「くっくっく」
「ぎゃははははははは」
最初は我慢しようとしていたようですが、兵士とステラさんとメイドの4少女がとうとう笑い出しました。
「ちと、聞くが、デミル殿。神域でずーっと5年間も暮らしていたと言う事じゃが、恐ろしくは無かったのかのう」
「ぜんぜん恐くなどありませんでしたよ。動物たちは大人しいし、森は豊で静かに暮らせました。神域の動物たちが暴れているのなら僕が行きましょう。きっと大人しくなるはずです」
「あ、あのぅ。あなたは本当に逃亡勇者様なのですか?」
兵士が聞いて来た。
「ふふ、僕は人間がなぜか恐いのですが、動物は全く恐くありません。お食事を食べさせて頂きましたので、お返しにひと働きしましょう」
「なに、ほんとうか? それは心強い!!」
じいさんが心からうれしそうに言った。
そんなに神獣が恐いのだろうか?
「あの、私も同行してもよろしいですか?」
ジュラさんが目をキラキラさせて聞いて来た。
丁度、動きやすそうな服も着ています。
まるで、こうなる事が分かっていたような服装です。
「構いませんよ。じいさん、馬車とかはあるのですか。あるのならステラさんとメイドさん達も一緒に行きましょう」
「な、なんだってぇー!! それはいけない! 危険すぎる。相手は神獣ですぞ!!」
兵士は驚いて、怒ったような口調で大反対した。
まてまて、神獣ってそんなに恐ろしいのか?
僕にとっては、犬や猫程度にしか感じ無かったぞ。
全く別のものなのか。神域にいるのが神獣なら、僕が普通に捕まえて食っていた奴らのはずだ。
まさか違うのか? 少し不安になってきた。
「よい!! わしも同行しよう。きっと面白い物が見られるはずじゃ」
爺さんが兵士を一喝した。
兵士はまだ何か言いたそうだったが、爺さんに言われたら黙るしかないようだ。
兵士を一喝すると、爺さんはワクワクする子供の様に、いそいそと戦支度をはじめた。
「では、いこうかのう」
じいさんとジュラさんと兵士は、騎馬に乗った。
僕は馬に乗ったことが無いので馬車に乗せてもらった。
馬車にはメイドの4少女、御者はステラさんがするようだ。
ステラさんは、なんでもできるなあ。
なにげに1番すごい人のような気がする。
「うおおーーーっ!!」
「ぎゃああぁぁーーっ!!」
しばらく道を走ると喚声が聞こえてきた。
「おおおっ!! モルガ騎士団長!!」
どうやら、この同行していた兵士は騎士団長でモルガという名前らしい。
騎兵が1騎モルガさんに近づいて来た。
ボロボロの姿だ。
――えーーーっ!
まてまて、神獣にそんなにボロボロにされたのぉー?? ちょっと待って、それはきっと僕の知らない神獣かも。
いまさら後悔した。
たぶん、僕の知らない暴れん坊の神獣だ。
来なければ良かった。
僕がそんなことを心で考えているとは知らない、美少女メイド4人が僕の顔を期待の目で見てくる。
「状況は?」
「はっ、既にほぼ全滅です」
――えーーっ!
僕は驚いた。
仕方が無いので、こっそり馬車の窓から状況をのぞいてみた。
――えーーっ!
やっぱりだ。
やっぱり、あいつら、僕の知っている神獣だ。
僕が神域で暮らしていたときに、僕の家のまわりに住んでいた奴らだ。
なら、何も恐れることは無い。
「みんな、ちょっと僕は行って来る。ここで大人しく待っていて下さい。危ないのでここから出てはいけませんよ」
美少女4メイドに少しかっこうをつけて言ってみた。
「はいっ!!」
美少女メイドさん達は、上目遣いで良い返事をした。
ふふふ、本当は全然危なくありませんよ。
あいつら程度なら、むかって来ても瞬殺出来ます。
余裕です。そうですねえ、日本で例えるなら、蚊ンスをつぶす程度です。
「ステラさんも、中で窓から見ていてください。危険ですので馬車からは出ないでください」
「はいっ!!」
ステラさんも素直に返事をしてくれた。
頭の良さそうな、社長秘書のような美女だ。
「ジュラさん、じいさん。行ってきます。2人もここから動かないでください。危険ですからね」
ふふふ、危険を強調しておいた。
それだけ言うと僕は走りだした。
後ろをモルガさんとボロボロの騎兵と、じいさんとジュラさんがついてくる。
って、あんたら、今ついて来るなって言いましたよね。
聞きゃあしねえ。
僕は走る速度を上げた。
馬では、追いつけないようだ。
僕が4人を引き離し、戦っている兵士と神獣の所に近づいた。
「…………」
戦場と化していた荒野が、静まり返った。
まるで戦場が凍り付いた様に動きを止めた。
そして、視線が僕に集中する。しばらく時間がとまった。
僕の姿を見て、神獣達が平伏しているのだ。
「す……すごい」
追いついてきたジュラさんが、小さな声で言った。
僕は声を出せないでいた。
一体何事が起きたのだろうか。
そういえば、食べようとして剣を振り上げた時に、神獣達が命乞いのためか僕に近づいて平伏する事があった。
僕も鬼じゃ無いから、その都度見逃していた。
窮鳥懐に入れば猟師も殺さずと言うことわざの実行をしただけだ。
神獣王だけは最後まで、平伏はしなかったなあ。だから食べたけど。
「むう、すごい光景じゃ」
じいさんが、驚きの表情をしている。
「お爺さま、見てください。ドラゴンもいます」
「むう、本当じゃ」
「ドラゴンは、頭が良いと聞きましたが、話ができるのでしょうか? それともこのドラゴンはバカだから話せないのかしら」
「なんだとー! 小娘ーー!! あんまり、なめとると殺すぞ!!」
「きゃっ!」
いつの間にか、ジュラさんは僕のすぐ後ろに来ていて、僕に捕まって悲鳴を上げた。
「うわぁ、すげーー。とかげがしゃべったぁーー!!」
僕は驚いて声が出てしまった。
でかいトカゲが、悲しそうな目で僕を見た。
「私だけではなく、この中には話す事が出来る者はいます。人間の言葉は全員が理解出来ます。理解出来る者だけで神域を降りてきました」
「あの、ドラゴンさんは人間の姿になれると聞きましたが、あなたはバカだからなれないのですか?」
――ぎゃあぁーー!!
ジュラさん、言い方ーー!!
――いや、ジュラさんは、わざと挑発していますね。
「おまえ、小娘!! まじ殺すぞ!! 良く見ておけ!!」
「きゃっ!」
ジュラさんは、またわざとらしく悲鳴を上げて、僕に抱きつきました。
その間にでかいトカゲは女の子に変身しました。
「えーーっ!!」
全員が驚きの声です。
ドラゴンが、銀髪の薄らピンクの入った長い髪の美少女になったからです。
「なにがえーーじゃ!! 小娘ーー!! 神獣王様から離れぬかーー!!!!」
「えーーっ!!」
また全員が驚きの声を出しました。
――うん、どうやら僕は知らないうちに神獣王になっていたようです。