しんみりとした空気が二人の間に漂い始め、居た堪れなくなったタニアは話題を変えた。
「ねぇ。それよりもさ、ギルドの創設者って、アタシを雇ってくれる人でしょ? どんな人?」
タニアは物怖じしない方ではあるが、それでもやはり新しい環境というのはそれなりに気になるものである。
「あー、そうだな。俺は奴のことを気に入っている」
ジャックスはそう言うと、ニヤリと笑った。
「……だが、まぁ……いい奴かと問われると答えるのが難しい」
ジャックスの言葉にタニアは首を傾げる。
「え? 何それ? なんか気になる言い方なんだけど? 悪い人ってこと? その人、怖いの?」
「怖いってことはないが……まぁ、多少癖のある奴でな。面倒なのは確かだな」
「そ、そうなんだ……」
タニアは表情を強ばらせた。表情がどんどんと曇っていく。それを見たジャックスは慌てて言葉を付け加えた。
「でも大丈夫だ。悪い奴じゃねぇから」
取ってつけたようなフォローがさらにタニアの不安を誘う。
「なんか不安になってきたんだけど……。大丈夫かな、アタシ。その人と上手くやれるかな。……あ、でもその人と二人っきりで仕事をするわけじゃないもんね。他の人に助けて貰えばいっか」
自身を奮い立たせるように明るい声を出したタニアを励ますでもなく、ジャックスはタニアの期待とは裏腹に渋い顔を見せた。
「まだ求人を出していない新設ギルドだと言っただろ。職員は今のところお前しかいないぞ」
容赦のないジャックスの言葉にタニアは絶句する。そして不安気な顔をジャックスに向けた。そんな視線を受けたジャックスは肩を竦めるしかない。
「ま、なんとかなるさ」
「……本当に? もうそれしか言えない感じ?」
瞳をウルウルとさせるタニアにジャックスは再び苦笑する。
「ちょっと難しい性格というだけで、本当に悪いやつではないんだ。会う前から嫌ってやるな。それに、このギルドとは違う職場になるが、奴と上手くやってる奴もいる。だから、タニアもギルドの受付をやりたいなら、アイツと上手くやるんだな」
ジャックスの言葉にタニアは、うーんと唸り声を上げる。そして、少し考えた後、よしっと気合いを入れた。
「確かに! 相手のことをよく知りもしないで嫌がってちゃダメだよね。 それに、アタシにはこのギルドしかないんだもん! アタシ、頑張るっ!」
「そうか」
タニアのやる気を再度確認したジャックスは短く頷くと、カウンターに広げられていた書類を手早く片付け始めた。