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第3話

 一人購買部へやって来たかりなは、放課後ということもあり、品数が少なくなった陳列棚の前に立って腕を組む。


 お菓子を想像したせいで、甘いものが食べたい。しかし残っているお菓子はグミばかりだ。


 甘いお菓子は人気のため放課後には殆ど残っていない。だがその中でクリームパンが一つ残っていた。


「ラッキー。これください」


 早速かりなはクリームパンを取ってお金を払う。


 そして教室まで帰りながら、クリームパンの封を開ける。


 さっきからお腹が減っていたせいで、クリームパンを一目見てから唾液が止まらないのだ。かりなは半分に千切り、千切った真ん中のクリームが一番多い箇所から食べる。


 柔らかいパン生地の真ん中に濃厚で甘いカスタードクリームがバニラの香りを放つ。


 単純な美味しさが急いで腹を満たしたいかりなにはぴったりだった。


 口いっぱいに半分に千切ったクリームパンを詰め込み、元気が戻ったかりなは勢い良く教室へと入り込む。


「もふぉっふぁふぉ」

「行儀が悪いし危ないだろ。口に入れたまま走るな。戻ってきてから食べろ」


 咎める星波に手で誤りながら、口の中にあるクリームパンを飲み込む。


「ごめんごめん、我慢できなくって。ほい、星波もいるでしょ?」

「我慢できなかったからといって、危険を冒すのは違うだろ」


 そう言って口を開ける星波。


「自分で食べなよ……」


 そんなことを言いつつも、クリームパンを口まで持っていってあげる。


「面倒なんだ。いいだろ? これは禊だ」

「はーいはい」


 邪魔な髪の毛をかき分けて、残り半分のクリームパンを食べさせてあげる。


 それをゆっくりと小さく齧り、口の端にカスタードクリームをつけたまま味わうように咀嚼する。


「うん、美味いな」

「端にクリームついてるよ」

「分かっている。そこは黙って拭い取ってくれると私は嬉しいんだがな」

「いや舐めたら取れるでしょ」

「黙れ、それぐらい分かっている」

「なんで不機嫌なの……?」

「私はお腹が空いたら不機嫌になるんだ」

「そうだっけ⁉」


 よっこらせと、ようやく起き上がった星波はかりなからクリームパンをひったくり口に詰める。


 そしてクリームパンを飲み込み、口の端についたクリームを舐め取る。


「まあそんなことはいい。帰るぞ」

「え、いきなり? いやまあ嬉しいけど」


 しかし立ち上がろうとせず、両手をかりなに向けて差し出すだけだった。


 二人は無言で見つめ合う。


 言葉を交わさなくても解る。星波はかりなに立ち上がらせてほしいのだ。その要求に応えてあげるかどうか、かりなはわざと悩む素振りを見せる。


「早く立たせろ」

「なんで偉そうなんだろうかねえ」

「頼む」

「仕方ないなあ」


 そう言って、星波に腕を引き立ち上がらせ、そして鞄を持たせてあげる。


「戸締りは頼んだ」

「星波も手伝ってよ」

「片方のドアは閉めてやる」

「じゃあそれでいいから、早く出て」


 先に教室の後ろのドアから廊下へと出ようとする星波を待つ間に窓が閉まっているか確認をして、そして閉められたドアの鍵を閉め、教室の前から出ていく。電気を消して、鍵を持ち、誰もいないことを一応確認して教室の鍵を閉める。


 鍵を人差し指でくるっと一周回して握る。


「じゃっ、わたしは職員室に鍵返しに行くから、星波は先に行っといて」

「分かった。転ぶなよ」

「はいはーい」


 そう言って走り去るかりなを見送って、少し重たくなった鞄を肩にかけ直してようやく歩き出す星波であった。

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