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0007 領都の危機

食事が終わると、ステラさんが窓を開けてくれた。

外から爽やかな風が入ってくる。

魔人と人間ではお尻の青いアザ以外の違いは、魔力にあるらしい。

やはり魔人の魔力の方が多いということだ。

そのかわり、力は人間の方が強くて、体も大きいのだという。

でも個人差があるので簡単に見分けるのは、やはりハンケツを出すのが1番だとか。


「どうぞ」


ステラさんが僕の前にティーカップを置いてくれた。

良い香りがする。

紅茶のような香りだ。

僕は、お茶なんて一人の時は飲まない。

水道の水をガブガブ飲むだけだ。

ふふふ、一人の時はと格好を付けたけど、一人の時しか無いので水道の水しか飲んだことが無い。


「良い香りですね」


僕が言うと、ジュラさんがとてもうれしそうな顔をした。

ジュラさんはやはり美しい。

テレビで見る女優さんにもひけを取らないと思う。


「はい!! 私の1番好きな香りです」


どうやら、ジュラさんの1番を出してくれたみたいだ。


「あの、もう一つの質問をしても良いですか?」


「むろんじゃ。わしでわかることなら答えよう」


「では、戦争の原因はいったいなんでしょうか?」


「ふむ、それは至極単純な話じゃ。人間が領土侵犯をちょくちょくしてきてのう。勝手に魔人の土地を少しずつ奪いおったのじゃ。魔王が返還を要求しても全く言うことを聞かない。そこで戦争が起ったのじゃ。戦争は魔人の方が強くてのう、こまった人間達は召喚魔法などという物を編みだした。と、いうわけじゃ」


「そうですか」


僕は、その戦争に召喚という形で巻き込まれたということのようだ。

魔人であるじいさんの話だけでは、人間がどうしても悪者になる。

人間側の言い分も聞かないと判断してはいけないのだろう。

でも、僕は人間の世界に行けば敵前逃亡をした犯罪者だ。捕まれば死刑確定だからなあ。

ここは、魔人側の言うことを信じておこう。




「ディアムジュラール様、報告したきことがあります」


僕がお茶を飲み終った時、窓に兵士がやって来て部屋の中に声をかけてきた。

兵士の顔は顔面蒼白で、なにか一大事が起きているように感じる。


「今は、来客中じゃ!! 見てわからぬのか!!」


じいさんが不機嫌になり返事をした。

と、いうことはじいさんがディアムジュラールという名前だ。

まさか、やっちまったなあ。

僕が、ジュラさんに『ジュラさんと呼んでもよろしいですか?』と聞いたときに、ジュラさんの鼻の穴がピクピクしていたけど、あれはそういうことだったのか。

ジュラールは日本人で言えば名字じゃ無いのだろうか。

ということは、じいさんも、ジュラさんのお父さんもジュラさんということになる。

だが、もうしょうが無い。ジュラさんで押しとおそう。


「それはわかっています。それでも、尚、報告の必要があると具申いたします」


「ふむ、わかった。申してみよ」


じいさんがいうと、兵士は僕をチラチラ見る。


「あの、僕は席を外します」


「何をいうのじゃ。おぬしも一緒に聞いてくれて構わん」


「そうですわ。デミル様は私のだん……私の、私の……、お、お師匠様です。武術のお師匠様です。見てください」


ジュラさんはとっさに、僕をお師匠様にしてくれたようだ。

そして、視線を僕の横に立てかけてある、エルナゴルグ製の漆黒の剣に向けた。

兵士もつられて視線を漆黒の剣に向ける。


「あ、あれは、魔王様のエルナゴルグ製の漆黒の剣ではありませんか。このお方が抜いたのですか」


「いや、あれを見るのじゃ!」


この部屋の窓の外に、漆黒の剣が刺さっていた岩の残骸が見える。


「な、なんですかあれは?? 切れた岩の頭と粉々に砕けた岩の残骸。切れた岩の切り口がとてもうつくしい。達人の剣ですな」


「ふむ、わがジュラール家の新しい武術師範デミル殿の剣じゃ。そして、岩が砕けているのは、素手で殴って破壊したのじゃ」


「ななななな、なんですって、素手で殴ったー!? あの岩は、とても硬い自然石ですぞ。そんなことが出来るなんて、抜くよりすごいことじゃありませんかー!!」


「ふふふ、そうじゃ!!」


じいさんが自慢そうだ。


「いやいや、た、たまたまです。偶然です。次にやったら出来ないと思います。僕にはたいした実力はありません」


僕は、なにか大変な事に巻き込まれそうな気がして全力で否定した。


「た、たまたまでも、あんなことを出来るのはデミル様しかいないでしょうな」


だめだ、この兵士まで僕を様付けで呼び始めた。


「して、何があったのじゃ?」


「は、はい。森から神獣の群れが出て来ました。この領都を目指しているようです。現在領兵を1000人むかわせましたが、どれほど持ちこたえられるかわかりません。逃げる用意をして下さい」


「なにっ??!!」


じいさんとジュラさんが僕をじっと見てくる。

僕は左右にブンブン首をふる。


「何も知りませんよ!」


本当に何も知らない。

心当たりも何も無い。


「神獣が神域を出てくるなど、信じられんことじゃのう。なにがあったのじゃろうか?」


「はい。それが、神域の監視をしていた番兵の話では、五年前から神域の奥で恐ろしい爆発音がして、神域の断崖絶壁がすこしずつ崩れていたとのことです。すでに2割くらい崩れ落ちているとのことで、これが原因ではないかと」


「何じゃと、五年前?」

「なんですって、五年前??」


じいさんとジュラさんが僕を見てくる。


「どうかなされたのですか?」


兵士が、じいさんとジュラさんを交互に見ながら質問した。


「…………!」


じいさんとジュラさんが、今度は反対側に立てかけてある僕の勇者の剣を見ろ! と、兵士に目配せをする。


「あっ、あれは、勇者の剣!! まっ、まさか!? デミル様は五年前敵前逃亡をした、あの腰抜け勇者なのですか」


なんでそんなに瞬時にわかるのですかーー!!

はい、そうです。

その敵前逃亡をした、腰抜け勇者こそが僕です。


「なるほど、そうですか。それで合点がいきました」


――えーぇーっ!


それで、何がわかるのーー??

僕にはさっぱり合点がいきませんけどーー!!


「あっ、あのぉー、何がわかったのでしょうか? 僕には全くわかりません」


「ふふふ、森の恐ろしい爆発音が聞こえだしたのと、逃亡勇者様が森に入ったのが同じ時期となります。恐らく爆音の原因が逃亡勇者様にあるものかと」


なんだってーー。

爆発音を僕が出しただってー?

――まさか?

「まさか、僕が魚を捕まえるために、川の岩に石をぶつけたのが原因なのか? 確かに少し大きめの石を投げて、ぶつけたけどそんなことで爆発音なんか……爆発音なんか……まてよ、していたなあ。ああ、そう言えば地震の様に大地も揺れていた。あの時は何の音かわからなかったけど、ガラガラ遠くで何かが崩れ落ちる音もしていたなあ。やばい、僕が原因の様にも思えてきた、バレないように黙っておこう」


「やっぱりじゃ!!」

「やっぱりですわ!!」


「えっ!? 何の事ですか??」


「おぬしが、魚を捕まえようとしたのが原因だと言っておるのじゃーー!!」

「そうですわーー!!!!」


「なんで、知っているんですかーー??」

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