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0011 軽蔑の笑い

「おい! 見ろよ。あいつ」

「なんだ、あれ」

「みっともねえ、髪の毛がガタガタで段々になっているじゃねえか」

「髪だけじゃねえ、見ろよヒゲも段々だ!」

「ひゃはは。なさけねえ奴だ」

「くっくっくっ」


どうやら、今のシエンちゃんとのやりとりで、僕はギルド中の関心を集めてしまったようだ。

失笑を浴びせられているようだ。

まあ、そんなことはどうでもいい。

失笑なんて慣れている。


それにこのヒゲも、髪の毛も気に入っている。

あのかわいい4人のメイドちゃん達が頑張ってやってくれたものだ。

お前達に笑われるのなんて気にならない。


「おい!!」

「見ろよ!!」

「あれは勇者の剣!!!!!!」

「勇者の剣だぞ!!!!!!」

「まさかあいつ、5年前に敵前逃亡して行方不明になっていた勇者じゃねえのか」

「そうだ、間違いねえ」

「あの情けねえ勇者だ」

「人間の世界に帰れねえもんだから、こんな所に来たんだ」


せっかく、じいさんが口止めしてくれたのに、もうばれてしまった。

そうです。僕がその情けない勇者です。

ギルド中が僕の話題で持ちきりになった。


「あの、ジュラ様。今日は何をしにきたのですか?」


受付嬢がジュラさんに質問した。


「はい、冒険者登録に来ました」


「では、こちらにお名前を記入してください」


「あの、これはFクラスの登録証ではありませんか」


「はい、新規の登録はFクラスからです。ご存じとは思いますがそれが決りです」


おおっ!! これはいい。

Fクラスは、薬草採取と街の雑用が仕事のようだ。

Eクラス以上にならないと、街の警備の仕事は出来ないらしい。


「そうですか。残念ですがジュラさん、決りでは仕方がありません。Fクラスで登録しましょう」


そして、ダラダラして、Fクラスから昇級しなければ、恐ろしい警備の仕事はしなくてもいいということだ。

これは、ラッキーかもしれない。


「うふふ、では飛び級の試験を受けさせてください」


げっ!!

そ、そんなのがあるの?


「うふふ、そう来ると思っていました」


受付嬢は楽しそうに言った。


「ジュラさん。そんなあくどいインチキはやめておきましょう。ちゃんとルールは守らないといけません。決まり事というのは守るためにあるのです」


僕がそう言うと、受付嬢があわれむような目で僕を見た。

そして、受付嬢のその表情をみると、ジュラさんとシエンちゃんが、さも面白そうに受付嬢を見つめた。


「あの、あくどいインチキでは、ありません正式な手続きです。ですが、試験を受けていただかないといけません。それに合格すればDクラスでの登録になります」


「試験、どうにも受かる自信がありません。Fクラスで御願いします」


僕は警備の仕事が嫌でそう答えた。


「デミル様、試験なんて簡単なものです。試験官に実力を見せればよいだけです。デミル様も、私も、シエンちゃんも楽々合格できますわ」


「では、案内いたします」


受付嬢がカウンターから出て来て僕達の前を歩きだした。

いやいや、僕は受けたくないのですけどー。

Fクラスで全然構わないのですけどー。

だめだー! 試験を自然と受ける形になってしまったー。


ギルドの階段下の大きなドアを出て、もう一つ扉をくぐるとギルドの裏庭に出た。

何人か、試験を受けているようだ。

その後ろに並ばされた。


僕が裏庭に出ると、野次馬がゾロゾロついて来ていた。


「試験は、あのAクラスの試験官と模擬戦をしてもらいます。実力がDクラスにふさわしいと判断されれば合格です。順番が来るまでここでお待ち下さい」


受付嬢がそう言った。

Aクラスの試験官はひげもじゃのごっついおっさんだ。

やべーー!! こえーー!!

もう、逃げ出したい気分だよ。


「不合格だ!! そんな腕でDクラスの仕事を受ければ死ぬぞ!! 次!!」


試験官が、次々不合格にする。

Dクラスの仕事で命を落とすのかよ。

けっこうハードな仕事なんだなあ。


「つぎーー!! つぎは誰だーー??」


全員の視線が僕に集った。

ああ、僕かーー。嫌だなあ。


「ぼぼぼ、ぼー僕です」


僕は皆の視線を感じて上がっている。

それに、無理だ。

Aクラスの試験官の顔が恐すぎて全身が震える。


「おい、素手でやる気か! そこの木剣を使うんだ!! 見ていなかったのか! 馬鹿め!! 不合格にするぞー!!」


試験官が怒鳴っている。

映画で見た鬼軍曹みたいだ。

こえーんだよ!!。

僕の心臓は小動物並なんだ。


「ぎゃははははははーーーー!!」


野次馬が笑っている。


「おい、おい。はつかねずみのように震えているじゃねえか」

「試験官、手加減してやれよーー!! そいつは敵前逃亡勇者だ。本気を出すと殺してしまうぞーー」

「ぎゃはははははははーー!!」


野次馬が、ヤジを飛ばしてくる。

なんと適切なヤジだろう。

僕は剣立てにたてかけてある木剣を一つ手に取った。


「なに? あんたがあの敵前逃亡勇者なのか?」


試験官が聞いて来た。


「まあ、そうです。間違いありません。僕があの敵前逃亡勇者です」


はああぁー、僕はこの世界でずっとこの呼ばれ方を一生背負っていかないといけないのかー。


「そうか。あんたがあの情けねえ敵前逃亡勇者様か。このジュラール領では、領主様があんたを恩人だと言っている。だが、俺達にはそんなことは関係ねー。試験は手を抜かねえから、恨まねえでくれ」


試験官はそう言うと剣を構えた。

あーーだめだ。

恐すぎる。

僕は震えてしまって剣を構えることすら出来なかった。


「あのーー。すすす、済みませーーん。棄権します」


「ぎゃはははははははーーーーーーーー!!!!!」

「やっぱりだーー!! ここでも勇者様は逃げ出すつもりだーー!!!!」

「ぎゃはははははははーーーーーーーー!!!!! さすがは敵前逃亡勇者様だーーーー!!!!」

「お、面白すぎるぜーー!!」

「ぺっ!! 情けねえ勇者だぜ!!」

「くそが!! 死ねーー!! くそゆうしゃーー!!」


笑い飛ばす野次馬の中に、あきらかに僕を殺したいほど軽蔑している者がいるようだ。

でも、仕方が無い無理なものは無理だ。


「うふふ、思った通りですわ」


ジュラさんは、うれしそうに笑っている。


「あの、これでは、Fクラスの登録すら無理ですけどよろしいのですか」


受付嬢が心配そうにジュラさんに質問した。


「うふふ、デミル様は、Aクラスの試験官などと戦うと、殺してしまうと思って恐ろしいのですわ」


えーーーーっ!!

全然そんなことはありませんよ。


「えっ!?」


受付嬢が、滅茶苦茶驚いている。

そして驚く受付嬢に、ジュラさんは裏庭の片隅にある物を指さして質問した。


「あれで、試験を御願いします」


「あっ、あれですか? でも、あれはAクラスで実績を上げた方が限定解除をするための試験用です。Aクラスで実績を上げた人でも重傷を負うような試験です。それこそ死んでしまいますよ」


受付嬢が少し震えながら言いました。


「デミル様、あれならどうでしょうか?」


ジュラさんはこうなる事を見越していたようだ。


「あれなら、ぜんぜん恐くありません。安心して下さい大丈夫です」


僕は余裕で答えた。


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