ギルドに入ると、今日はやけに明るい声が飛んできた。
「おはようございますっ! クエスト、受けに来たの?」
カウンターの向こうにいたのは、明るい金髪に短めのツインテール、パッチリとした瞳が印象的な少女だった。雰囲気にはまだ幼さが残るが、制服を着ている以上、受付嬢で間違いない。
「う、うん。今日は何かおすすめのクエスト、あるかな?」
「うんっ! ボク、おすすめのクエスト持ってくるね!」
そう言って少女は奥の部屋へと軽やかに駆けていった。まるで小動物みたいに元気だな……。
しばらく待っていると、足音が戻ってきた。だが――
「おい、お前がクエスト目当ての冒険者か?」
え? さっきの子と、声がぜんぜん違う。
現れたのは、確かにさっきとよく似た顔立ちの少女。でも、雰囲気が真逆だった。目元は鋭く、腕を組んで立つ姿は妙に威圧的だ。制服は同じなのに、なぜこんなに印象が違うんだ……。
「え、あの……さっきの子は……?」
「さっきの子? なんの話だ。オレ様が選んでやったこのクエストを受けとけ。感謝しろよ?」
そう言って、彼女は一枚の紙をカウンターにバンと置いた。
内容は「オーガの巣窟を一掃せよ」。
「え? え? あの、えっと、オススメって、もうちょっと軽いものを……」
「はあ? お前みたいなヘタレに軽いクエストやらせたら、逆に慢心して死ぬだろ。だから、オレ様がちゃんと選んでやったんだよ。いいから受けとけ」
なにその理論。優しさ? それともただのドS? いや、なんなんだ本当に。
「……っていうか、ほんとにさっきと同じ人?」
「何言ってんだお前。頭でも打ったのか? まあ、その程度のアタマでも生き延びられるようにクエスト選んでやったオレ様に感謝しろよな」
その瞬間、後ろの扉がバタンと開いた。
「お姉ちゃん! もうイタズラはよしてよね!」
戻ってきたのは、最初に対応してくれたボクっ娘の少女だった。元気な笑顔のまま、ぴょこんと飛び跳ねるように近づいてくる。
「だってコイツ、呑気そうだったから、ちょっと遊んでやっただけじゃん」
姉のほうは腕を組んだまま、あっけらかんと言ってのける。
「ほんとにもう! せっかくボクが笑顔で案内してたのに、台無しじゃない!」
「どうせお前、オススメって言いながら落し物探しとか出すつもりだったろ。そんなの退屈すぎて成長しねぇんだよ」
「でも、ちゃんと説明して渡せば、本人が選ぶでしょ? ゴリ押しなんてダメだよ!」
「はぁ? 冒険者なんてゴリ押しで生き残る世界だっつの。こいつにはオレ様の厳しさが必要なんだよ」
「そんなの優しさの押し売りって言うんだよ!」
「ぬるま湯の共感ごっこよりマシだろ!」
目の前で繰り広げられる姉妹バトルに、俺はただ呆然とするしかなかった。
「えっと……その、どっちもありがたいんだけど、どっちのクエストにすれば……」
二人はピタッと動きを止めて、こちらを同時に見た。
「「今日のおすすめはこれだよ!」」
――そして、手渡されたのはまったく同じクエスト用紙だった。
「……え?」
「たまには一致するのよ、好みがな」
「ほらね、やっぱりボクたち、仲いいんだよ!」
「いや、どう考えても口喧嘩しかしてないよね?」
そんな俺のツッコミもどこ吹く風で、二人は満足げに笑い合っていた。
仲がいいのか悪いのか分からない双子の受付嬢。
今日のギルドも、平常運転だった。