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0014 隠蔽工作

ジュラさんは顔を包む布をバサッと取ると顔を全員に見せた。


「おっ! おおっ!!」


ギャラリーの冒険者から声が漏れた。

ジュラさんはその位の美女だ。


「わが名はルドジュラール!! ここには領主の祖父ディアムジュラールの名代として参った。ここで見たデミル様の強さについては、領主ディアムジュラールの発表までは口外無用とする!! もし、このことが領主様の発表前に、外部に漏れた場合は必ず漏洩者を割り出し厳罰にする。処刑されるものと思えっ!!」


「なんだって、なんでそんなに厳罰なんだ?」

「それに、そもそもあいつは本当に領主の名代なのか?」

「あれは、ルド様だ。間違いない領主様の孫娘だ」

「うむ、そうだ。もとA級冒険者のルド様だ! 間違いない!」


ギャラリーの中には、ジュラさんの事を知っている者がいるようだ。


「サイアさん、漏洩が発覚した場合、ここにいる皆の尋問をするので全員の名簿を作ってください」


「は。はい!!」


受付嬢が返事をした。

受付嬢の名前がサイアさんということらしい。


――ああ、そうか!


じいさんが兵士達に口止めしたのは、僕の存在じゃ無くて強さの方か。

たぶん、黒龍の撃退とかを隠蔽しようというのだろう。

でも何故、そんな必要があるのだろうか?

まあ、そんなことはどうでもいいさ。

おかげで、僕は「逃亡勇者で情けない奴」というレッテルのままでいられる。

むしろ好都合だ。


ジュラさんは、言い終わると再び布で顔を隠した。


「しばらく、時間がかかると思います。私達は食事でもして待ちましょうか」


ジュラさんが言った。


「おおっ!! 食事じゃと!!」


シエンちゃんの口からバタバタとよだれが落ちた。

って、おい!! シエンちゃん!!

あんた美少女なんだから、やめてほしいなあ。しかも量が多いし。

パンツの件といい淑女としての教育が必要なようだ。


「お、お待ち下さい。ゴーレムの復活を」


サイアさんがパタパタと走って来て後から声を掛けてきた。


「無理じゃ。材料は神域の超高度鉱石じゃ。おまけに魔王の魔法も一緒に飛び散った。復活は出来ん。ここでの限定解除の試験はもう出来ない。他所の街のギルドで受けてもらってくれ」


大地の精霊が言った。


「は、はい」


サイアさんの大きな胸を見ると。

じゃねえ、首からさげていた真っ黒だった水晶をみると、ガラスのようにすっきりとした透明になっている。


「さあさあ、行くぞ!! 行くぞ!! めしじゃ!! めしじゃーー!!」


シエンちゃんが僕とジュラさんの手を引っ張りながら言った。


「……ふーーっ!」


僕は大きなため息が出た。

シエンちゃんは見た目だけなら銀髪の超絶美少女なのに、なんだかなあ。


ギルドの建物に入り、奥のテーブルに座った。

ガランとしている。

まあ、それはそうか、いまは、裏庭の試験場の方に全員いるのだから。

注文はジュラさんが、カウンターで済ませてくれた。

しばらく待っていると、焼いた肉料理とコンソメのような黄色い澄んだスープとパンが出て来た。

肉のジューシーな香りと、スープと香辛料の香りがする。


「ホーーッ!!」


シエンちゃんが声を出して、ハエのように両手をこすって大喜びだ。


「どうぞ!!」


ジュラさんが言うと、シエンちゃんが料理にかぶりついた。

そのまま大きな口を開いて肉をかじっている。

野生児だ。


「うっまっ!! うまうま!!」


シエンちゃんは頬を大きくふくらませて、幸せそうに食べている。

ジュラさんはそれをうれしそうに見つめている。

僕も、一口スープを飲んでみた。


「ああ、うまい。ジュラさんさすがですね」


スープは、薄味になっている。

おやしきでの食事を憶えていてくれて、薄味で頼んでくれたようだ。


「いいえ」


ジュラさんは、そういいながら小鼻がピクピクしている。

どうやら、喜んでくれているようだ。

犬が尻尾を振っているのと同じ状態なのだろう。

ふむ、わかりやすい。

世の中の女性がみんなジュラさんのようにわかりやすいと苦労しないのだけどなあ。

僕はこうして、ジュラさんのポイントを稼いでいけばいずれ……


――やめよう! 無駄なことだ!


僕はまだ、女性に好かれたいと思っている様だ。

食事が、ちょうど半分ほど終わった頃にサイアさんが戻ってきて、名簿の写しと冒険者の階級章を渡してくれた。


「これは、違いますよ。僕の強さは極秘です。Fクラスに交換して下さい」


Sクラスの階級章だったので、交換を御願いした。

Sクラスって限定解除って事か?

あぶねえ、あぶねえ。

僕はFクラスでいいよ。まったく。


「で、でも、それでは、警備の仕事は受けていただけません」


ナイス! それで、ぜんぜん問題ありません。


「うふふ、それなら、Fクラスでも受けられるようにギルドのルールを変えて下さい」


えーーっ!! やばい!!


「ジュラさん、無理を言ってはいけませんよ。ルールなんてそう簡単にかわりませんよ」


「ああっ、なるほど、そうですね。それなら書き変えるだけです」


なにーーっ!!

書きかえるだけって!!

がっかりだよ。

どうでもやらなくてはいけなさそうだ。


僕が頭を抱えていると、ゾロゾロと裏庭の試験場から冒険者が戻ってくると満席になった。




「ひゃーーつかれたぜーーーー!!!!」

「やっと、めしだーー!!!!」


ギルドの入り口から、新たな仕事帰りの冒険者が4人入って来た。

階級章を見るとDクラスだ。

がらの悪い冒険者だ。人殺しの雰囲気がある。

僕は既にびびっている。

顔から冷や汗が出て来て、顔を下に向けて目を合わさないようにした。


そうさ、これが、ど底辺で暮らす、ダメダメおじさんの普通の状態だ。

映画や、アニメのようにかっこよくなんて出来ねえのさ。

戦争に出れば、敵前逃亡だってしてしまうのさーー!!

どうだー!! 情けねえだろう。かっこわるいだろーー!!

それが、僕なのさーー!!


「おいおい、満席じゃねえかー」


Dクラス冒険者のリーダーと思える、1番体の大きな男が言った。

4人は、テーブルに座る人を見ている。

そして、ニヤニヤしながらこっちにやって来た。

なんでだよー!! 目をあわせていねえだろうがよー!!


「おい!! 見ねえ顔だなあ!! 新入りかー?」

「ふふふ、ピカピカのFクラスの階級章だ!!」

「初々しいねえ!!」

「この、銀髪の美少女はまだ子供じゃねえか!! 顔中肉汁でべちゃべちゃじゃねえか」


「かわいいねえーー」


最後の「かわいいねえーー」は、4人で声をそろえて言った。

そして、一人が僕のスープ皿を取って、僕の頭にスープをかけた。


――すげーーっ!!


やることが、もう極悪人だよ。

ガタンと音を立てて、ジュラさんがイスから立った。

他の席の冒険者のイスの音も聞こえた。こっちは驚いて体がビクンと動いたのだろう。

ジュラさんの目は怒りに満ちあふれている。


「すすすっ す、すみません! すみません!! すぐに席をゆずるべきでした。すみません。お許し下さい」


僕は、ジュラさんの前に立って、その目をDクラス冒険者達に見えないようにかくした。

表情は布で隠れているので丁度よかった。


「まだ、ジュラさんとデミル様の肉が残っているのじゃーー」


「じゃあ、持って行こうか」


シエンちゃんが、肉に手を伸ばすとDクラス冒険者のリーダーが、肉をナイフで刺して動かせないようにした。


「な、何をするのじゃ!!」


シエンちゃんが怒りの表情でリーダーをにらんだ。


「シエンちゃん行こう!!」


僕はとっさにあわてて、シエンちゃんの手をつかんでその場を立ち去ろうとした。


「ぎゃーーっ!! 痛いのじゃーー!! デミル様が怒っているのじゃーー!!」


ギルド中にガタンという音が響き渡った。

どうやら、シエンちゃんが言った言葉に、ギルド中の冒険者が驚いたようだ。

シエンちゃんの言った、僕が怒っていると言う言葉に過剰に反応したみたいだ。

違いますよ、怒っていません。

ちょっと、シエンちゃんの手を握る力加減を間違えて強く握りすぎただけです。


「ひゃははは、おい!! 待て!!」


帰ろうとする僕達を、リーダーは呼び止めた。

おいーーっ!!

まだ何かあるのかよう。

ジュラさんとシエンちゃんが怒っているよぉー。もうぉー。

猛獣2人を怒らしたら知らんぞぉーー!!

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