「ところでさ、別の職場って何? その人、二つの仕事を掛け持ちしてるってこと?」
ジャックスのの片付けを遮るようにタニアが身を乗り出して質問した。
「……まぁそんなとこだ」
「へぇ」
ジャックスのどこか歯切れの悪い返答にタニアは首を傾げる。だが、話しにくそうにしているジャックスの雰囲気を察してか、タニアがそれ以上話を掘り下げることはなかった。
「まぁ、いいや! それでさ、その情報ギルドってどこにあるの? アタシ、いつから働きに行けばいい?」
「そのことなんだが……。何度も言うように、まだ正式には開設されていないギルドなんだ。だから、その……」
「何? ハッキリしないなぁ」
タニアは苛立たしげに腕を組む。やがてジャックスは言い難そうにしていた口を重々しく開いた。
「……ギルドの開設日が決まり次第、場所や仕事内容を決めていく予定だったんだ」
「つまり、それは……」
タニアがゴクリと唾を飲み込んだ。そして恐る恐るといった様子で口を開く。
「アタシはまだ働けないってこと?」
「いや、そういうわけではないんだ」
ジャックスは再び口ごもる。
「ちょっと、オジサン! ハッキリ言ってよ! アタシ、もうこのギルドで働く気満々なんだからね!」
タニアがジャックスを睨みつける。ジャックスは諦めたように息を吐いた。
「もちろんタニアにはギルドの受付として頑張ってもらいたい。……そこで提案なんだが、しばらくの間、タニアの家を活動拠点とするのはどうだ?」
「……は?」
タニアの目が点になった。だがそれも束の間のこと。すぐにハッとして声を張り上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなことってある? アタシ、やっとギルドの受付嬢になれると思ったのに! 自分の 家を拠点にって……そんなギルドの受付嬢が何処にいるのよっ!」
「……まぁそうだな。だが、働いた分の報酬は毎月きっちり奴に支払わせる。それにギルド拠点として間借りするわけだから、賃料ももちろん支払わせる。悪い話ではないと思うんだが」
「でも、それってなんか違くない?」
タニアはジャックスに食ってかかる。だが、ジャックスは動じない。
「まぁ落ち着け」
「落ち着いてなんていられないよ。なんかおかしいもん。やっぱりこの話なかったことにして! アタシ、ギルド嬢になれないなら、もう自力でギルドに潜り込んでやるわ」
「待てって」
席を立って出ていこうとするタニアの肩をジャックスは掴んだ。ジタバタと暴れるタニアを何とか取り押さえる。