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0008 知らないうちに神獣王

「くっくっく」

「ぎゃははははははは」


最初は我慢しようとしていたようですが、兵士とステラさんとメイドの4少女がとうとう笑い出しました。


「ちと、聞くが、デミル殿。神域でずーっと5年間も暮らしていたと言う事じゃが、恐ろしくは無かったのかのう」


「ぜんぜん恐くなどありませんでしたよ。動物たちは大人しいし、森は豊で静かに暮らせました。神域の動物たちが暴れているのなら僕が行きましょう。きっと大人しくなるはずです」


「あ、あのぅ。あなたは本当に逃亡勇者様なのですか?」


兵士が聞いて来た。


「ふふ、僕は人間がなぜか恐いのですが、動物は全く恐くありません。お食事を食べさせて頂きましたので、お返しにひと働きしましょう」


「なに、ほんとうか? それは心強い!!」


じいさんが心からうれしそうに言った。

そんなに神獣が恐いのだろうか?


「あの、私も同行してもよろしいですか?」


ジュラさんが目をキラキラさせて聞いて来た。

丁度、動きやすそうな服も着ています。

まるで、こうなる事が分かっていたような服装です。


「構いませんよ。じいさん、馬車とかはあるのですか。あるのならステラさんとメイドさん達も一緒に行きましょう」


「な、なんだってぇー!! それはいけない! 危険すぎる。相手は神獣ですぞ!!」


兵士は驚いて、怒ったような口調で大反対した。

まてまて、神獣ってそんなに恐ろしいのか?

僕にとっては、犬や猫程度にしか感じ無かったぞ。

全く別のものなのか。神域にいるのが神獣なら、僕が普通に捕まえて食っていた奴らのはずだ。

まさか違うのか? 少し不安になってきた。


「よい!! わしも同行しよう。きっと面白い物が見られるはずじゃ」


爺さんが兵士を一喝した。

兵士はまだ何か言いたそうだったが、爺さんに言われたら黙るしかないようだ。

兵士を一喝すると、爺さんはワクワクする子供の様に、いそいそと戦支度をはじめた。







「では、いこうかのう」


じいさんとジュラさんと兵士は、騎馬に乗った。

僕は馬に乗ったことが無いので馬車に乗せてもらった。

馬車にはメイドの4少女、御者はステラさんがするようだ。

ステラさんは、なんでもできるなあ。

なにげに1番すごい人のような気がする。




「うおおーーーっ!!」

「ぎゃああぁぁーーっ!!」


しばらく道を走ると喚声が聞こえてきた。


「おおおっ!! モルガ騎士団長!!」


どうやら、この同行していた兵士は騎士団長でモルガという名前らしい。

騎兵が1騎モルガさんに近づいて来た。

ボロボロの姿だ。


――えーーーっ!


まてまて、神獣にそんなにボロボロにされたのぉー?? ちょっと待って、それはきっと僕の知らない神獣かも。

いまさら後悔した。

たぶん、僕の知らない暴れん坊の神獣だ。

来なければ良かった。


僕がそんなことを心で考えているとは知らない、美少女メイド4人が僕の顔を期待の目で見てくる。


「状況は?」


「はっ、既にほぼ全滅です」


――えーーっ!


僕は驚いた。

仕方が無いので、こっそり馬車の窓から状況をのぞいてみた。


――えーーっ!


やっぱりだ。


やっぱり、あいつら、僕の知っている神獣だ。

僕が神域で暮らしていたときに、僕の家のまわりに住んでいた奴らだ。

なら、何も恐れることは無い。


「みんな、ちょっと僕は行って来る。ここで大人しく待っていて下さい。危ないのでここから出てはいけませんよ」


美少女4メイドに少しかっこうをつけて言ってみた。


「はいっ!!」


美少女メイドさん達は、上目遣いで良い返事をした。

ふふふ、本当は全然危なくありませんよ。

あいつら程度なら、むかって来ても瞬殺出来ます。

余裕です。そうですねえ、日本で例えるなら、蚊ンスをつぶす程度です。


「ステラさんも、中で窓から見ていてください。危険ですので馬車からは出ないでください」


「はいっ!!」


ステラさんも素直に返事をしてくれた。

頭の良さそうな、社長秘書のような美女だ。


「ジュラさん、じいさん。行ってきます。2人もここから動かないでください。危険ですからね」


ふふふ、危険を強調しておいた。

それだけ言うと僕は走りだした。

後ろをモルガさんとボロボロの騎兵と、じいさんとジュラさんがついてくる。

って、あんたら、今ついて来るなって言いましたよね。

聞きゃあしねえ。


僕は走る速度を上げた。

馬では、追いつけないようだ。

僕が4人を引き離し、戦っている兵士と神獣の所に近づいた。


「…………」


戦場と化していた荒野が、静まり返った。

まるで戦場が凍り付いた様に動きを止めた。

そして、視線が僕に集中する。しばらく時間がとまった。

僕の姿を見て、神獣達が平伏しているのだ。


「す……すごい」


追いついてきたジュラさんが、小さな声で言った。


僕は声を出せないでいた。

一体何事が起きたのだろうか。

そういえば、食べようとして剣を振り上げた時に、神獣達が命乞いのためか僕に近づいて平伏する事があった。

僕も鬼じゃ無いから、その都度見逃していた。

窮鳥懐に入れば猟師も殺さずと言うことわざの実行をしただけだ。

神獣王だけは最後まで、平伏はしなかったなあ。だから食べたけど。


「むう、すごい光景じゃ」


じいさんが、驚きの表情をしている。


「お爺さま、見てください。ドラゴンもいます」


「むう、本当じゃ」


「ドラゴンは、頭が良いと聞きましたが、話ができるのでしょうか? それともこのドラゴンはバカだから話せないのかしら」


「なんだとー! 小娘ーー!! あんまり、なめとると殺すぞ!!」


「きゃっ!」


いつの間にか、ジュラさんは僕のすぐ後ろに来ていて、僕に捕まって悲鳴を上げた。


「うわぁ、すげーー。とかげがしゃべったぁーー!!」


僕は驚いて声が出てしまった。

でかいトカゲが、悲しそうな目で僕を見た。


「私だけではなく、この中には話す事が出来る者はいます。人間の言葉は全員が理解出来ます。理解出来る者だけで神域を降りてきました」


「あの、ドラゴンさんは人間の姿になれると聞きましたが、あなたはバカだからなれないのですか?」


――ぎゃあぁーー!!


ジュラさん、言い方ーー!!


――いや、ジュラさんは、わざと挑発していますね。


「おまえ、小娘!! まじ殺すぞ!! 良く見ておけ!!」


「きゃっ!」


ジュラさんは、またわざとらしく悲鳴を上げて、僕に抱きつきました。

その間にでかいトカゲは女の子に変身しました。


「えーーっ!!」


全員が驚きの声です。

ドラゴンが、銀髪の薄らピンクの入った長い髪の美少女になったからです。


「なにがえーーじゃ!! 小娘ーー!! 神獣王様から離れぬかーー!!!!」


「えーーっ!!」


また全員が驚きの声を出しました。


――うん、どうやら僕は知らないうちに神獣王になっていたようです。

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