口添えだけでいいならいくらでもしてやるが、今回は無理だ。どうにもならん。お前ももう働きに出る年なんだ。聞き分けろ」
ジャックスはタニアをピシャリと叱りつけた。その迫力に一瞬たじろいだタニアは、しばらく口を噤んで不貞腐れた顔をしていたが、やがて小さく呟いた。
「ねぇ……アタシは本当にギルドの受付嬢にはなれないの?」
眉を寄せ、目尻に涙を浮かべるその姿は正に捨てられた子犬のようだ。そんなしおらしいタニアの姿にジャックスはウッと言葉を詰まらせた。
「……ああ、無理だ」
ジャックスの冷静な言葉に、タニアは生きる気力を失ったように項垂れる。そんな姿を見せられては、さすがのジャックスも仕方がないと唸るしかなかった。
「……ったくしょうがねぇなぁ」
そう言うとジャックスは項垂れるタニアを残し、カウンターから出て行った。
「……え? ちょっと、オジサン!?」
突然いなくなったジャックスにタニアは困惑する。そして不安気に呟いた。
「もしかして、マジで見放された……?」
しかし、タニアの不安を他所にジャックスはすぐに戻ってきた。そして、カウンターの上にいくつかの書類を広げると再び椅子に腰をかける。
「これは……?」
置かれていた書類を見てタニアはキョトンとする。そんな彼女に向かってジャックスは、あまり気乗りしない様子で説明を始めた。
「公開前の求人だ。本来なら公開される前の求人を勧めることはしない。でも、ここならたぶんタニアのことを雇ってくれる。両親の情報を集めたいというお前の希望も叶えられるかもしれん。今回は特別だ」
ジャックスの言葉を聞いてタニアの表情がパッと明るくなる。