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本当に受付嬢ですか……?

 今日も俺はギルドの扉を開ける。


「おはようございます、クエストを受けに来ました!」


 カウンターには、背筋をピンと伸ばして椅子に腰かけた、どこか気品漂う少女が座っていた。白手袋をつけ、紅茶を片手に優雅にこちらを見るその姿――まるで貴族の令嬢だ。


 ……てか、制服着てるってことは、あれで受付嬢なのか?


「おほほ……庶民の方ですのね?」


「……え、ああ。はい?」


 なんで見ただけで俺が庶民って分かったんだ。まあ、合ってるけど。


「爺や、今日のおすすめクエストは何だったかしら?」


「こちらにございます、お嬢様。本日の第一推薦は、トカゲの尾を集める依頼でございます」


 脇に立っていた老執事が、どこからともなくクエスト一覧を取り出して、滑らかな動作でお嬢様に差し出す。動きに一切の無駄がない。まるで舞台演劇のようだ。


 それを一瞥したお嬢様は、顎に指を添えて、しとやかにうなずく。


「このクエストがよろしいですわ。たしか、トカゲの尾を十本集める……そういうものでしたわね?」


「いえ、お嬢様。正確には十五本でございます」


「まあ、そんなに必要なの。たいへんですわねぇ。庶民の方にはお辛いのではなくて?」


「庶民の方の鍛錬には、これくらいの負荷が妥当かと存じます」


 いや、うん、間違ってないけど! すごい真面目に会話してるけど!


 てかそのクエスト、俺に説明するより先に、お嬢様が執事と朗読劇始めちゃってるんだけど!?


「じゃ、じゃあそのクエストでお願いします」


 俺が口を挟むと、お嬢様はようやくこちらを向いて、ゆっくりと微笑んだ。


「まあ、お返事ができるのですね。素晴らしいですわ」


 会話できない前提だったのか、俺。


「庶民の方は、こうしてクエストをこなして、お金を稼いでいらっしゃるのね。誠に尊いご努力ですわ。爺や、冒険者様に激励のお言葉を」


「はっ。冒険者様、どうかお気をつけて。くれぐれも、お怪我などなさいませんように」


 執事、めっちゃ丁寧。


「いってらっしゃいませ、冒険者様」


 お嬢様と執事に同時にお辞儀されながら、俺はギルドを後にする。


 ――って、俺、一言もお嬢様と直接クエストのやり取りしてなくね!? そもそも、執事で完結してたよね!?


 ……なんなんだ今日の受付は。


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