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第10話

 途端に顔を輝かせたタニアにジャックスは苦笑する。


「そうか。なら、このギルドで働くか?」


 ジャックスの言葉にタニアは満面の笑みを浮かべる。そして、カウンターに並べられた書類を手に取った。


「うん! アタシ、やる! この情報ギルド(仮)の受付嬢になる!」

「分かった。それじゃあ、創設者にはギルドの受付が見つかったと連絡しておく」


 ジャックスは書類の中から一枚の羊皮紙を抜き出すと、タニアに差し出した。


「お前は見習い学校を出ていないから、身分の証明書を持っていないだろ。だから、これに必要事項を記入してくれ」


 タニアはそれを受け取ると、羊皮紙に書かれていることを目で追っていった。どうやら、身上書のようだ。タニアは羊皮紙にペンを走らせた。タニアは学校には通っていなかったが、ノルダに読み書きと算術を習っていたので、簡単なことくらいなら書くことができた。タニアが記入を終えて羊皮紙をジャックスに返すと、彼はそれに目を通した。


「タニア・ミルコット。十五歳。学歴なし。職歴なし。家族は、父母……現在は行方不明。お前、兄弟は?」

「いない」

「そうか。まぁ、一人は気楽でいいけどな」


 ジャックスの言う通り一人でいる分には面倒事がなくて気楽だった。何をするにも自分次第。誰にも何も言われない。隣の家にはノルダが居ていつも世話を焼いてくれる。だから困ることもそんなにない。


 でも、とタニアは思う。時折どうしようもなく寂しいと思うことがある。両親がいてくれれば。せめて、寂しさを分かち合える兄弟でもいれば。そんな風に考えることもある。


「一人は気楽だけど、アタシはあんまり一人で家に居たくはないかな」


 タニアの呟きにジャックスはバツが悪そうに表情を曇らせた。


「……そうか。……悪い。無神経なことを言ったな」


 その反応を見て、タニアは慌てたように首を左右に振る。


「ああ、違うの。大丈夫。大丈夫だから。気にしないで。ウチ街の外れでさ、無駄に土地と家が広いから静かすぎるっていうか。時々それが寂しくなるっていうか。でも、ほんとに時々だし。オジサンの言うように、やっぱり一人は気楽でいいよ。うん」


 タニアは大丈夫だと笑った。心配されることでも、不憫がられることでもない。タニアは何でもない風を装う。しかし、それが強がりであることはジャックスにも分かっていた。


「……そうか」


 ジャックスは小さく頷くだけだった。そんなジャックスの態度にタニアは少し切なくなった。

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