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0013 精霊の加護

フラフラしながらもゴーレムの攻撃を1回、2回とよけていく。


「おおっすげーー!!」

「おおお、またよけたぞ!!」

「逃亡勇者のくせに!! すげーじゃねえか!!」


フラフラしていても、ゴーレムの攻撃は見切ることができる。

足元がだんだんしっかりしてきた。

僕は、ゴーレムの何度目かの攻撃をよけて横に回り込んだ。

そして、攻撃の軸足に拳を合わせた。

まだまだ100パーセントの攻撃ではないのだが、ゴーレムの足を破壊するのには十分だった。

大きな音と共にゴーレムの軸足は砕けた。


普通なら、砕けた足の方に倒れるのだが、このゴーレムは重力魔法のためなのか、壊れた足が無くなると重いおもりが取れたように、ぐらりと反対の方へバランスを崩した。

ゆっくり地面に傾いていく。

地面に倒れると、土煙をあげた。

僕はすでに、倒れた時に頭が来る位置に移動を終わらせている。


ドンという音と共にゴーレムの頭が吹飛んだ。

まるで、煙のように粉末になって、モクモクゴーレムの頭だったものが空気中をさまよっている。


「ふーーっ!! 危なかった!!」


僕は勝ちを確信し、大きくため息をついた。


「いけません!! デミルさまーー!!」


ジュラさんの声がした。

僕は既にゴーレムに背を向け、ジュラさんとシエンちゃんの方に向って歩き出していた。

僕は、大きく弧を描きながら移動をして、真後ろにゴーレムがいると想定して回り込んだ。

ゴーレムは2本の手と1本の足で器用に移動して、頭を吹飛ばされたまま、僕に体当たりをしようとしていたようだ。

うまく回避できたようだ。


「ふふふ、連邦の白い奴のように、頭はただのメインカメラだったようだな」


僕は、ゴーレムの体当たりをよけて格好をつけて言ってみた。

誰からも何の反応も返ってこなかった。

どうやら、こっちの世界ではあの白いロボのアニメはやっていなかったようだ。

全力で突進していたゴーレムは両手でブレーキをかけて、体勢を変えようとしたが、それが動作を止める事になった。

僕はそのスキを逃さず、ゴーレムの胴体の真ん前に移動を終わらせた。


両足に力を入れ踏ん張る。

大きなスキのおかげで、5年間練習した正拳突きを練習のまま完璧に打ち出すことが出来た。

ドンという音と共に衝撃波が広がる。同時に地面が大きく震動する。

その衝撃波の後ろに、巨大な砂埃が恐ろしい勢いで付いていく。

まるで、砂漠の砂嵐のようだ。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」

「ぐわあぁぁぁーーー!!!!」

「目がーー!! 目がーー!!」

「きゃあああああああぁぁぁーーーーー!!!!!!」


ギャラリーから悲鳴が上がる。

ビュービュー吹く風に砂粒がまじり、体に当たって痛いのだろう。

目に入った人もいるようだ。

女性はスカートが大変な事になっている。

受付嬢さんは、おっぱいがありえないぐらい揺れている。


僕は砂埃の中を今度こそ勝利を確信して、ジュラさんとシエンちゃんの方に歩きだす。

砂埃の中に、2人のシルエットが見えてきた。


――あっかーーん!!


銀髪美少女のシエンちゃんが、大変な事になっている。

真っ白なパンツが丸出しだ。真っ白なパンツが、銀色にピカピカ輝いている。

しかも、隠そうともしていない。

あんた美少女なんだから、少しは恥じらってください。そのほうが絶対萌えます。


残念なことに、ジュラさんはズボンなので今回は無しです。

それはそれで、ざんねんだ。


「デミル様!!」


ジュラさんとシエンちゃんの2人が同時に僕を呼んだ。

そして、ゴーレムの方向を指さしている。


――えーーっ!? まだ死んでないのーー!!


僕は仕方がないので後を振り返った。

砂煙がうすらぐと、ゴーレムの胴体の所に妖精のようなものの、シルエットが浮かんで見える。


「見事じゃ!!」


「うわっ、しゃべった!!」


「言葉ぐらい知っておるわ! なめるな! わらわは大地の精霊じゃ。ゴーレムには大地の魔王の重力魔法がかかっていたが、ゴーレム自体はわらわの力じゃ。既に大地の魔王が死んでしまったから、これよりそなたの守護者となろう。ふふふ、まさかわらわのゴーレムを素手で倒すとはのう。恐れ入ったわ」


大地の精霊の姿は、焦げ茶色のレオタードを着た茶髪の幼女のような見た目だ。

背中にトンボのような羽が生えていて、それで空中に浮かんでいるようだ。


「すげーー!! 精霊様だ!! 初めて見た!!」

「ゴーレムをたおすなんて、逃亡勇者すげーー!!」

「すげーぞーー!! 逃亡勇者!!」

「逃亡勇者ーーーー!!」

「逃亡勇者ーーーー!! すげーーぞーー!!」


ギャラリーからの、歓声が段々と大きくなっていく。

だが、逃亡勇者! 逃亡勇者! って、うるせえんだよ!!


「むっ!? おぬし、まさか……」


大地の精霊が、僕に近づいて来て驚いた表情をした。


「えっ??」


「ふふふ、おぬし、既に森の精霊の加護を受けておるのか? 大したものじゃ森の守護者神獣王も倒したのか」


「えっ??」


「知らずに倒したのか。大きな鹿のような奴じゃ。銀龍より強かったはずじゃが」


「いえ、神獣王は倒して食べましたが、その、森の精霊の加護は知りませんでした」


「なんだ、森の精霊と話していないのか。おぬしの右肩に座っておるぞ」


「にょーー!! なんでばらすニョー!!」


今度は緑色の妖精の様な、森の精霊が姿を現した。


「かわいいなあ」


猫耳の緑色のレオタード幼女だ。


「にょーー!!」


真っ赤な顔をすると、姿を消した。

恥ずかしがり屋なのだろうか。


「ふふふ、森の精霊は、素早さと治癒の力を授ける。わらわは、力と防御じゃ。むっ!?」


「どうしました」


「おぬしの後ろにいるのは、仲間か?」


「はい」


「そっちのズボンの女は、弱いのう」


「えっ!? ジュラさんですか」


「そうじゃ、そっちの銀髪のほうは、幼い顔をしているが、えげつないほど強い。それに比べるとジュラは弱すぎるぞ。すぐに殺されてしまいそうじゃ。良し決めた。わらわは、おぬしの守護者じゃが、ジュラにわらわの力を与えよう」


「えっ?? あ、ありがとうございます」


うん?? ジュラさんの鼻がピクピクしている。

うれしいのだろうか。

じゃあ、僕が「ジュラさんと呼んでもいいですか」と聞いたときのあれは喜んでいたのだろうか?

ひょっとして、ジュラさんは喜ぶと鼻がピクピクする人なのかも知れない。憶えておこう。


「ふむ、これでジュラも、銀髪娘にも遅れをとらんじゃろう。だが気を付けろ! この世界には、まだあと2人恐ろしい精霊がいる。火と水の精霊じゃ。あの二人は、人間の味方ばかりをする。すでに誰かの加護をしているかもしれんからのう」


なんだってーー!!

また、恐ろしい情報だよ。

もう僕は人間の世界とは関わり合わないでおこう。

どうせ、おれは人間の世界では敵前逃亡勇者で犯罪者だ。捕まれば死刑だ。


「皆の者ーー!! 聞けーー!!」


ジュラさんが、不意にギャラリーにむかって叫んだ。

いったい、何を言う気なのだろうか。

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