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0002 五年間がパア

1番確実で簡単に食糧を手に入れる方法。

僕の記憶の中には、川で魚を捕る方法がある。

これも、何かのアニメで見た奴だ。アニメは、ためになるなあ。

川の石に大きな石をぶつけて、その衝撃で魚を気絶させる方法だ。


「これでいいかな」


一抱えほどの石を持ってみた。

意外と軽い。

他の石も持ってみたが全部軽かった。

軽石が多いのかも知れない。

余り軽くては効果が薄いだろうと、大きめの石を持ってみた。


「よっと」


豚ぐらいある、大石を頭上まで持ち上げて目の前の岩に思い切りぶつけた。

大爆発が起きたぐらいの音があたりに響き渡る。

地震のような地響きがしばらく続いた。

豚くらいあった石がパウダー状の粉末になった。

離れた所で、ガラガラと何かが崩れる音がした。

川から、魚がプカプカ浮かんでくる。


「うわあっ」


あり得ないほどの魚が浮かんできた。

川の魚が全部浮いてきたぐらい浮かんでいる。


「全部はさすがに食えないなあ」


僕は、大きめの魚を三匹だけもらった。

他の魚は死んでいないかと心配したが、数分で全部泳いで消えていった。


「次は火だな」


僕は枯れ木を拾ってきた。

両手でクリクリやって付ける方法を試そうと思って石に座った。

両手で木の棒を持ち、横に置いた木の上で棒を回転させようと力を入れた。

グイッと力を入れたら一発で炎が出る。

アニメで見た時は、何度も何度も擦っていたが僕は一瞬で付いた。

きっと、アニメは面白くするための演出なんだろうと思った。


「喉がかわいたなあ」


魚を木の枝にさして火の回りに並べて、回りを見回した。

たしかアニメでは、川の水をそのまま飲むのは腹を壊すと言っていた。


「そう言えば草の茎から水を飲む方法をやっていたなあ」


川の近くだからか、みずみずしい植物がいっぱいある。

その中の1本を剣で切り、口を付けて吸ってみた。

まるでストローで吸うように水が出てくる。

少し青臭いけど、十分飲めた。

飲み終わった植物が、シオシオになっている。


「川魚は寄生虫がいるから生は危険だと言っていたなあ」


僕は魚にしっかり火が通るのを待って食べた。

全然味がしなかった。でも腹はふくれた。

腹がふくれると、あたりの景色を見る余裕が出て来た。

まわりの景色はワイルドだった。


「誰もいないのかなあ」


急に人恋しくなった。

たしか、こんな時は。

あの空手のアニメを思い出した。

剣で、僕は片方の眉毛を切り落とした。


僕は戦争で敵前逃亡をした。究極の罪人だ。

これもアニメで見たから知っている。

しばらくほとぼりが冷めるまで山で、一人で暮らさなければならないのだろう。


「ちっきしょーーーー!!!!」


空にむかって大声を出した。


山で一人暮らしと言えば修行だ。それしか思い浮かばない。

空手の修行などはしたことが無い。

習った事も無い。

だが、あのアニメでは、正拳突きを極めればいいと言っていた。

アニメとは、本当にためになる。


僕は、毎日持っている剣を振り、正拳突きをした。

数ヶ月も振っていると、剣はいい音が出るようになった。

正拳突きも音が出るようになった。

空手では自然石を割っていたなあ。

このあたりの石は柔らかいのか簡単に割れる。

熊ぐらいの岩も割れるようになった。


最初は魚ばかり食べていたが、最近では1トンくらいある巨大鹿も倒せるように成り、食糧には困らなくなった。

季節は気温では余り違いがわからない。でも雨が降り続く時があり、これが雨期なんだとわかった。

五回目の雨期が終わって、僕は森を出る決心をした。


水面で自分の顔を見た。

ひげもじゃで、髪がモジャモジャで眉毛も長いのが生えそろっている。

デブだった体も筋肉ムキムキになっている。

40歳のはずだが、50歳くらいにみえる。

これなら、いいのじゃないかな。

絶対に誰かわからないはずだ。






川沿いをずっと流れにそって走った。

途中に大きな滝があったはずだが、中途半端な滝しか無かった。

川は、緩やかになり川幅が広がってくる。

もう1度中途半端な滝に着くと視界が開けた。

平野が広がっている。

そこに、町が見える。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっっ!!!!!」


なんだか、心の底から声が出た。

こころ躍るというのはこの事なのだろう。

スキップしたい気分だ。


「待てよ」


急に頭に不安がよぎった。

町は壁に覆われている城塞都市だ。結構大きい。

戦争から町を守るための仕組みだ。

魔王の国なのか、人間の国なのか。

安易に近づけば墓穴を掘る。


しばらく様子を見なくてはいけないじゃ無いか。

僕はなんてバカなんだ。

すぐに気がついて良かった。

くるりと、反転して森を目指そうとした。


「おい、ちょっと待て」


いきなり声をかけられた。


「えっ!?」


僕は振り返った。


「ふむ、怪しい奴め。何処へ行く」


――うわあぁぁーー!!!!


よりによって兵士だ。

兵士に見つかってしまったーー。

町に近づきすぎたーー。

でも、誰かはわからないはずだ。

なんとか誤魔化そう。


「ぼ、僕ですかー?」


「ふむ、そうだ。お、お前!! そ、その剣は何だ!?」


「えっ!? こ、これですか」


「その剣は、勇者の剣じゃないか」


「ええーーっ、なんでわかるんですかー」


「ははーーん、貴様ーー!! 貴様は、五年前敵前逃亡した、召喚勇者だな」


「ひえーーっ!!」


なんでわかるんだよーー。

五年間の逃亡生活はなんだったんだよーー。

一瞬でばれてしまったーー!!

くそーーっ!! やべーー!!

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