「はあぁぁーーっ!!」
いやいや、お断りだ。
僕は顔をしかめて、この世の終わりのような表情をした。
絶対やりたくない。
と、思ったが警備の仕事だって。
警備の仕事なら本職じゃ無いか。
「まあ、デミル殿のことじゃから。断るとは思うが――」
僕はじいさんの言葉を手のひらでさえぎった。
そして、人差し指を立てて左右に振りながら「チッチッチッ」と言った。
ジュラさんとシエンちゃんが、キラキラした目で見てくる。
ステラさんと4人のメイドちゃんも同じ目だ。
はーーっ、僕の人生で一番光輝いている瞬間じゃ無いだろうか。
「ふふふ、警備の仕事ですか。ならば仕方が無いですね。お引き受けいたしましょう」
「なに、それはありがたい」
じいさんの喜び方がおかしい。
本気で心の底から喜んでいるのがわかる。
なんだか、嫌な予感がする。
「デミル様、いま街はとても治安が悪いのですよ。まだ、赴任してから間もないのもあるのでしょうけど、殺人事件や暴動が、日常茶飯事のように起きています。毎日、兵士に死者が出るほどです」
「ななな、なんだってーー!!」
ジュラさんもっと早く言ってください!!
そんな大変な警備の仕事なんて聞いた事が無いよーー。
よし! 断ろう!
「ふふんっ!! 神獣王様にかかればそんな奴らはすぐに皆殺しじゃ!!」
がはっ!!
バカヤロー!!!! 何てことを言うんだー! そんなことを出来るかーー!!
余計な事を言うんじゃねえよーー。
シエンって奴は結構バカなのかー!?
こんなに可愛い顔をしているのにーー!!
「では、デミル殿の気が変らんうちに、兵士の登録をしよう」
あかーーん。
兵士になったら、警備員じゃないじゃないかー。
もはやそれは兵士だよー。
「いや、僕は兵士にだけはなりたくありません。だから、それだけはお断りいたします」
「そうか。それは残念じゃ。じゃがそれも仕方が無いじゃろうのう。敵前逃亡のトラウマがあるのじゃからのう」
がはっ!!
くーーっ!!
まあ、なんでもいいや。
それで兵士にならなくてもいいのならそれでいい。
これで、物騒な警備の仕事の話は無しだ。
「では、残る方法はギルドに登録して、警備の仕事を受けるしかないですね」
げっ!!
まだ、方法があるのーー!
「ふむ、それしか無いようじゃのう」
まてまて、勝手に僕抜きで決めないでほしいなあ。
「それしか無いのなら、すぐに行くぞ!! ぼさっとするな!! 案内しろ!!」
おーーい!!
シエンちゃん、僕はどちらかというと行きたくないのですが。
それと、シエンちゃん、あんた美少女なんだから、もうちょっと可愛くして欲しいなあ。おじさんとしては。
「では、お爺さま。私はデミル様を案内してきます」
ジュラさんは爺さんに頭を下げると、僕の手を取ってくれた。
――うおぉぉーー!! 初めて女の人と手をつないだーー!!!!
しかも滅茶苦茶美女だーー。
――うおおぉぉぉぉーーー!!!
反対側の手をシエンちゃんがつないでくれたー!!
滅茶苦茶美少女だーー。
きっと、目が覚めたら守衛室の中なのだろうなあ。
「モルガ、この事は口外無用じゃ。兵士達にも徹底させよ!! もし秘密を漏らす者がいたら厳罰じゃ!!」
「はっ!!」
僕が舞い上がっている後ろで、爺さんが物騒な命令をしている。
まあ、僕のことが秘密にされるのならそれで良いのだけど、厳罰にするほどのことなのだろうか。
街に入る手前で、ジュラさんは頭を布でくるみ、口の前にも布を巻いた。
まるで忍者の様に顔を隠した。
まあ、領主の娘だから有名人なのだろうから仕方が無い。
そういえば服装は、お屋敷にいたときからこの服装だ。
たしか、ドレスが破れてから、この服装になっている。
それを見てじいさんは、さすがはルドジュラールじゃとか言っていたぞ。
自分の孫にルドジュラールじゃとか呼ぶかなあ。
僕にフルネームを教えようとしたのか?
違う違うそこじゃ無い、服装だ。
着替えたときから、ギルドへ行くのが計画的だったということじゃないだろうか。考えすぎかなあ。
街の門をくぐるとすぐに大きな建物がある。
ジュラさんはまるで自分の家のように入って行く。
内部は、古くさいが広い、ありきたりのギルドだ。
半分が酒場のようになっていて、がらの悪い連中が昼間から酒を飲んでいる。
ジュラさんはまよわず受付に歩いて行く。
受付嬢は、これまた美人だ。そして巨乳だ。
ジュラさんは口元の布を少し下げて、受付嬢に顔を見せている。
――まてよ
おかしい。
これが夢なら、おかしい。
なぜなら僕は貧乳のロリ顔好きだ。
なんなら、シエンちゃんも美少女だが、まだロリが足りない。
これが、夢ならおかしい。全員美人だが僕の理想では無いのだ。
リアルすぎる。
「シエンちゃん、ちょっと、僕のほっぺを叩いてくれないかなあ」
「は、はい」
シエンちゃんが、恥ずかしそうに頬を赤くして返事をした。
すごく背筋が寒くなった。
「ギャアアアーーー!!!! いでーーーーっ!!!!」
こ、こいつ!! グーで思い切りなぐりゃあがったー。
ドカーーンと大きな音がして僕は吹っ飛ばされた。
打ち下ろし気味に殴られたから、僕の体は床でバウンドして、高い天井に当たりそうになった。
人間の体がこんなにボールのように弾むとは驚きだ。じゃ、ねーーんだよ。
いてーじゃねーかーーーー!!!!
――はっ!! 夢じゃねえ!!
「あのー、ル……」
受付嬢はジュラさんをどう呼んで良いのか言いよどんでいる。
「ジュラです」
ジュラさんは、ルドではなくジュラと言った。
まあ、ルドと言えば、まわりに身元がばれてしまうのでそう言ったのだろう。
「ああ、ジュラ様、この方達は何をしているのですか。バカなのですか?」
受付嬢は驚いた顔をしている。
ジュラさんも余りの出来事に驚いている。
「だれがバカじゃーー!! わらわをバカにする奴はゆるさんぞーー!!」
「いってーー」
「うほっ! さすがは、しんじゅう……ムゴムゴ」
神獣王といいそうになったシエンちゃんの口を押さえた。
「僕はデミルです」
シエンちゃんの目をにらんでそう言った。
「さすがは、デミル様じゃ。わたくしの、手加減したとはいえ、攻撃に無傷とはお見それいたしました」
シエンめー…………、えっ? あれで手加減していたの?
恐ろしい攻撃だ。
ひょっとして、シエンちゃんって強いのかなあ。
今度からはジュラさんに御願いしよう。
はーーっ、死ぬかと思った。あぶねー、あぶねー。