「神獣王様、勝手に神域を出てもらっては困ります」
銀髪美少女が言います。
やばい、かわいい。
でも、本当の姿はオオトカ……じゃない、ドラゴンかぁー。
「ねえ君。僕は王様なのに我がままは言えないの? 僕は世界を見て見たい。そとで暮らしてみたいんだ」
「はっ!? えーっと!! まず、私の名はシエンです。もし、神域を出られるのなら、護衛ぐらいは付けていただかないと困ります」
「なるほど、じゃあ、護衛を付けるからいいよね」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!!」
ここにいる神獣達全員が喜んでいる。
「まさか、全員が護衛になるつもり?」
「もちろんです。外の世界はその位危険です」
なんだとー。
こんな猛獣をゾロゾロ引き連れて生活は出来ない。
なんとかしなければ。そうだ!!
「うーーん、それはシエンちゃんが滅茶苦茶弱いと言うことですね」
これで、どうかな。
「な、何を言われますか! 私の強さは、世界に悪名を鳴り響かせる黒龍の次の強さです」
「そ、それなら、護衛はシエンちゃん一人でいいのじゃないかな? それとも一人では恐いのかなあ」
「こ、こわいですってーー!! お前達は全員神域へかえれーー!! 神獣王様の護衛はシエン一人で大丈夫じゃーー!!」
「えええぇぇぇーー!! シエン様それは横暴だーー!!」
他の神獣達が不平を言い出した。
「ふふふ、ならば、わらわと勝負をしてみるか?」
シエンちゃんが顔に影を落とし凄んだ。
僕にはかわいいとしか思えないが、神獣達はすごすご森を目指して帰って行く。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
神獣達を見送っていると、後ろから悲鳴が聞こえた。
「あのー、ジュラさん、どうしたのですか」
後ろで驚いている人の中から、ジュラさんを選んで聞いてみた。
「そ、空を見てください!!」
空を指さすジュラさんの手が震えている。
「ちっ!!」
シエンちゃんが、空を見て顔をしかめて舌打ちをした。
あんた、美少女なんだから、そんな顔はしないでほしいなあ。
「ぐおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーー、きさまあぁぁぁぁーーーーー!!!!」
上空から、重低音の恐ろしい声がする。
「こ、こここ、こ、黒龍です。厄災の黒龍でーーす」
全員が、震える声で言いました。
荒野に真っ黒な龍が降り立った。
「きさまぁー、勝ち逃げは許さんぞーー!!」
「へっ!? 勝ち逃げ??」
じいさんが、変なところから声を出した。
「ああ、あいつ、五年くらい前に魚を捕っていたら、襲いかかって来たから、びっくりして岩を頭にぶつけてしまったんだ。そしたら、でかいたんこぶを作って、泣きながら帰っていったんだ」
はじめて、神域について数ヶ月後に川で漁をしている時にこいつとは出会った。
いきなり襲いかかって来たので、持っていた象ぐらいの岩を本気で投げたら見事に頭に当たった。
岩は、恐ろしい爆音を上げて粉末になった。
この黒龍はそれでも死ななかった。驚くほどの石頭だ。
でも、みるみるたんこぶが大きくなって、頭が2つになったかと思ったなあ。
「う、うそをいうなーー!! ちょっと涙ぐんだだけだーー!! きさまぁーーぜったいゆるさーーん!!」
「ふむ、と言う事は、たんこぶは、本当の事なのかのう」
「くそ!! あの時は油断をしていた。今日はあの時とは違う、最初からドラゴンブレスを使わせてもらう。かくごしろ!!」
僕は、前のように岩を探した。
だが、ここは神域の渓流じゃない。平地の荒野だ。
てごろな岩は近くには無かった。小石ぐらいしか無い。
やばい、いきなりピンチだ。
「い、いかん。デミル殿、漆黒の魔王剣を使いなされ」
僕は、爺さんに言われるまま漆黒の剣をかまえた。
まったく、この剣は重いなあ。
「ひゃはははははは、死ねえぇーーーー!!!! ドラゴンブレスーー!!!!」
黒龍は口から火炎を吐き出した。
剣では、やはり火炎を防ぐのは無理だろう。
これはやられてしまった。
やけどで済めばいいのだが。
――!!??
だが、その炎は僕の所まで来なかった。
火炎が黒龍と僕の中間ぐらいで、漆黒の剣に吸い込まれるように消えていく。
「ふははは、デミル殿、その剣は魔法も、炎や風などの攻撃も吸収することができるのじゃ。そのうえ、吸収した攻撃を、大地の魔王と呼ばれた先代魔王の重力魔法に返還して攻撃できるのじゃ。デミル殿、フルグラビティーと言って剣を振り上げるのじゃ!!」
「フ、フルグラビティー!!」
なんだか、少しはずかしい。
僕は中年のおっさんだぞーー!!
だが、僕が言うと漆黒の剣から衝撃波の様な物が広がった。
広がった範囲が、重力魔法の影響範囲なのか、回りの全員が地面にはいつくばった。
黒龍は何とか四肢を踏ん張り耐えているが、長い首が踏ん張れない。
頭が地面に付いて、僕の前にある。
黒龍は、ばつが悪そうにニヤリと笑った。
僕は振り上げた剣を黒龍の頭に降ろした。
軽く降ろしたつもりだが、重力に引っ張られたためか恐ろしい勢いになった。
まるで、除夜の鐘のような音が数倍の音量であたりに響いた。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!」
相変わらず、すごい石頭だ。漆黒の剣でも切り傷すら付かない。
でも、みるみるたんこぶが出来て、大きくなっていく。
剣を振り降ろすと重力魔法の効果が切れるみたいで、全員の体が自由になったようだ。
黒龍は、体が自由になると一目散に神域へ飛んで行った。
「き、きさまーー!! 憶えておけよーー!!」
やっすい捨て台詞だけは残していった。
「すごい!! 神獣王様はすでに黒龍と戦っていたのですね」
シエンちゃんがヒトミをキラキラさせて見つめて来る。
「やっと、静かになりましたね」
荒野から黒龍と神獣が立ち去り、さっきまで悲鳴を上げていた兵士達は、大地に倒れたまま動かない。
「ふむ、じゃが、これは困った事になったのう」
じいさんが情けない顔をしている。
「どうしたのですか?」
「ふむ、この者達は、街の警備をしている兵士達じゃ。全員負傷して動けないようじゃ。これでは、街の治安が守れない。こまったー、こまったのーー」
うーーむ、なんだかうさんくさい困り方だ。
「お爺さま、この責任はデミル様とシエンちゃんにありますわ。ここは責任を取ってもらうべきかと思います」
「おおっ!! それがよい!! それが良いじゃろう!!」