1番確実で簡単に食糧を手に入れる方法。
僕の記憶の中には、川で魚を捕る方法がある。
これも、何かのアニメで見た奴だ。アニメは、ためになるなあ。
川の石に大きな石をぶつけて、その衝撃で魚を気絶させる方法だ。
「これでいいかな」
一抱えほどの石を持ってみた。
意外と軽い。
他の石も持ってみたが全部軽かった。
軽石が多いのかも知れない。
余り軽くては効果が薄いだろうと、大きめの石を持ってみた。
「よっと」
豚ぐらいある、大石を頭上まで持ち上げて目の前の岩に思い切りぶつけた。
大爆発が起きたぐらいの音があたりに響き渡る。
地震のような地響きがしばらく続いた。
豚くらいあった石がパウダー状の粉末になった。
離れた所で、ガラガラと何かが崩れる音がした。
川から、魚がプカプカ浮かんでくる。
「うわあっ」
あり得ないほどの魚が浮かんできた。
川の魚が全部浮いてきたぐらい浮かんでいる。
「全部はさすがに食えないなあ」
僕は、大きめの魚を三匹だけもらった。
他の魚は死んでいないかと心配したが、数分で全部泳いで消えていった。
「次は火だな」
僕は枯れ木を拾ってきた。
両手でクリクリやって付ける方法を試そうと思って石に座った。
両手で木の棒を持ち、横に置いた木の上で棒を回転させようと力を入れた。
グイッと力を入れたら一発で炎が出る。
アニメで見た時は、何度も何度も擦っていたが僕は一瞬で付いた。
きっと、アニメは面白くするための演出なんだろうと思った。
「喉がかわいたなあ」
魚を木の枝にさして火の回りに並べて、回りを見回した。
たしかアニメでは、川の水をそのまま飲むのは腹を壊すと言っていた。
「そう言えば草の茎から水を飲む方法をやっていたなあ」
川の近くだからか、みずみずしい植物がいっぱいある。
その中の1本を剣で切り、口を付けて吸ってみた。
まるでストローで吸うように水が出てくる。
少し青臭いけど、十分飲めた。
飲み終わった植物が、シオシオになっている。
「川魚は寄生虫がいるから生は危険だと言っていたなあ」
僕は魚にしっかり火が通るのを待って食べた。
全然味がしなかった。でも腹はふくれた。
腹がふくれると、あたりの景色を見る余裕が出て来た。
まわりの景色はワイルドだった。
「誰もいないのかなあ」
急に人恋しくなった。
たしか、こんな時は。
あの空手のアニメを思い出した。
剣で、僕は片方の眉毛を切り落とした。
僕は戦争で敵前逃亡をした。究極の罪人だ。
これもアニメで見たから知っている。
しばらくほとぼりが冷めるまで山で、一人で暮らさなければならないのだろう。
「ちっきしょーーーー!!!!」
空にむかって大声を出した。
山で一人暮らしと言えば修行だ。それしか思い浮かばない。
空手の修行などはしたことが無い。
習った事も無い。
だが、あのアニメでは、正拳突きを極めればいいと言っていた。
アニメとは、本当にためになる。
僕は、毎日持っている剣を振り、正拳突きをした。
数ヶ月も振っていると、剣はいい音が出るようになった。
正拳突きも音が出るようになった。
空手では自然石を割っていたなあ。
このあたりの石は柔らかいのか簡単に割れる。
熊ぐらいの岩も割れるようになった。
最初は魚ばかり食べていたが、最近では1トンくらいある巨大鹿も倒せるように成り、食糧には困らなくなった。
季節は気温では余り違いがわからない。でも雨が降り続く時があり、これが雨期なんだとわかった。
五回目の雨期が終わって、僕は森を出る決心をした。
水面で自分の顔を見た。
ひげもじゃで、髪がモジャモジャで眉毛も長いのが生えそろっている。
デブだった体も筋肉ムキムキになっている。
40歳のはずだが、50歳くらいにみえる。
これなら、いいのじゃないかな。
絶対に誰かわからないはずだ。
川沿いをずっと流れにそって走った。
途中に大きな滝があったはずだが、中途半端な滝しか無かった。
川は、緩やかになり川幅が広がってくる。
もう1度中途半端な滝に着くと視界が開けた。
平野が広がっている。
そこに、町が見える。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっっ!!!!!」
なんだか、心の底から声が出た。
こころ躍るというのはこの事なのだろう。
スキップしたい気分だ。
「待てよ」
急に頭に不安がよぎった。
町は壁に覆われている城塞都市だ。結構大きい。
戦争から町を守るための仕組みだ。
魔王の国なのか、人間の国なのか。
安易に近づけば墓穴を掘る。
しばらく様子を見なくてはいけないじゃ無いか。
僕はなんてバカなんだ。
すぐに気がついて良かった。
くるりと、反転して森を目指そうとした。
「おい、ちょっと待て」
いきなり声をかけられた。
「えっ!?」
僕は振り返った。
「ふむ、怪しい奴め。何処へ行く」
――うわあぁぁーー!!!!
よりによって兵士だ。
兵士に見つかってしまったーー。
町に近づきすぎたーー。
でも、誰かはわからないはずだ。
なんとか誤魔化そう。
「ぼ、僕ですかー?」
「ふむ、そうだ。お、お前!! そ、その剣は何だ!?」
「えっ!? こ、これですか」
「その剣は、勇者の剣じゃないか」
「ええーーっ、なんでわかるんですかー」
「ははーーん、貴様ーー!! 貴様は、五年前敵前逃亡した、召喚勇者だな」
「ひえーーっ!!」
なんでわかるんだよーー。
五年間の逃亡生活はなんだったんだよーー。
一瞬でばれてしまったーー!!
くそーーっ!! やべーー!!